オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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カルネ村は一日でも早い復興を目指して、今日も朝早くから村人達が働いていた。
襲撃してきた帝国の騎士達の装備を、ガゼフ達に買い取ってもらう事で、多少の補填にはなった。
しかし、壊滅的とは言わないまでも、買い換えなくてはいけない物が増えた今、それだけでは冬を越す事はできない。
「……はぁ、この先どうしよう」
両親を失った少女、エンリ・エモットはどうやって冬を越そうか、頭を悩ませていた。あれから妹のネムは我儘を言わず、手のかからない子になった。
ネムが無理をしている事は分かっていた。しかし、両親の残した畑を多少は縮小させても、維持していくのが手一杯で、構ってあげることが出来なかった。
そんな中、村に幼馴染の薬師、ンフィーレアが4人組の冒険者を連れて、訪ねて来た。
村で起こった事を話すが、ポーションについては言っていない、問題になるかもしれないと言われていたからだ。
エンリはチャンスはコレしかないと判断し、薬草採取に自分も連れて行ってもらえるようにお願いした。
トブの大森林にある一軒の家、そこでは一人の子供が骸骨に相談していた。
「どうすればいいのかな、ネムは子供だから、お姉ちゃんのこと、殆ど手伝えないの……」
「うーん、私が手伝えればいいんだが、この顔だしなぁ」
マジックアイテムを貸すことも考えたが、すぐには出来なかった。
モモンガは自分の持つアイテムの価値観が、大きくズレている事に気付いたのだ。
自身の持つ最も価値の低いポーションですら、一般的にはありえない価値と効果を持つものだったのだ。
他のマジックアイテムなど、おいそれと渡せば、将来的にこの村の不利益になるかもしれない。
二人で悩んでいると、珍しいことにドアをノックする音がした。
ネム以外は殆ど誰も来ないので、消去法でエンリが来たのかと、ドアを開けようとした。
その時、複数人の声が聞こえ、慌てて不可視化の魔法で隠れる。
(そういえば、
エンリだってその辺の事情を最初は考えていた。しかし、あまりにも妹が頻繁に会いにいくので慣れてしまい、言ってしまえばうっかり忘れていたのだ。
「こんにちはー。 モモンガ様、いらっしゃいますかー?」
幸い入って来たのはエンリだけだったが、他の人も自由に入れていいとだけ伝え、ネムに対応を任せてそのまま隠れることにした。
エンリの他に来た4人組は冒険者らしく、その隣の男はンフィーレアという薬師だそうだ。どうやら、森に薬草を取りに行った帰りで、休憩がてら会いに来たようだ。
(全てのマジックアイテムが使用可能、魔法の習得速度が早まる、か。この世界にはまだまだ未知が溢れているな。というか
盗み聞きのような形にはなったが、偶然聞くことの出来た話に、警戒心を高める。レベル100の自分にもしかして敵はいないんじゃと、最近緩みっぱなしだった気分を引き締める。
「にしても、ここには森の賢王って魔獣がいるんだろ? あーあー、そんな魔獣に乗って街を歩けばナンパも上手くいくと思わないか?」
「ルクルット、そんな魔獣を登録してる冒険者がいるわけ無いだろ」
「冒険者が登録出来る魔獣は、制御さえ出来れば制限は無いので、可能性はゼロではないのである」
「ふふっ、ペテルの言うことも最もですけど、ダインの言う通り不可能では無いのですから浪漫はありますね」
彼らの話を聞き、モモンガはある事を閃いた。
彼らが帰った後、再び姉を手助けする方法を考えるネムに、自信満々に言い放つ。
「ネムよ、出稼ぎに行こう‼︎」
エ・ランテルの冒険者組合、普段は冒険者や依頼人が集い、騒がしい場所だが、今日は異様な空気に包まれていた。
冒険者組合で働く受付嬢は、荒くれ者達の対応には慣れたものだが、今日だけは悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたかった。
「冒険者になりに来ましたー‼︎」
肩車をされたまま、元気よく喋る女の子。
組合のルール上は、子供が冒険者になる事も出来なくはない。英雄を夢見た子供が組合に来ることも、稀にだがある。普段なら、子供には危ないからと言って諌めるところだが、今回はそうはいかなかった。
女の子を肩車しているのは、一見、漆黒のフルプレートを纏ったガタイの良い戦士だ。
しかし、顔面はむき出しの骨である。誰がどう見たってアンデッドだ。
受付嬢の困惑する様子に、このままでは話しが進まないと思ったのか、骸骨が喋り出した。
「驚かせてしまったようで、すまない。私はこの子に使役されているアンデッドだ。冒険者は魔獣登録というものが出来るのだろう? 冒険者登録と一緒に済ませて欲しいのだが――」
無事に登録を済ませたモモンガ達は、作戦が上手くいったと喜んでいた。
自身のアイテムを村で使えないのなら、現地通貨を稼げばいい。一人で街に入れないなら、冒険者の魔獣として登録してしまえばいい。
ネムの様な子供が、アンデッドを使役している事も
街にはどうやって入ったのかだと? ガゼフ・ストロノーフに話は通っている、でゴリ押しした。
ちなみに、カルネ村に戻ってから、エンリにしこたま叱られた。
自分は冒険が出来て、ネムはお金を稼いで、姉の手助けが出来る。
一石二鳥の策だったのに……解せぬ。