オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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もう何度武技を発動させたのだろう。間違いなく一日での連続発動回数の新記録だなと、ガゼフは苦笑する。満身創痍であり、部下も皆倒れている。いくら天使達を倒しても、本隊には届かず、敵の
「ガゼフ・ストロノーフよ、もう諦めて膝をつけ。せめてもの慈悲に、苦痛なく殺してやる」
スレイン法国の特殊部隊、六色聖典。その中の一つ、陽光聖典の隊長、ニグン・グリッド・ルーインはそう告げる。
陽光聖典は殲滅戦のエキスパートであり、この状況から逃げ出すことは万に一つの可能性もなかった。
「それは出来ない相談だ。このまま貴様達を通せば、また村を襲うのだろう?」
「愚かな男だ、我々人類は団結しなければならないと言うのに…… あんな村を見捨ててでも、貴様が生き残ることの方がよほど価値があっただろう」
ニグンはガゼフが王国の戦士長である事を、心から残念に思った。
しかし、もはや王国は残しておけない。王国は腐敗しすぎたのだ。王国の力を削ぎ、一刻も早く帝国に吸収させなければ、人類は纏まることが出来ない。
絶対絶命の中、王への忠義と民を救いたい思いから立ち上がり、ガゼフは叫ぶ。
「私はこの国を守る、王国戦士長‼︎ 貴様らの様な国を汚すものに、負け――」
「――ニグン隊長っ‼︎ 村の方角から何か接近して来ます‼︎」
ガゼフの最期の言葉を遮ったモノに不快感を感じながら、ニグンはそれを確認しようとする。
速い、かなりの速度で迫っている様だ。砂煙を巻き上げているせいで、鮮明な姿は分からないが、黒い何かが走ってきている。
ふと、ニグンは囮部隊の生き残りの話を思い出す。大柄で、黒い盾と剣を持ったアンデッドが村にいたと…… 仲間が真っ二つにされたと報告があった。
余りにも怯えていたため、何か白い兜を付けた戦士と、骸骨の顔を間違えたのだろうと思っていた。
「黒い盾に剣…… 巨体…… 鎧ごと両断する程の力…… っまさか⁈ 伝説のアンデッド、
モモンガは短距離走の選手の如く走っていた。鎧を付けた者の走り方としては正しくないかも知れないが、自分には関係ない。
情報が洩れるのを防ぐために、
「っ天使達を突撃させろ‼︎」
ニグンはすぐさま指示を飛ばすが、アンデッドは止まらない。武器を振るうこともなく突き進む。トラックに撥ねられるが如く、走る身体にぶつかっただけで、天使たちは光の粒子となって消えていく。
この強さ、間違いない、
「おのれっ王国め‼︎ 腐敗しただけではなく、
「一体、なんだ……アレは?」
ガゼフは突如として現れたアンデッドのおかげで命拾いをした。しかし、危機は去っていないと直ぐにでも動けるように体勢を整える。
戦場に辿り着き、天使達を適当に倒しているモモンガは首を傾げる。
(味方とは認識されないと思ってたけど、
適当に剣を振り回し、天使達を屠っていく。途中、もしかしてコイツら
「オオオオォォッアアァァッーーー‼︎」
迫真の
途中で殺した敵の死体を、
「っくそ‼︎ 生き残りたいものは時間を稼げ‼︎ 最高位天使を召喚する‼︎」
そう言ってニグンは懐から魔封じの水晶を取り出し、掲げる。
それを見たモモンガは自身の認識が甘かったことに急激に焦る。
(魔封じの水晶だと⁈ ユグドラシルの魔法だけじゃなく、アイテムまであったのか‼︎ ってか
「さあ、最高位天使の威光に平伏すがいい‼︎
現れた天使のあまりの神々しさに、陽光聖典の隊員と、既に空気となっていたガゼフは感嘆する。
「さあ、その力でやつを滅せよ‼︎ 人が決して届かぬ領域の第7位階魔法、
放たれた魔法により、アンデッドが光に包まれ、勝利を確信するニグン。
そんな中、ちょっとチクチクするなぁと、この世界に来て初の痛みに少し感動しつつ予想よりダメージが少ない事を疑問に思う。
そろそろ戦いを終わらせようと思ったモモンガは、この後どうするべきか考える。
(とりあえず適当に天使を倒して、その後やられたフリをして逃げよう)
光が収まる頃、小声で
途中で自分の攻性防壁に反応があったが、情報系魔法は完全に防げた様だ。覗かれた様子はないので無視していた。
魔神をも屠る天使が破れたことで、ニグンを含む陽光聖典の心は折れていた。相手の戦意がなくなった頃を見計らい、戦士化の魔法を解除する。ガゼフに
『ガゼフ・ストロノーフよ、声は出さずに聞いてくれ。今からお前に突撃するから、剣を振え。私はやられたフリをして帰るから、お前たちもその後で帰るといい』
明らかにガゼフは狼狽えていたが、そんな事は知らんとばかりに突撃する。
あまりにも遅い剣に、演技がバレたらどうするんだと思ったが、続行するしかない。剣が当たったフリをして自ら倒れ、不可視化の魔法を発動する。
彼らからすれば、まるで消滅したかの様に見えただろう。人は自分にとって都合が良いように考えるものだし、たぶんバレないだろうと思っておく。
陽光聖典の連中が撤退し、ガゼフの部下は生き残れた事に喜びの声をあげる。
そんな部下を尻目にガゼフは遠くを見ながら呟く……
「ありがとう、名も知れぬアンデッドの御仁よ。この恩は忘れない。もし、私に出来ることがあれば、きっと力になろう」
再び会うことが出来たら、ちゃんとお礼を言おう。そんな事を考えながら、部下と共に、一度村に戻ろうと号令をかけようとする。
『言ったな?言質はとったぞ』
自身の近くから、これは儲けたと言わんばかりの嬉しそうな声が聞こえた。
自分は何か早まったかも知れない…… ガゼフは遠くない未来に起こるであろう、問題事を思ってため息をついた。