日本人から見ると、アメリカ人は押しが強い「外向型」だというイメージがある。それは、成功しているアメリカ人に外向型が多いからだろう。
大学の入学選考や就職で自分の実績を最大にアピールする必要があるからか、誇張が上手な外向型が有名大学に集まる。彼らは人脈作りにも長けているので就職でも成功しやすい。
「外向型でないとアメリカでは成功できない」というのは、アメリカ人でも信じている「常識」である。だから、アメリカの「内向型」は、日本の「内向型」より生きるのがつらい。静かにコツコツと努力しながら「外向型」の同級生や同僚を眺め、「こいつ、口先ばかりで実際はそんなにできないくせに……」とひっそり悔し涙を流すのである。
ところが、最近はアメリカでも「内向型」が成功しているようなのだ。というか、ひっそりと成功している「内向型」が表に出てきた。
アメリカで成功を収めた「内向型」たち
先日、カリフォルニア州からマサチューセッツ州に転勤で舞い戻った友人夫婦が夕食に来た。夫のニコはハーバード大学ケネディスクールのメディア・政治・公共政策の研究機関であるショーレンスタインセンターの所長、妻のモラはオンラインのソーシャルインパクト会社の創業者で社長、というパワーカップルだ。
「ソーシャルインパクト」とは、直訳すると「社会的影響」のことで、「ソーシャルインパクト会社」は、非営利団体を中心としたクライアントの啓蒙活動を支援する仕事をする。モラが率いる「ウィメン・オンライン」は、世界最大の慈善基金団体であるビル&メリンダ財団や国連など大きなクライアントも持っているし、2012年の大統領選では、オバマ大統領のキャンペーンのために激戦区で女性インフルエンサーのネットワーク作りを実現した影の立役者だった。ヒラリー・クリントンを直接援助したこともあるというモラの知り合いは錚々たる顔ぶれだ。
ワイン通の二人が持ってきてくれた赤ワインを開けて再会を祝ったところで、モラが「ところで、本を出したのよ」とハードカバーを私にプレゼントしてくれた。
タイトルは『Hiding in the Bathroom(トイレに隠れている)』。しかも、ジャンルは自己啓発/ビジネス書だという。
「面白いタイトル!」と関心したところ、「よくわかんないって人もいるんだけれど」とモラは笑った。
モラはすごい人脈があって外交的なイメージがあるが、本当は内向型で人見知りが激しいのだと言う。だから、知らない人ばかりのパーティとか、重要なミーティングの前とか、いたたまれなくなってトイレに隠れてしまうことが何度もあるらしい。
モラの夫のニコと私の夫のデイヴィッドは典型的な外向型だ。モラと同様、私も内向型の人間なのだが、内向型の辛さがわかってもらえないだけでなく、常に振り回されている。知らない人ばかりのパーティに連れて行かれて神経をすり減らし、「もう帰りたい」と言っても「僕はもっといたい」と拒否されてしまう。モラの場合は、そういうとき、トイレにひとりで隠れてしまうというのだ。
「家でパジャマを着たままで仕事をしているのが一番好き!」というモラに「実は私も……」と大いに共感して盛り上がってしまった。
この夕食の翌週、「ボストンで最も働きたい会社」として知られるハブスポット社が主催する大きなビジネスカンファレンスのINBOUNDで多くの著名人の講演を聞く機会があった。このカンファレンスではミシェル・オバマ前大統領夫人がトークをしたこともある。
ここで驚いたのは、「私は内向型」と打ち明けた著名人が何人もいたことだ。しかもその業界で「成功者」とみなされている人たちだ。それがカンファレンスのテーマではないかと思うほど多くて、「アメリカでは外向型でないと成功できない」という常識を疑いたくなった。
「良い将来を想像することを自分に許し、それを実現したときに変化は起こる」と講演するベス・コムストック
まずは前GE(ゼネラル・エレクトリック)副会長のベス・コムストックだ。GEはアメリカのコネチカット州に本社を置く多国籍コングロマリット企業で、アメリカ人なら名前を知らない者がいないほど有名だ。電気機器、重工業、軍需産業、航空宇宙産業といったとてもマッチョな業種の大企業で副会長の地位まで上り詰めた女性が、「私はとても内向的なのです」と言うのだ。コムストックは、それで苦労したことや、克服する決意をした出来事について語ってくれた。でも、今でも多くの人の前で語るのが苦手なことは震える声やナーバスな姿勢から明らかだった。
『コスモポリタン』元編集長のジョアンナ・コールズ(右)にインタビューされるションダ・ライムズ
もうひとりの大物は、ションダ・ライムズだ。ライムズは日本でも放映された『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』など多くの大ヒット作の原案者であり、主脚本家であり、プロデューサーであり、制作総指揮者でもある。9月に発表されたばかりの「エンターテイメント業界で最も影響力がある100人」のリストにも上位に位置している。
白人男性が長年にわたって圧倒的に権力を持ってきたアメリカのエンターテイメント業界で、「黒人」と「女性」という差別される要素を2つも持った彼女が、スティーブン・スピルバーグ監督よりも上位の30位にリストされているのである。これはすごい達成だ。
映画芸術学の修士号があるのに脚本家としての職が得られず、食べていくために数々の仕事をしながら実力を示してここまで這い上がってきたのだから、きっと押しが強い外向型だと思うだろう。
だが、ライムズも「私は内向型」と言う。「家でパジャマを着て仕事しているほうがいい」というところも、モラの発言とそっくりだ。
出かけるのが苦手で、招待されると「ノー」と断ってしまうライムズは、妹からそれを指摘されて1年間「イエス」と答えることにした体験を『Year of Yes』という本にした。日本語版は『Yes ダメな私が最高の人生を手に入れるまでの12カ月』というタイトルで、「ダメ」という表現にちょっと首はひねるものの、特に女性にとっては頷けるところがたくさんある内容だ。
モラの本も日本で『内向型のままでも成功できる仕事術』として邦訳出版されている。
日本人の私にはションダもモラもすごすぎるのだが、彼女たちほどの成功を目指さなければ参考になることはたくさんある。
あなたは人見知り?
