2018-10-10

anond:20181010183113

ただ今集中砲火浴びてるジェンダー論や法学(右側の政治的理由も相まってるのが気持ち悪いし、理系偏見査読英語言うのは周りにも飛び火しそうで迷惑だってのは理解したが)、あといろいろ不信感ためてるであろう政治学あたりに関しては腐敗の疑いが払拭されるような話が全然されてないし、同じ文系でまとめちゃわないで、そのへんの奴らとははっきり線引いて、理系とは違って査読英語至上主義じゃないけど、「まともな人文学」はちゃんとやってるって立場にしたほうが政治的に有利なんじゃないかと思った。

かい点を指摘しておくと,政治学社会学は「文系」ではあるが「人文学」ではない.「文系」の学問は大雑把に「人文学」「社会科学」の2通りに分けられることになっており,文学哲学歴史学は前者,法学政治学社会学経済学後者に属するということに,一応はなっている(とはいえ本当に大雑把な分類だし,各国語呼び方が違っていたりするのでややこしい.cf. 隠岐さや香文系理系はなぜ分かれたのか』星海社新書2018年).

そして法学政治学に関してだが,色々と特殊事情があるのじゃ……

まずもって,あの分野では長いこと学士号持ちが一流大学教授だった.博士号持ちが全然いないと揶揄されまくる文学研究者でも持っている修士号すら持ってなかった.いま憲法学ブイブイいわせてる木村草太先生も最終学位学士だ.

では質が低いのか,というとそうではなく,むしろ学士号しか持っていないことがエリート法学者の証だった.なにせ東大京大法学部(※)である.放っておくと優秀な連中はみな高級官僚やら弁護士やらになってしまうので,優秀な人材には卒業後すぐに助手の職を与える約束をして引き抜き,助手として数年間雇用してそのあいだに本1冊分くらいの分量の論文(当然学内でみっちり審査するので,実質的博論)を書かせるというルート確立しており,そして助手論文を書いた連中は20代後半でどこかの大学法学助教授になっていった(これは,一時期の外務省キャリアあいだでは大学中退ほど威信があったことに似ている.大学中退外交官はそれすなわち大学在学中に外交官試験に受かった俊英ということだったので鼻高々だったのだ).

(※多くの大学では,政治学法学部で教えられている.cf. anond:20180421135702

ただしこんな高待遇を受けられるのは年に数人のレベルだし,いやさすがに教授学士しか持ってないのはありえないでしょという流れになって近年はせめて修士号くらいは獲らせるようになっているらしいので,法学者や政治学者の大半がこんな経歴の持ち主だというわけではない.実際に私の周囲の政治学者はたいてい博士号あるいはそれに相当する経歴(※)を持っている.しか1980年まれ木村氏がこのルートを辿っていることからわかるようにこういう経歴の学者は割と最近まで学界に輩出され続けており,しかもなまじ優秀なものから発言力もそれなりにある.

(※文系の多くでは長いあいだ,「博士課程で必要単位を取得した上で,博士論文を書かずに退学する」という経歴が「博士課程単位取得退学」として博士号相当の経歴と見做されていた.なぜならかつて博士論文とは中高年の教授たちが自分学者人生集大成として仕上げる分厚いものであり,修士を出てからわずか数年で仕上げるものではなかったからだ.ゆえに,同じ「文学部の大学院を出て最終学歴修士」であっても,博士課程の単位を取得して退学したか否かで文系アカデミアではまるで別物だ.単位取得退学ではない修士理系イメージする修士と何ら変わるところはないが,単位取得退学の修士准教授として採用するに値する学歴だと見做される.ただし近年,文系でも博士号への圧力は強まっており,若手は次々と――かつて大御所が書いていたような超大作とは比較できないレベルだが,しかしなんとか1冊の本になるようなレベルの――博士論文を書いて博士号を取得している.ほんの1年か2年前には,博士号を持っているか取得見込みでないと学振PD採用されないことになった.逆に言えばそれまでは,「修士号しか持っていない学振PD」が大量に存在したのだ)

なんでこういう話をしたかというと,同じ文系あいだでも,業績の数え方どころか経歴すらぜんぜん違っていたりするということ.なので,うかつに他分野の学歴とか業績とかdisれないんですわ(まあ,わからずにdisっているアホな文系もいるけどね).私にわかるのも,私の専門分野や私の周囲の人の専門分野や私が関心を持って学術書を読んでいる分野の標準的キャリアパスや論文作法に過ぎない.私の周囲の文系キャリアパスは別増田anond:20181008223012)で言われているものとほぼ同じだが,一方では法学部には独自ルートがあったりもし,しかし別の政治学者はロンドン留学してPh.D.を獲っているわけである理系でも博士号をなかなか獲らない分野もあるという話だし(anond:20181010122823),一部の分野の標準的キャリアパスを全体に敷衍するのは本当に危ういんですわ.

