https://anond.hatelabo.jp/20181010122823の流れに乗って、先日心理学についても書いたので少し補足して再投稿してみる。
最初に断っておくと私見に満ちている文章なので心理学者からも異論反論あると思う。最近、社会学での査読論文の扱いが話題になってるが、社会科学という同じ枠組みで近接領域の心理学についての事情を書いてみる。ただ、心理学といっても様々な下位領域があって、特に臨床心理学は独自文化があるので、主に基礎系と呼ばれる心理学について書く。基礎系に入るのは、認知心理学、社会心理学、学習心理学など。なお、筆者は一応、基礎系心理学の博士号を持っている。
結論から述べると、論文については概ね以下のような扱いだと思う。
査読付き英語論文>>>>査読付日本語論文>>査読なし日本語論文(いわゆる紀要;査読有り紀要も含む)
さらに、査読付き英語論文においても以下のような差があると思う。
APA系や伝統的な雑誌(JPSPとかJEPとか) >それ以外のIF2以上の雑誌 > IF1以上の雑誌 >= オープンアクセス誌(FrontiersとかPlosOneとか)>> 怪しい雑誌(Predatory Journal疑惑があるもの)
注:心理学ではIFが2以上あれば2流以上の雑誌(それらの雑誌の掲載は他人に貶められることはまずなく褒められることが多い)。
○説明
まずは、最初に書いた日本語論文における査読の有無の差について書く。基本的には査読付英語論文がもっとも価値がある。ついで、査読付の日本語論文となり、査読なし日本語論文は一番扱いが低い。その背景として、心理学は(一応は)実証科学であるため、査読という第三者の視点から見て了解できる議論・データを示すことが求められているからだと思う。そのため、査読なし日本語論文の多くは査読で落とされた論文であることが多い。実際に査読をする中でも、掲載できない論文(リジェクト判定)に対しては「掲載はできませんが、紀要などへの掲載の参考に以下のようにコメントいたします」という趣旨のコメントを書く場合がある。したがって、査読なし日本語論文というのは(言い方は悪いが)質としては落ちるものが多く、石が多い玉石混交だと言える。紀要論文を卒論の参考にして元がイマイチなので色々な面で苦労するというのはよくある悲劇の1つだ。
また、日本語論文と英語論文の差についてだが、心理学は元々のはじまりがドイツであり欧米諸国で発展した学問である。そのため、重要な理論の大半は海外の研究者によって提唱されている。したがって、日本語論文を書く場合でも半分以上は英語論文を引用して書かれることとなる。また、規模としては海外の方が大きいので英語論文にすれば海外の心理学者にも知見が伝わるため、心理学全体への貢献度も高いと判断される。そして、英語論文で書く場合には引用してる研究者(場合によっては理論の提唱者)が査読をする場合もあるため、論文の質が高くなければ掲載に至らない可能性もある(レベルが高い雑誌に限る)。
英語論文でも雑誌のカラーがあり、一般誌と専門誌に分かれている。一般誌は心理学全般について載せる雑誌でジャンル不問である。専門誌は特定の分野(認知心理学メインなど)や特定のテーマ(学習メイン、感情メインなど)について載せる雑誌である。一般誌の方が広い読者層を対象としているため、多くの心理学者が読む価値のあるインパクトのある論文が載る傾向にある。専門誌は専門誌で、その分野に関する深い議論や分野に特化した重要な知見が載る傾向にある。IFは前者の方が高い。ちなみに、意外かもしれないが、心理学でもNatureやScienceに論文が掲載されることもある。非常に難しいため、普通は出そうとも考えないが…。
このように、英語論文は日本語論文よりも重きを置かれているのだが、英語論文に限っては最近はオープンアクセス誌とPredatory Journalが問題となっている。オープンアクセス誌というのは、お金を払って論文を載せてもらう代わりに全世界に無料で公開されるという雑誌だ(普通の雑誌は買わないと読めない)。さらに、大抵のオープンアクセス誌はオンラインだけの雑誌である。そうなると、ほぼタダで論文をいくらでも掲載できるわけなので、掲載料稼ぎのために微妙な論文でも載せようとするというのは想像できるだろう。もちろん、何でもいいからと載せると雑誌の質が問われるのでそんなことはないと思う。ただ、最近は日本人はかなりオープンアクセス誌に載せる人がかなり多い。他の人はどうかはわからないが最初は自分の憧れの雑誌やいい雑誌に論文を投稿するのが多いはずなので、雑誌では掲載不可だった論文がオープンアクセス誌に載ることなりやすい。結果として玉石混交状態になっている。元々、オープンアクセス誌は「方法などに問題がなければ掲載して、あとは読者判断に任せる」というスタンスなので、オープンアクセス誌の趣旨としては間違っていない。ただ、オープンアクセス誌への掲載が目的化しているのが問題だろう(その背景には英語論文>日本語論文という価値観がある)。
