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そもそも日本の教育に責任を持つはずの文部科学省からして、数学を重視しているように見えない。元文部科学事務次官の前川喜平氏は「高校中退をなくすには数学の必修を廃止するのがいい」と主張している。数学が落ちこぼれを作る元凶だという。
生徒が知らなければならないことを教えるのが教育だ。生徒が理解できないなら、理解できるように工夫するのが筋である。「理解できない人がいるから教えないようにすればいい」というのはもはや教育ではない。単なる教育の放棄だ。
そもそも「数学は理系の教科」という考え方が現実にそぐわなくなってきている。文系とされている経済学、社会学、心理学といった分野でも、統計をはじめとした数学の手法が多用されるようになっている。理系はもちろん文系でも、数学の重要性が増すことはあっても減ることはない。
それでも「高校で習う数学なんて社会に出たら何の役にも立たない」とうそぶく人は多い。そうした人におすすめの書籍がある。
数学の意義を息子に伝えたいと考えていた時に書店の店頭で見つけた「学校では教えてくれない!これ1冊で高校数学のホントの使い方がわかる本」だ。高校数学で習う概念を一つひとつ取り上げ、それらが実社会でどのように利用されているかを解説している。かなり単純化して書いてあるが、高校で習う数学がいかに重要なのかを確認できる。
海外で開発されたものを利用するだけの国
数学は、技術を生み出したり理解したりするときの基礎となるものだ。特に高校レベルの数学は、IT分野でも工学分野でも、なくてはならない道具である。この部分の教育をおろそかにすれば技術革新は止まってしまう。
以前、日本が「デジタル植民地」になっているという記事を読んだことがある。日本で利用されているサービスがすべて海外で開発されたものであることを指摘した記事だ。
クラウドサービスは米アマゾン、米グーグル、米マイクロソフトなどが中心であり、日本企業は見る影もない。一般消費者向けのサービスもYouTubeやFacebook、Instagramなど海外のものばかりだ。決済サービスではPaypal、コミュニケーションツールではSlackが大きな存在感を示している。スマートフォンはAndroidとiPhoneに席巻されてしまった。
サービスだけではない。数学の教育をおろそかにすれば、あらゆる技術が日本から生まれなくなってしまう。海外で生まれた技術で開発されたプロダクトを使うだけの国になってしまうのだ。
個人的には、こうした技術軽視の風潮は日本から消えてほしいと思っているが、今後どうなっていくかはわからない。せめて息子は、きちんと技術を理解して新しいものを生み出せる人間になってほしいと願っている。