加えて言うと,政治学といっても本当に色々あって,政治史かになるとお前やってること実質歴史学じゃんみたいになるし(扱う対象研究手法も参考文献の書き方も歴史学の本と区別がつかないが,著者が法学出身政治学者を名乗っており政治学者としてポストを得ているので政治学の棚に並べられる学術書というものは常に存在する),データを駆使して統計取って英語論文バリバリ投稿しまくりみたいな分野もある.私は前者については業績の信頼性とかをそれなりに評価できる自信はあるけど,後者に関しては正直言っていることがチンプンカンプンだ.文系研究者にとって重視されるスキルの1つである語学にしても,ある地域滞在し現地の新聞を読み漁り現地の国会議員インタビューして論文を書く人と,国際的統計を元に数値をはじき出して論文を書く人とでは求められるレベル全然違ってくる.前者は当然現地語など英語の他にいくつかの言語習得しないとまともな研究ができないが,後者別に英語さえできりゃいいでしょという話になる(逆に,前者は数学がわからなくても許されている).

社会学にもこういう内部対立はある.フィールドワークを重んじる人たちと統計取ろうとする人たちの話が噛み合わないとかね(cf. http://synodos.jp/society/19195).何が彼らを結びつけているかというと学問のラベルの他には基礎教養や語彙かな.たとえば,普通の人びとの間に分け入ってフィールドワークをするという似通ったことを一部の社会学者とほぼ全ての人類学者がやっているのだけれど,行為としては似ていても本を書かせると引いてくる古典や先行研究全然違っていたりする.社会学者のフィールドワーカー社会学古典を引き,人類学者は人類学論文を引く.そして違う古典や文献からは異なる問題意識や噛み合わない学術語彙が生まれてきて,それが2つの学問を別のものにしている.

まり文系学問は,単純に学問のラベルでは区切れないのだ.手法としては計量社会学者と経済学者と比較政治学者は似ているが,拠って立つ基盤では微妙に話が食い違い,基礎文献や学術概念を共有して同じ学科所属する社会学者たちの間でも,ある者は新宿三丁目に出かけある者は図書館にこもりある者はコンピュータの前で計算ソフトをいじっていたりと,まったく行動に統一性がない(理論物理学素粒子力学流体力学を同じ「物理学」というラベルでくくっているのと同じなのではないかと思うが,理系のことはよくわからないので安易比較はしないでおく).

なので簡単に「あいつらはおかしい,俺たちはまとも」とか言えないですわ.ジェンダー関係でも,フェミニズム理論を追求している人もいれば歴史学者として女性歴史を追い求める人もいて,フェミニズム的な文学研究といっても,現代作品における女性ステレオタイプ批判する人もいれば,戦前女性向けサブカル小説研究する人や世界各地を飛び回って古文書を丹念に調査して女性書き込みを集めた人もいるわけで(cf. http://todai-umeet.com/article/35973/),研究手法問題意識という面でかなり多様なので……色んな分野の論文学術書を読めば読むほど,そんな雑語り怖すぎてできなくなります

からみんなもっと色んな分野の学術書論文読もうぜ! せっかく日本語で読めるんだから

追記

id:uturi 学士でも教授になれるという文化に驚いた。/研究方法は分野によって違うだろうけど、その論文が『学術的に正しいと思われるか』はどうやって担保されるのだろう?

第1に.文系にも査読はいくらでもありますって何度言えばいいの? このトラバリーで俺何度も言ってるよね? 査読はしてます,してないからといって無価値ということにはならないだけです,って.何なの? 文字が読めないの? 文章読解能力が欠如してるの?

