イノベーションを生むアートな直感力

「理数+芸」教育の必要性

2018年10月9日(火)

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(写真=PIXTA)

 『人生を変える「数学」そして「音楽」:教科書には載っていない絶妙な関係』(中島さち子著、講談社)というユニークな書籍がある。高校時代に数学オリンピックで金メダルを獲り、その後、東大理学部の数学科に進学。卒業後は、ジャズピアニストとして活動しながら、数学の面白さを伝える教育活動にも携わるという著者。お目にかかった際も、本当にユニークかつ素敵な方だな、と思ったのだが、お書きになった本もなかなか面白い。

 一見、かけ離れた領域である数学と音楽には、実は類似点があり、また両方を股にかけることで、相互に良い影響があるという趣旨の話が出てくるのだが、単にそれをご自分の体験談として文章化するだけではない。書中のところどころに、数学(的)クイズや楽譜・リズム譜が掲載されているのだけれど、これは読者にも、それぞれの世界がいかに楽しいものか、感性と論理の組み合わせがいかに重要か、といったあたりを、さわりだけでも体験させようというものだ。

人間の感性、情緒の力こそが大事

 数学と音楽というと、どちらも超人的な才能に恵まれた人たちが、厳しい研鑽を通じてプロになるというイメージで、素人には、敷居が高い。そこをなんとか乗り越えさせよう、乗り越えた先には本当に面白い世界があるのだよ、ということを伝えたいという思いと、そのための工夫が豊富に盛り込まれている書籍なのである。

 例えば、同書の冒頭あたりに、
「数学における発見は、『論理詰め』だけではなかなか得られないものです。発見の際には、何が一番自然なことであるかを自由に感じたり、背後にある正体を感じたり、思いもよらない類似性を身近なものから嗅ぎ当てる、人間の感性、情緒の力こそが、とても大事なのです」

 ……という文章があるのだが、この辺のところをなんとか実感してもらいたい故に、数学(的)クイズをどんどん発展させる、といった工夫がなされる。

 逆に言えば、単純に「著者のメッセージだけ知ればよい」というタイプの読者には、あまりお勧めできないところもあるのだが、私などは、「こんな思いと工夫の豊富な本はいいな」としみじみ思わされた。

 話は変わるが、最近あちこちでSTEM教育の重要性が言われる。STEM、すなわちScience, Technology, Engineering, Mathということであり、デジタル時代には理数的教育が不可欠なのに、今の教育システムの中では、それが十分に満たされていない。これは国の競争力を維持する上でも、大きな課題だ。こういう論調であり、私自身も大いに賛同するところだ。

 ただ、個人的には、これにArt、すなわち(音楽を含む)芸術教育も加えるべきだと思っている。

 米国や中国、あるいはインドと比べて、コンピュータサイエンス専攻の学生数が、異常なくらい少ないので、これを増やそう。あるいは文系を選択すると、ごくごく基本的な理数系の知識もなしに大学受験と大学教育を通過してしまい、あらゆる分野がデジタル化する中で、きちんとした判断ができないビジネスパーソンになってしまう。せめて、統計的素養や基本的なコンピュータサイエンスは、全ての大卒者に持たせるようにしよう。そのためには、高校時代の教育内容についてもSTEM的要素を必修化させよう。

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「イノベーションを生むアートな直感力」の著者

御立 尚資

御立 尚資(みたち・たかし)

BCG シニア・アドバイザー

京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士。日本航空を経てボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。BCG日本代表、グローバル経営会議メンバー等を歴任。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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