『鮫島、最後の十五日』(佐藤タカヒロ)20巻を読み終えました。
佐藤タカヒロ先生が7月3日未明にご急逝され未完という形で終了となりました。ご冥福をお祈りいたします。続きが読めないのは残念でなりませんが、『バチバチ』からの読者としては見事な幕引きにも見えるラストにも見えます。
熱き力士の冷酷な一場所、十五日間の記録と記憶。十三日目、鮫島と虎城部屋のもう一人の虎・猛虎との大一番。火竜と王虎が宿る鮫島の「力」の相撲を「技」で跳ね返す猛虎。相撲を愛した者同士のぶつかり合いの果てに……。
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『鮫島、最後の十五日』20巻
横綱・泡影戦は実現しませんでしたが十二日目の王虎、十三日目の猛虎と初期からのライバルとの激戦を描き切ってくれました。王虎戦も猛虎戦も熱量が半端じゃありませんでしたからね。
猛虎に関しては初期『バチバチ』の1話からの因縁の相手であり、この作品は「鮫島VS猛虎」から始まったといえます。図らずも最後も「鮫島VS猛虎」で終わってしまいましたが。名試合やった。
十三日目「鮫島-猛虎」
技術
「鮫島-猛虎」は王虎戦に勝るとも劣らない「ありったけ」でした。むしろ集大成という側面ではシリーズナンバーワンといっていい。プロ前の最初の試合で猛虎を退けた張り手をデジャブさせるも演出から何の効果もなし。
互いに成長した『バチバチ』1巻のその先の試合!
それは猛虎の技術によるものでした。
いわく足裏の点でなく線の連動の繋がりと膝の抜きだそうな。この解説される技術論が合ってるかどうかは私には分かりませんが「なるほど!」と納得するハッタリのような説得力がありました。
天分の才がなかったからこそ…必死に足掻いたからこそ、たどりつけた己の力を…体を最大限に発揮させる技術
技術で鮫島を凌駕する。
唸ったね。そもそもこの漫画は根性論や精神論を全面にしており、太るに不向きで体格で劣る鮫島が横綱相撲のように真っ向から力でブチかますのが最大の燃えどころでした。フィジカルでは猛虎の方が遥かに鮫島を上回っているのに、体格で勝る方が小兵相手に技術を駆使する戦い。
そこへ至ったのが、どんなに頑張っても自分より上がおり、それは先天的なモノで自分に持っていないと気付き迷った末に突き進んだもの。どうしようもないものなのに足掻きもがき辿り着いた境地。
努力VS努力
猛虎が辿り着いた境地
どんなに肉を太らせ強靭な力を手に入れようとしても辿り着けない先天的なモノがあると知った猛虎。「才能」の一言である。しかし、それだけが絶対ではない!ここが俺の限界なのではないか?確かにフィジカルはそうでしょう。しかし、その先がある!あった!辿り着いた。
「凡人(鮫島)VS天才や化物」の構図でなく、「凡人(鮫島)VS凡人(猛虎)」…もっと言えば「努力(鮫島)VS努力(猛虎)」の構図です。同時にどっちが相撲が好きで諦められなかったというアングルで描かれた屈指の名勝負なり。
振り返れば、まだ力士になる前の鮫島に倒されてしまった猛虎ですからね。最初に主人公の凄さを表現するためのカマセ犬以外の何者でもなかった。聖闘士星矢でいえばカシオスのポジションですよ!バキでいえば末堂のポジションですよ!
そんな一番最初にやられたカマセ犬の男が事実上のラスボスとして君臨する。それをきちんと読者が納得する形で描かれた今までの猛虎ロードよ。どっちが主人公か分からないぐらい壮絶な道を歩んできました。燃えるぜ!
ガムシャラの力押しの先へ…
こいつ今…抜きを使った…!?
身体が小さいってハンデがあるのに巨大な相手に力推してバチバチとガムシャラに相撲を取るのが鮫島最大の燃えるポイントでした。野球でいえば変化球なんて知らん!ストレートだけで打ち取ってやるわ!みたいな気概がありました。
そんな鮫島が「抜き」を使う。小さい身体でストレートど真ん中を投げる鮫島の見せた変化球。技術を最大限前で高めた男に技術で対抗する。「我を消せ…」である。是か非かでない。相撲が好きだから!勝ちたいから!
