太陽の塔/森見登美彦

テーマ:
小説諸説。

『太陽の塔』 森見登美彦 (新潮文庫)
オススメ度: ★★★☆☆


一番最初に読んだ森見作品は『夜は短し歩けよ乙女』。

これで一気に森見ワールドの虜になりました。

『四畳半神話大系』も既読ですが、

ようやくデビュー作を手に取る運びとなりました。

(上記2作もそのうちレビューに書くつもりです)


森見作品の魅力は、なんといっても独特の語り口調。

古めかしくもあり、言い訳がましくもあり、遠回しでもあり、

それでいて、軽快で、共感できるフレーズの数々。


舞台となっている京都の、歴史を感じる地名もまた、

森見ワールドに欠かせないエッセンスでしょう。

【百万遍交差点】とか、最初フィクションだと思いました。

(京都の皆様ごめんなさい。)


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この物語は、主人公「私」の独白です。


京都大学農学部5回生の「私」。

わけあって、イギリスに留学したり、休学したりの身分。


(完全に余談ですが、この関西特有?の

 【~回生】という表現、綾辻氏の作品で初めて知り

 文化の違いに驚きました。)


3回生の時に付き合った「水尾さん」の研究をする、

要はさえないストーカーなわけです。


彼と【モテない男同盟】を組んだ、

あらゆる面で師匠的存在・飾磨(すごい名前!)、

ひげもじゃの気のいいオタク・高藪、

超ネガティブ人間・井戸。

「私」と同じく「水尾さん」に付きまとう遠藤。


このあたりが物語の中心人物。


あとはひたすら、「私」が「水尾さん」を追っかけたり、

男4人で馬鹿なことをしたり、いろんな考察をしたりする

どうってこのない大学生の日常。


それなのにこんなにも痛快で、ちょっぴり切ないのは、

森見氏独特の文章によるものでしょう。


プライドは高いけど、やる気もないし、何もできない男たちの

言い訳がましい文章の数々には思わず噴出します。

よくもまぁ、こんなことが言えるなぁ!と。


― 何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。

   なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。


という文章から始まる物語。

そんな、男子学生たちのちょっぴり甘酸っぱい成長日記。


特に後半、【クリスマスファシズム】と言いながら、

迫り来るクリスマスムードに、自分たちの幸せを不安になる姿は

共感せずにはいられません。笑


正しいことを言っているのに、少数派ゆえ受け入れられない彼ら。

でも、大多数に流されてもいいんじゃないか、

やっぱり自分たちが間違っているのか、いやそんなはずはない、

とひたすらに反芻する彼ら。

超愛すべきキャラクターですよね!

思わず立ち止まって、周りを見て、こんなふうに思うんです。


― しかし、時には型にはまった幸せも良い、と

   我々は呟いたこともあったのではないか。


そうだよなー、私も学生の時そう思ってた。

自分はやろうと思えば何でもできるけど、

今はまだ時期じゃないんだ、って言い訳してた。

他人より優れていたいけど、実際には優秀でもないし、

言い訳がましく生きていた気がする。

「何かやってみせる!」とか思いながらさ。

【高邁な理想】だけは絶えず持ってたんだよなー。


だから、すっごく共感してしまう。


そんな彼らが最後に起こす【騒動】は、

なんというか、スゴイ。笑

群集心理というか、集団意識ってオソロシイ。


ま、いろいろ生きにくい世の中だけど、ええじゃないか。


それにしても、男子学生って本当に妄想のかたまりだ。


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それにしても、森見作品には同じキーワードが何度も出てきます。

『夜は短し歩けよ乙女』の「私」も、

『四畳半神話大系』の「私」も、

下鴨泉川町の「下鴨幽水荘」ですが、

今回は高藪がこのアパートに住んでいます。

きちんと読めば、何か関連性がわかるのかな?


森見作品を読むと、

私はまだまだ日本語が上手に使えていないなぁ、と思う。

いつか、こんなステキな日本語使いになれるのが夢。


太陽の塔に、すごく行きたくなる作品。