さらに、もっと深刻な問題なのはオープンアクセス誌の中でもマイナーなものにはPredatory Journalという詐欺雑誌が含まれていることだ。これはまさに掲載料を得るためだけにまともに査読をしないで掲載を決定するような雑誌である。Predatory JournalにはIFがついていないことが多い(ついていてもかなり低い)ので、あえてここに出そうという人は普通はいない。ではなぜ日本語論文がこのような雑誌に掲載されるのだろうか?それは博士論文提出の要件に英語論文を求めている大学があるためである。どこでもいいので英語論文を載せたい人と掲載料が取れれば何でも載せたいPredatory JournalのWin-Winな関係のできあがりである。いまはまだ大きな問題にはなっていないが、将来的にはPredatory Journalの情報が共有されていき大きな問題となるだろう(憶測だが、現在のPIの中に論文をPredatory Journalに載せてしまっていて他者を批判できない人がいるからだろう)。この問題は心理学に限らず、科学全体の問題として最近は注目されているので知ってる人も多いかもしれない。個人的にも、学振目当てや博士号目当てとして知り合いの院生とかがクロ疑惑のある雑誌に掲載しているのをたまに見ると残念な気持ちになる。一方で学振や学位に審査においてフェアでないのも良くないなと思うし、長い目で見ればこのような雑誌への掲載のしっぺ返しがくると思う。
人文系の文献の取り扱いとか業績についてちょっとだけ - dlitの殴り書き こちらの記事に賛同したので続いてみます。 確かに異分野の事情をお互いにわかっていたほうがみんな幸せにな...
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ちょっと待ってください。 Predatory Journalは、本当に詐欺雑誌でしょうか? 詐欺罪は、 刑法246条 1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。 2.前項の方法により、...
心理学の研究結果、6割以上が再現不可能 検証調査 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News https://anond.hatelabo.jp/20181009215657
ちゃんと勉強しなかったんで、対称性からノンゼロな形状因子導くことすらできない。群論をやりなおしたい
ただ今集中砲火浴びてるジェンダー論や法学(右側の政治的な理由も相まってるのが気持ち悪いし、理系の偏見で査読英語言うのは周りにも飛び火しそうで迷惑だってのは理解したが)...
そびえ立つゴミの山を築けば素人はビビって言うこと聞いてくれるだろって調子なわけねなるほど
言ってることはわかるんだけど、公的な資金援助を受ける以上、受ける側が透明性や有用性をアピールする必要があって、無関係の納税者に「お前らもっと勉強しろ」っていうのは、相...
120%同意しかない。げにその通り。 素人勉強しろといきってるのが文系、理系は金がかかるだけになんとか理解してもらおうとプレスリリースや教育に必死である。はやぶさ2号とか涙ぐ...
と、勉強していない人間が申しております。
腹話術長すぎw
(cf. http://synodos.jp/society/19195) 北村紗衣、こいつWezzyなんぞに投稿してるカルト宗教家じゃん
社会学は他の学問と比べても分野内の差異が大きすぎるんだよなぁ。 ゲーム理論を援用して数理モデルを構築する者、RやPythonを使って統計モデリングを行う者、 教区簿冊や宗門人別改...
人文学と社会科学か。社会科学のほうが科学なのに怪しさが入り込む余地がある気がしてしまうのも奇妙だが、哲学とかだと論理的な議論はあっても「正しさ」を決めることはできない...
理系でも教授の贔屓やコネはないわけじゃないけど論文数(あるいは引用数)で無能認定する仕組みは馬鹿の排除には有効なんだよ(捏造の動機にもなるけど)。 論文数で無能認定は...
ぶっちゃけ話をすると,私はこれまで「別に査読はなくてもいいだろ」という話を延々としてきたのだが,ブコメやらtwitterやらで文系擁護派の一部の人が「人文系の学問は査読になじま...
http://dlit.hatenablog.com/entry/2018/10/10/080521 https://anond.hatelabo.jp/20181010122823 私もこの流れに賛同したので続きます。私は博士課程の学生なので、多少間違いがあるかもしれませんが、大筋は合...
今回の騒動では、こういうアカデミアの理性的な人達によるローカルな研究事情が沢山読めたので 火の粉を払うために無駄な労力を使わせて申し訳ない、と感じながらも有難く思ってい...