「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」と期待している消費者は多い。
自分の会社で洋書の日本語翻訳出版権を取ろうと思っていろいろと調べているうちに、とりわけ翻訳書ではそのような期待は実現しないだろうと考えるようになった。
安くなるどころか、電子書籍化が進むと翻訳書は出ない、あるいは非常に出にくくなるとすら感じている。
◆
出版社で紙版の翻訳書を1タイトル作って書店流通させようとすると、以下のようなコストがかかる。ここでは定価2,000円の本を作ると想定し、ざっとコストを計算してみる(人件費などはとりあえず除外)。
A. 取次(本の問屋)
→ 出版社から60%程度で卸す。そのためコストは40%に当たる800円。
B. 原著作権者への印税
→ 7%程度として、140円。
C. 翻訳者への印税
→ 5%程度として、100円。
D. 印刷費
→ 刷り部数や何色刷りかで大きく異なるが、仮に1部200円とする(10%)。
E. 倉庫費
→ 1部預けて毎月3円かかるとして、仮に平均24か月在庫保持で72円(3.6%)。
この場合、2,000円のうち1,312円(65.6%)がコストとなり、出版社は残りの700円弱(34.4%)から人件費や宣伝費や事務所家賃などを払うことになる。
◆
さて、今度は電子版の翻訳書を考えてみる。
まず「D. 印刷費」と「E. 倉庫費」がかからない。そこで冒頭のように消費者が期待するのも当然だ。
ところが、そうは問屋……いや取次が卸さない。
まずは電子書籍にも「取次」がある。
さまざまな情報を合わせてみると、50%程度は電子書籍取次で取られるようだ(※出版社との力関係で異なる)。ただ、これにはその先の電子書籍書店の取り分も含まれる。
実のところ消費者と同様、電子書籍の取次も書店も「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」と考えているのだろう。そこでこの料率となっている。
(なお、取次を通さずに電子書籍書店と直接取引する方法もある)
次に「原著作権者への印税」だ。
紙版の7%程度と比べてかなり高くなっていて、20~25%が一般的という話を聞く。3倍以上だ。事実、私が某海外出版社に問い合わせたら25%を提示された。
もちろん出版社との力関係によっても違うし、原著作権者が低率を提示することもあるので、あらゆるケースでこの料率が適用されるわけではない。
ただし少なからぬ原著者が「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」と考えて印税率を高くしていることは想像できる。
さて、ここまで電子書籍の「取次」(+書店)と「原著作権者への印税」を計算すると、すでに70%を超えていることが分かる。この時点で紙本のコストを上回ってしまっているのだ。印刷費も倉庫費もなしで、だ。
ここにさらに「翻訳者への印税」が加わるなら、出版社の取り分はあまり残らないことになる。
電子書籍と紙書籍が同じ値段だったとしても利益は少ないのだ。電子書籍だからといって安くしようがない。
結局のところ、電子書籍に関わるどのプレイヤーも「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」と考え、自分の取り分を増やそうとしていると言える。
さながら大航海時代以降の欧州強国のごとく、電子書籍という「新世界」で領土を奪い合っている状況だ。
結果として、消費者の「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」という期待は実現しなくなる。
とりわけ電子版の翻訳書は「原著作権者への印税」が従来なかったほど重くのしかかる。
現在は紙の本の売れ行きが落ちてきているので、出版社としては電子版との合計で収益を確保しなければならない。
しかし電子版で利益を補えないなら、そもそもの翻訳書出版自体を止めるという選択をしても不思議はないだろう。つまり紙でも電子でも出ないのだ。
翻訳書の電子書籍は安くなるどころか、そもそも出版自体されなくなる(非常に出にくくなる)と感じるのは、このような理由からである。
(注:記事中の数字は私個人の経験によるもので、実際は取引条件などによって異なります)
自分の会社で洋書の日本語翻訳出版権を取ろうと思っていろいろと調べているうちに、とりわけ翻訳書ではそのような期待は実現しないだろうと考えるようになった。
安くなるどころか、電子書籍化が進むと翻訳書は出ない、あるいは非常に出にくくなるとすら感じている。
◆
出版社で紙版の翻訳書を1タイトル作って書店流通させようとすると、以下のようなコストがかかる。ここでは定価2,000円の本を作ると想定し、ざっとコストを計算してみる(人件費などはとりあえず除外)。
A. 取次(本の問屋)
→ 出版社から60%程度で卸す。そのためコストは40%に当たる800円。
B. 原著作権者への印税
→ 7%程度として、140円。
C. 翻訳者への印税
→ 5%程度として、100円。
D. 印刷費
→ 刷り部数や何色刷りかで大きく異なるが、仮に1部200円とする(10%)。
E. 倉庫費
→ 1部預けて毎月3円かかるとして、仮に平均24か月在庫保持で72円(3.6%)。
この場合、2,000円のうち1,312円(65.6%)がコストとなり、出版社は残りの700円弱(34.4%)から人件費や宣伝費や事務所家賃などを払うことになる。
◆
さて、今度は電子版の翻訳書を考えてみる。
まず「D. 印刷費」と「E. 倉庫費」がかからない。そこで冒頭のように消費者が期待するのも当然だ。
ところが、そうは問屋……いや取次が卸さない。
まずは電子書籍にも「取次」がある。
さまざまな情報を合わせてみると、50%程度は電子書籍取次で取られるようだ(※出版社との力関係で異なる)。ただ、これにはその先の電子書籍書店の取り分も含まれる。
実のところ消費者と同様、電子書籍の取次も書店も「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」と考えているのだろう。そこでこの料率となっている。
(なお、取次を通さずに電子書籍書店と直接取引する方法もある)
次に「原著作権者への印税」だ。
紙版の7%程度と比べてかなり高くなっていて、20~25%が一般的という話を聞く。3倍以上だ。事実、私が某海外出版社に問い合わせたら25%を提示された。
もちろん出版社との力関係によっても違うし、原著作権者が低率を提示することもあるので、あらゆるケースでこの料率が適用されるわけではない。
ただし少なからぬ原著者が「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」と考えて印税率を高くしていることは想像できる。
さて、ここまで電子書籍の「取次」(+書店)と「原著作権者への印税」を計算すると、すでに70%を超えていることが分かる。この時点で紙本のコストを上回ってしまっているのだ。印刷費も倉庫費もなしで、だ。
ここにさらに「翻訳者への印税」が加わるなら、出版社の取り分はあまり残らないことになる。
電子書籍と紙書籍が同じ値段だったとしても利益は少ないのだ。電子書籍だからといって安くしようがない。
結局のところ、電子書籍に関わるどのプレイヤーも「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」と考え、自分の取り分を増やそうとしていると言える。
さながら大航海時代以降の欧州強国のごとく、電子書籍という「新世界」で領土を奪い合っている状況だ。
結果として、消費者の「電子書籍って、印刷費も在庫もないから、紙の本より安くなるでしょ?」という期待は実現しなくなる。
とりわけ電子版の翻訳書は「原著作権者への印税」が従来なかったほど重くのしかかる。
現在は紙の本の売れ行きが落ちてきているので、出版社としては電子版との合計で収益を確保しなければならない。
しかし電子版で利益を補えないなら、そもそもの翻訳書出版自体を止めるという選択をしても不思議はないだろう。つまり紙でも電子でも出ないのだ。
翻訳書の電子書籍は安くなるどころか、そもそも出版自体されなくなる(非常に出にくくなる)と感じるのは、このような理由からである。
(注:記事中の数字は私個人の経験によるもので、実際は取引条件などによって異なります)