「鮫島-猛虎」があっての『火ノ丸相撲』
ちょっと話というか雑誌が変わるのですが、確かにこの試合の鮫島の佐藤先生の心意気は受け継がれてるんですよね。ジャンプの『火ノ丸相撲』である。最終巻となった20巻では川田先生から色紙とメッセージが掲載されております。
・追いつけ追い越せと目指したその背中はあまりに大きく。熱く…。時に励まされながら同じ題材で同じ時を走れた事を誇りに思います。
・直接お会いしたことはないんですが、相撲漫画を描く者として憧れで…目標でした。ご冥福をお祈りいたします。
『火ノ丸相撲』は『バチバチ』があればこそって側面あったからね。『ハンター×ハンター』蟻編のネテロ会長における『バキ』の愚地独歩&克巳ぐらいは、それが先になきゃ世に出てないだろうと断言できる影響受けてましたよ。
そして最近の『火ノ丸』は明確に鮫島に対するメッセージのような展開でした。
選ばなかった技術を使う技
私は『バチバチ』シリーズも『火ノ丸相撲』も好きなので、結果的に鮫島の最後の取り組みになった猛虎戦の「ガムシャラの力押し」でなく技術を使った取り組みを踏まえてほとんど同じ流れは素直に大感動。川田先生から天国の佐藤先生へ「鮫島が見せた最後の取り組みを火ノ丸が引き継ぐ!」ってもの受け取れました(個人の意見です)。
川田先生がどういう心境で描いたかは知れませんけどね。事実「大般若VS鬼丸」はほぼイコールで「鮫島VS猛虎」です。間違いない!心意気を感じたんだ。鮫島の十三日目で鮫島が見せた技術を!
「呼び戻し」という幻の決まり手
呼び戻し
「鮫島-猛虎」の決着は「呼び戻し」です。リアル相撲では滅多に決まらないため幻の決まり手と言われているぐらいレアな技。そこへ至るまでの展開はガムシャラ力押し一辺倒だけでなく、「下手投げ」を放つなどの布石有り。
この「呼び戻し」という技は「鮫島VS猛虎」だけでは語れない歴史があります。今は亡き鮫島の師匠・空流が現役時代の得意技としていたものです。そして、猛虎の師匠・虎城(最強横綱)をぶん投げた技でもあります。
空流を思い出す鮫島
鮫島自身全てを出し切って敗北を悟りもうダメだ…からの!空流の顔を思い浮かべる流れは芸術的ですらありましたわ。かつて空流が虎城をぶん投げた技、時代を超えてお互いの弟子である鮫島「呼び戻し」で猛虎をぶん投げて素直に感動です。号泣です。
そして、読めば分かるけどジャンプの『火ノ丸相撲』の大般若戦はこの試合とほとんど同じ展開をやっています。決まり手の鬼車を放つ構図は震えたよ。強烈な川田先生から佐藤先生への追悼のような試合でしたわ。ありがとう川田先生!大感動!
見据えた十四日目
呼んだか…?
あの日見据えた横綱との取り組みを僕達はまだ知らない。
十四日目「鮫島-泡影」である。鮫島は全力疾走で十三日を駆け抜けていきました。この先がどうなるかはもう亡き佐藤先生にしか分かりません。誰もが「十五日目」だろうと予想した横綱・泡影戦は十四日目だったのである。ビックリですね。
だって、仮に十四日目に横綱・泡影に勝ったらどうなっちゃうの?
十五日目の対戦相手は誰だったのか?
『鮫島、最後の十五日』の最終日とは?やはり先が読みたかったという思いは強いなぁ。未完で終わったが初代『バチバチ』のキャラとは全て決着したので綺麗に終わってるようでもある。もう十五日目は読者は想像するしかない…。
「俺の全部を…くれてやる」
1話
こんな言い方は失礼で不謹慎かもしれないけど、バチバチシリーズ最終章だった『鮫島、最後の十五日』の鮫島は佐藤タカヒロ先生本人に重なってしまう。それが国宝のように芸術的にすら思えちゃうんですよ…。
『最後の十五日』は1話目で、もがき抗い挑み続け「俺の全部をくれてやる…」というのが鮫島の最後の言葉だったらしく、「何よりも相撲を好きだったアイツの言葉…」って椿のモノローグでスタートしました。そして土俵で倒れる鮫島の描写。このプロローグがそのまま『鮫島、最後の十五日』を執筆する佐藤先生の漫画家人生のようだったすら思ってしまう。
誰よりも相撲が好きだった佐藤タカヒロ先生のご冥福をお祈りいたします。
本当に、熱く魂を揺さぶられる漫画でした。
この漫画を読めて感謝しかありません。『鮫島、最後の十五日』は未完でも、鮫島と佐藤タカヒロ先生が突っ走った姿は…生き様は…僕ら読者の心に永久に残ります。ありがとうございました。
コメント
佐藤先生のご冥福をお祈りいたします
15日目の弾が残ってるとは思えないのでもしかして14日目で完結だったのかなぁ…
熱い漫画だったよなー