ところで、モラやライムズが本を書く前に、アメリカで内向型の良さに目を向けさせた本がある。それは、スーザン・ケインの『Quiet(内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力)』 だ。
モラの本の冒頭にも、「あなたは人見知り?」というケインの本から引用された内向型の自己判断テストがある。それを下記に引用しよう。
□静かな環境で能力を一番発揮できる。
□騒音や強い照明のもとでは疲れきってしまい、クラクラしたり、頭が痛くなったりする(特に蛍光灯!)。
□人数の多い集まりになると、一人きりになる、あるいは信用できる友人とだけで過ごす休憩が必要になる。
□人ごみは疲れる。
□充電する、エネルギーを蓄えられるのは一人の時間。
□話す前に一度考えたいから、発言する前にはちゃんと準備してから臨みたい。
□心の中でけっこう独り言を言うので、イベントや決断する際には考え込むことが多い。
□人からはもの静かだと言われる。
□一人の時間がたくさん必要だ。
□オープンスペースのオフィスでは消耗するので、身を隠せる、静かな場所を探してしまう。
□家の方が仕事がはかどる。
私は、「物静か」だと言われたことはないが、その他はほぼぴったり合う。「心の中で独り言」というのは、特にあたっている。質問と答えの対話を頭の中ですっかり終えてしまってから結論だけ口にして「はあ?」という対応をされることも少なくない。
『どんな“恵まれた人”でも「コンフォート・ゾーン」から踏み出すのは怖い』でも書いたが、ふだんの私はほぼ「引きこもり」だ。ボストンに住んでいる日本人の友人たちはよく知っている事実である。
「内向型」はどのようにして成功しているのか
でも、内向型には、実は長所がたくさんあるらしい。
内向型の良いところは、富や名声といった目立つ成功にあまり惹かれず、「思慮深い」ところだ。そして、ひとりきりになる時間を必ず作るので、他人の影響を受けない発想がしやすい。ケインによると、創造性に富む人々の多くが10代のときには「内気」で「孤独」だったというが、創造性を引き出すためには、ひとりでじっくり考える時間が不可欠だということなのだろう。
では、モラのような「内向型」はどうやって成功したのだろう?
モラは「内なる引きこもりを愛そう」とポジティブに対処することを提案する。電話や出かけていくことが苦手な自分を受け入れ、信用してやる。そして、人付き合いは、「かたい絆」と「ゆるい絆」の2つのパターンで対応する。「かたい絆」とは、相手のことを常に考え、困ったときにはかけつける「親友」のようなものだろう。これは、モラも言うように時間とエネルギーを要する関係だ。だからひとりの時間を必要とする内向型は多くの「かたい絆」を持つことはできない。「自分で扱えるだけの人数の中で、自分もいい友達になること」というモラのアドバイスは、私とまったく同じものだった。
そこまで踏み込まないのが「ゆるい絆」である。私もモラのようにソーシャルメディアで交流している「お友だち」が多いのだが、彼らとの関係は、引きこもりの私に「職場でのおしゃべり」のような場を与えてくれるし、仕事のチャンスを与えてくれる。「ゆるい絆」とはいえ、実は、とてもありがたい付き合いである。
モラとスーザン・ケインのどちらも「内向型と外向型のペア」について語っている。 アップルを共同創業したスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックは「外向型と内向型」の有名なペアだったが、冒頭のハブスポット社の共同創業者であるブライアン・ハリガンとダーメッシュ・シャーも「外向型と内向型」のペアだ。ダーメッシュは有名な「引きこもり」なのだが、それを最大限に活かしたすばらしいソフトウエアの開発をしている。
モラやニコのようにうまくいっている「内向型と外向型の夫婦」では、尻込みするモラに強制的にネットワーク作りの機会を与えるのがニコで、ニコに思慮深いアドバイスをするのがモラだ。
起業家や夫婦でなくても、ふつうの関係でも「内向型と外向型」のペアは互いの長所を活かし、短所をおぎなう良い関係になる可能性がある。これは、内向型、外向型、どちらにとっても良いアドバイスだ。
だが、「内向型」で成功したこれらの人が送る最も重要なメッセージは「自分らしくあれ」ということだろう。
「内向型」に生まれついてしまったら、模倣はできても本当の「外向型」にはなれない。また、無理をしてなる必要もない。内向型としての自分の良さを見極めて、そこを活かす努力をすればいいのだ。
そう開き直るだけで、ずいぶん生きやすくなる。
実は内向型のモラと私