第2に.自分の頭で考える能力がないの? 論文批判的に読むことができないの? 査読を通ってさえいれば論文の内容をまるっと信じちゃうの? 馬鹿なの? 死ぬの? 査読があってもダメ論文ダメ論文だし査読がなくても良質な論文は良質な論文,最終的に頼りになるのは己だけだろーが.

id:yujimi-daifuku-2222 良識的な人にも飛び火しているのは気の毒だし不当ですよね。/ただ、これまでオタクを豚に擬えて揶揄したり、普段からnot all manなどと言ってる人達に、貴方達どれだけ真剣に抗議してきましたかとは言わせて下さい。

はぁ?????? 俺はさんざん怒ってきたよ!!!!!! コミケだって夏冬3日間ずつ参加しとるわ!!!!!! 味方を撃ってんじゃねえって言ってんだよ!!!!!!

記事への反応 -
  • 法律に詳しくない法学博士は別におかしなことではない

    三浦瑠麗の件。 https://buzzap.jp/news/20180420-lullymiura-law-knowledge/ 東京大学大学院法学政治学研究科 総合法政専攻博士課程を修了し、法学博士を取得しているものの、三浦瑠麗さんは農学部...

    • anond:20181010183113

      ただ今集中砲火浴びてるジェンダー論や法学(右側の政治的な理由も相まってるのが気持ち悪いし、理系の偏見で査読英語言うのは周りにも飛び火しそうで迷惑だってのは理解したが)...

      • anond:20181010203532

        そびえ立つゴミの山を築けば素人はビビって言うこと聞いてくれるだろって調子なわけねなるほど

      • anond:20181010203532

        言ってることはわかるんだけど、公的な資金援助を受ける以上、受ける側が透明性や有用性をアピールする必要があって、無関係の納税者に「お前らもっと勉強しろ」っていうのは、相...

        • anond:20181010204115

          120%同意しかない。げにその通り。 素人勉強しろといきってるのが文系、理系は金がかかるだけになんとか理解してもらおうとプレスリリースや教育に必死である。はやぶさ2号とか涙ぐ...

      • anond:20181010203532

        腹話術長すぎw

      • anond:20181010203532

        (cf. http://synodos.jp/society/19195) 北村紗衣、こいつWezzyなんぞに投稿してるカルト宗教家じゃん

      • anond:20181010203532

        社会学は他の学問と比べても分野内の差異が大きすぎるんだよなぁ。 ゲーム理論を援用して数理モデルを構築する者、RやPythonを使って統計モデリングを行う者、 教区簿冊や宗門人別改...

      • anond:20181010203532

        人文学と社会科学か。社会科学のほうが科学なのに怪しさが入り込む余地がある気がしてしまうのも奇妙だが、哲学とかだと論理的な議論はあっても「正しさ」を決めることはできない...

        • anond:20181011040543

          理系でも教授の贔屓やコネはないわけじゃないけど論文数(あるいは引用数)で無能認定する仕組みは馬鹿の排除には有効なんだよ(捏造の動機にもなるけど)。 論文数で無能認定は...

        • anond:20181011040543

          ぶっちゃけ話をすると,私はこれまで「別に査読はなくてもいいだろ」という話を延々としてきたのだが,ブコメやらtwitterやらで文系擁護派の一部の人が「人文系の学問は査読になじま...

          • anond:20181011090428

            文系に査読があるかないかなんて外の世界の人間にはぶっちゃけどうでもいいので むやみに外の世界に殴り込みをかけてこないでくれ 無茶な殴り込みをかけようとしてるやつはちゃんと...

            • anond:20181011091619

              武田邦彦と近藤誠と菊池誠を黙らせてくれればフェミ学者を自浄することも検討しますのでどうぞよろしくお願いします.

    • anond:20180421135702

      アホが高学歴に文句垂れるのは昔から 見当違いの愚問が流布されるのは アホの数の方が多いからしょうがない

    • anond:20180421135702

      1991年以降は博士(哲学)、博士(史学)、博士(心理学)、博士(言語学)というようにちゃんと学問分野別になりましたので 博士(文学)で文学に詳しくない人はあんまり居ませんよ...

      • anond:20180422045123

        もちろん「博士(歴史学)」を授与してる大学もあるけど、伝統ある大学では「博士(文学)」をまだ授与してるところも多かったはず。早稲田の文学部は確か今もそうじゃなかったっ...

記事への反応(ブックマークコメント)

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