<2006年12月=東スポ携帯サイト「映画マニア堂」より>
「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」(昭和44年東映=石井輝男監督)
今回も18禁。タイトル通り、明治・大正・昭和時代に起きた実際の猟奇犯罪をオムニバス方式で映画化している。
イメージの湧かない方は「ウィークエンダー」の再現フィルムを、よりエロく、よりグロく映画化したモノだと想像していただきたい…って、余計に分かりづらいか。
映画は検察医・村瀬(吉田輝雄)が何らかの事件により自殺した妻をメスで切り刻み解剖しつつ「なぜだ?」と自問自答するモノローグからスタート。そして村瀬が妻の遺体を中央からガバッとかっさばき(まるで人気店のオムレ
ツの如く中から飛び出す臓器…)オープニングが終わる。
その村瀬が妻の自殺の謎を解き明かすために法医学教室を訪ね、過去の猟奇犯罪を追うことで狂言回し役を担う。
題材となるのは昭和35年の「ホテル日本閣事件」(劇中では東洋閣事件)、昭和11年の「阿部定事件」、それに連鎖した「象徴切り事件」、連続婦女暴行魔の「小平義雄事件」、「毒婦高橋お伝事件」の5つ。
特筆すべきは、やはり「阿部定事件」だろう。この映画のほかにも「実録阿部定」(昭和50年=宮下順子)、「愛のコリーダ」 (昭和51年=松田英子)、 「SADA」(平成10年=黒木瞳)と、阿部定事件を題材とした映画、阿部
定を演じた女優は数あれど、この映画にはかなわない。
何しろ正真正銘、本物の「阿部定さん」が登場して事件の顛末を語っているのだから最強だ。
なぜか隅田川の吾妻橋(まだ都電が走っている)で、吉田輝雄にインタビューされる“リビングレジェンド”阿部定さんは、パリッと青い着物を着こなしつつ、事件当時の思い出を語る。
「あの人(石田吉蔵)は喜んで死んだんだからね。殺してくれって何べんも私に言ってたから」
「(殺した後)何か持って行きたいと思う気持ちになるのは当たり前のことでしょ? 人間をおぶっていくワケにはいかないから。そしたらね、アソコ…まあ男のモノを持っていくしかないわよね」
その後、賀川雪絵演ずる阿部定による再現フィルムが始まり、数奇な運命が描かれた後、画面は再び吾妻橋に戻る。
「浮気とか、ちょっといいなってのはいっぱいね。まあアレだけど、人間ですから…。でも芯から好きだってのは1人だけですよ」と、まさに“一刀両断”の恋愛論かく語りき。
修羅場をくぐってきた人間の言葉は、やはり重たい。
阿部定さんは吉田輝雄に深々と頭を下げつつ吾妻橋を墨田区方面へと姿を消した。
「チン切り」というショッキングな事件を茶化すのではなく、真摯な姿勢で伝える素晴らしい映画だと一瞬思ってしまった…が、石井輝男監督はそんなに甘くもヌルくもない。
次の瞬間、舞台は四国に移り、なぜか学生服姿の由利徹が登場。80歳も超えようかという老婆に迫られ、それを拒否したことでオチンチンをハサミでチョキン!。
続いて静岡では浮気のバレた大泉滉がチョキン!。血で染まった股間を押さえて「ウワッ…ない」と叫ぶ大泉滉の声は、そのまんま「ダメおやじ」だ。
やっぱり事件は完全に茶化されているのだった。
その他にも小平義雄を演じる小池朝雄の狂気迫る婦女暴行シーン(とても数年後に刑事コロンボになる人とは思えん…)や、ついつい小平に感情移入してしまいがちな、リアルな死刑執行場面。暗黒舞踏の土方巽演ずる首斬り浅右衛門が、高橋お伝(由美てる子)の首をバッサリと斬り落とすシーンなど、凄まじいシーンが満載。観るべし!