<2007年3月=東スポ携帯サイト・映画マニア堂より>
「世界最強の格闘技 殺人空手」(1976年・東映=山口和彦監督)
「世界最強」を掲げた格闘技団体はかなり存在する。それも世界中に。
アントニオ猪木が新日本プロレスを旗揚げした昭和47年、九州の地でも同じく「世界最強」を掲げた過激な格闘技団体が発足した。その名は「プロ空手」。
この映画は、プロ空手を率いる大塚剛と、その選手たちの生き様。想像を絶する驚愕のトレーニング法を余すところなく紹介。そしてプロ空手で最強の名を欲しいままにする大塚が、さらなる強敵を求めてアジアを放浪し、戦い続ける模様を追ったドキュメント(?)作品である。
映画は冒頭から「プロ空手とは?」を説明するのに、凄まじく狂ったシーンを連続で畳み掛けてくる。これに小林恭二(ひょっこりひょうたん島のマシンガン・ダンディ、おそ松くんのイヤミ、巨人の星や宇宙猿人ゴリ、太陽にほえろ!の予告編ナレーションでおなじみ)のナレシーョンと、菊池俊輔(仮面ライダーやキイハンター、Gメン’75、タイガーマスク等の主題歌&BGMでおなじみ)作曲のBGMがからみ合うのだから、これだけでもう十分に最強だ。
海岸で自らの身体をロープで縛り、ジープに引っ張らせ、腕から血を流しつつもジープに勝ってしまう大塚(なぜか空手着ではなくスケスケの網Tシャツを着用)。偶然、野原でイノブタを発見し、逃げ惑うイノブタを正拳突きでボコボコ。最後は巨大な金属性の十手でメッタ刺しにして勝利。ナレーションは「大塚のトドメの一撃でイノブタは息絶えた…」とポツリ。これって空手なのか?
プロ空手界屈指の怪力を誇るバッファロー弁慶は、河原で猛然とダッシュしてマムシを捕獲。地面にペシペシと叩きつけ、マムシに食らいつき(とてもマズそうだ…)、最後はマムシを無残にも引き裂いて勝利(何に?)。ナレーションは「猛毒を持ったマムシは弁慶の好物だ。しかも生きたマムシの血を吸うのである」と絶賛。もはや空手はどこかに置き去りにされ、「特ダネ登場」や「ビックリ人間大集合!」ってな世界と化している…。
凄惨な試合シーンのみならず、負傷した選手が病院に担ぎ込まれる場面まで、ピッチャーから病院の天井を映す「ベン・ケーシー」のオープニング風に収録。また嵐五郎が博多の裏町で「この八百長空手!」とチンピラにからまれ、乱闘するシーンまで収録に成功している。
真打ち・大塚の対戦相手は「ロサンゼルスの黒人チャンピオン」(何のチャンピオンかは不明)という実にザックリとしたプロフィルのKKジャクソンと対決。アッサリと勝利した大塚は「このままで良いのか?」と自問自答した末に、さらなる最強を追い求め、世界ケンカ旅行へと旅立つのだった。
まずカンフー発祥の地・香港に降り立った大塚は、ヌンチャクや棒術で襲い掛かる香港カラテ軍団を撃退。続いてマレーシアへと飛んだ大塚は、シラリンチャンなる格闘技の達人と対戦し、ナイフで襲い掛かる相手の腕をワキ固め(これは空手ではなく柔道技だ)でヘシ折って勝利。
続けて地上最強の武闘集団・ブルキッシュとの戦いを求め、ネパールへと飛んだ大塚は、死を覚悟して山岳地帯の寺院に潜入。ここでは野牛の仮面を被りナイフを振り回す(どんな格闘技だ?)ブルキッシュ最強の戦士と対戦。緊迫したムードの中、決闘は開始されたが、大塚は首からブラ下げた巨大な数珠をヒュッと伸ばして槍状にすると、腹部をえぐるように一突きして勝利。
またまた「大塚の空手が勝った」とナレーションがかぶるが、これのどこが空手なんだ…?
大塚は死亡したブルキッシュ最強戦士の屍を、現地の風習に従って、河原で焼くと(ガイコツが転がっている…)、そっと手を合わせてネパールを去る のだった。
仮面ライダーとGメン’75の香港カラテ編、空手バカ一代と、川口浩探検隊シリーズをゴッタ煮にしたようなこの映画こそ、健康バラエティ番組に騙されて「ヤラセだ!」などと騒いでいるような連中に観て欲しいモンだ。この映画は観る側の心構えによって、ドキュンメンタリーにもスポ根にもコントにも変化する、日本映画史に残る大傑作なのだ。