<2007年2月=東スポ携帯サイト「映画マニア堂」より>
◎温泉ポン引女中(昭和44年・東映京都=荒井美三雄監督)
舞台は和歌山・南紀白浜の温泉街。老舗温泉旅館「望海楼」の女中頭のイク代(葵三津子)は、女中たちにポン引をやらせ、ブルーフィルム上映会などでスケベな観光客を旅館に引き込み、何とか盛況を保っていた。
そんな平和(?)な温泉街に関東のヤクザ組織「昇竜会」がショバ代稼ぎに乗り込み、本番ストリップをウリとしたキャバレー「ナポリ」を開店。
それだけならまだしも、行方不明となっていた妹・ミミ(橘ますみ)が、その昇竜会のヤクザの情婦(しかも父親不明の赤ん坊・ヒロコを連れて)として、温泉街に帰ってきたからさあ大変。
物語は「姉vs妹」「老舗旅館vs新興キャバレー」「ポン引vs本番ストリップ」「警察vsヤクザ」という対立構造が軸。その双方を調子よくフラフラと行き来して対立構造を悪化させる風俗ルポライター・南原宏治の怪演が光る。
誘われるがままに新興キャバレーで本番行為に挑み、ギャラリーや盗撮生中継の存在に気がつくと、なおも燃えたぎる南原の表情はかなり危ない。ダイヤモンドアイに外道照身霊波光線を浴びせられ、キングコブラに変身するときよりも、なおも怖い…。
他の温泉シリーズと同様に「セックス勝負」で数々の対立に決着をつけるのかと思いきや、さすがは鬼才・石井輝男監督の愛弟子である荒井監督だ。ラスト30分で、映画はいきなり、スプラッター路線へと方向転換するのだった。
ショバ代稼ぎのため昇竜会が、港のはずれで「野獣パーティー」(乱交パーティーみたいなモンか?)を主催。なぜか顔を白塗りにして全身に黒髪を巻きつけた暗黒舞踏の面々が場内で乱舞する中、敵対するイク代の密告により警察隊が突入し一斉摘発を受ける。
復讐に燃えた昇竜会は何とモーターボートで海上を激走し、ガラスをブチ破り「望海楼」の温泉に突入(ありえない!)。そのまま浴槽でグイングインとボートを回転させ、仕事が終わって温泉で一息ついていたポン引女中たちはスクリューに巻き込まれ、腕は飛び、足はちぎれ、ミンチとなって死亡。血の海と化した温泉は阿鼻叫喚の地獄絵図に陥る。
その頃、ミミも密告の容疑で昇竜会のリンチに合っていた。だがヒロコの父親候補の1人・サブが身代わりで蜂の巣となり逃亡成功。港で再会した姉妹は仲直りして「ヒロコを日本一の娼婦に育ててやる!」(ミミ)、「姉ちゃんもガンガン身体を売って稼ぐよ」(イク代)と星空に誓い合うのだった。他の職業が全く見えていないのが潔い…。
で、よせばいいのに拳銃片手に昇竜会に復讐を挑むも、赤ん坊を人質にアッサリと逆転される。昇竜会組長(なぜかこの手の映画には珍しい高橋昌也)は事もあろうに、芝生に寝転がせた赤ん坊を射撃の的にして挑発し、今度は車でひき殺すことを指令。この時、ヒロコをかばったイク代がハネられアッサリと絶命。ミミはヒロコをおぶって逃亡し、それを追った昇竜会組長の車がガケ
から転落してジ・エンド。
最後はヒロコを背負ったねんねこ姿のミミが、港で「子連れポン引」しているシーン。この時「冗談じゃねえ。コブつき女が買えるかよ」といったんは誘いを拒否するも、ポロリと見せられたミミのオッパイにイチコロでKOされる客が、ノンクレジット出演の小池朝雄だ。小池から手渡された1万円札を背中の赤ん坊が満面の笑顔で受け取る場面で「完」となる。
色んな意味で凄いシーンが満載。タイトルの語感だけで油断して観ると、とんでもないトラウマを植えつけられてしまうから要注意なのだ。