二十代の中頃。俺は働き始めから実家の大黒柱だった。

収入の大半を家族の為に母に渡していた。

母は保育士の資格を持っていたが、それで出来る仕事の給金はたかが知れている。

姉はまだ医者になる夢を諦めきれずに大学受験をしていて、収入が安定していなかった。

父は脳梗塞による半身不随で何もする事が出来ず、一日中テレビを見て、母に何かしらの文句を言っては口論するだけの生活をしていた。

弟はまだ学生だった。

母に金を渡しているにも関わらず、衣食住に関する支払いはよく滞った。

その頃の母はそうそう宗教への献金もしていなかった筈だ。

五人も人間が生活している家だ、倒れた体に鞭を打って非正規で働いている俺にはまかないきれなかった。

ある日、家賃の滞納の督促状が半年分たまっているのが冷蔵庫に貼り付けられていた。

俺は母を問いつめたが、数日後までに一度に支払わなければ家を追い出されるという事が分かっただけで、細かい事までは要領を得なかった。

仕方なく、そのまま消費者金融に走って数十万円を一度に借り、事無きを得た。

俺のサラ金への借金は三桁に達しようとしていた。

弟は働き始めても家を出ようとせず金を一円もいれる事無く、外食を繰り返し十万以上する服を購入したり数十万かけて海外旅行などし、時には俺に借金をしていた。

弟に言わせると、俺は自分勝手な人間で、弟自身には社会性があるらしい。

自分の事しか考えていない人間の言う事は、よく分からないね。

ある時期から、弟が俺に喧嘩をふっかけてきて口論になるとキメ台詞のようによく言っていた。

「お前は親父にそっくりだ」と。

俺はそう言われても、長い間、それだけは弟に言わなかった。

そう言われる事が俺たち兄弟をどれだけ深く傷つけるか、言われる度に眠れない夜を過ごす事になるかを、俺が一番良く知っていたからだ。

しかし、俺の気遣いや優しさは無駄だったらしい。

弟は昔から、本当に親父にそっくりだったよ。

兄弟の中で一番父親に似ているのは間違いなく弟だろう。

そして弟は、母を見殺しにした、母の兄弟達にとてもよく似ている。

自分さえ良ければ家族なんて、兄弟なんてどうでもいい、器の小さい甲斐性なしのクズだ。

その内、父がそうしたように、酒を飲んで怒鳴り散らし、自分の嫁や子どもを殴るようになるだろう。

もうやっているかもしれない。

弟は、そういう人間だ。

反吐が出るぜ。