トルコ政府、サウジ政府批判の記者は領事館で殺害と 結婚用の書類を取りに

File photo of Jamal Khashoggi (8 May 2012) Image copyright EPA
Image caption ジャマル・カショギ記者は2日昼を最後に消息を絶った(写真は2012年5月撮影)

サウジアラビア人で同国政府に批判的だった著名記者、ジャマル・カショギ氏(59)がトルコ・イスタンブールで消息を絶っている。トルコ政府関係者は7日、記者がサウジアラビア総領事館で殺害されたようだとBBCに話した。米紙ワシントン・ポストにも定期的に寄稿していたカショギ記者は、2日昼に総領事館を訪れる様子が確認されている。領事館には、結婚に必要な書類を取りに行ったのだという。

トルコ与党・公正発展党の関係者はCNNトルコに対して、カショギ記者がイスタンブールのサウジアラビア領事館で殺害されたという確かな証拠があると話したが、具体的な証拠の提示はなかった。

サウジアラビア政府は疑惑を否定し、カショギ記者の「捜索に協力」していると主張した。

カショギ記者はワシントン・ポストの論説に定期的に執筆していた。同紙は4日、カショギ記者の記事が掲載予定だった面を空白にして掲載した。論説面の責任者、フレッド・ハイアット氏は7日、「もしジャマル殺害の情報が本当なら、これは恐ろしい、想像しがたい行為だ」と非難声明を発表。「ジャマルは、熱意と勇気を備えた記者だった……記者だ、と言えるよう願っている。国を愛し、人間の尊厳と自由を深く信頼する心をよりどころに文章を書く。自分の国で、中東で、そして世界中で尊敬されている」と書いた。

結婚のため書類を取りに

カショギ記者は、トルコ人婚約者ハティス・チェンギス氏と結婚を控え、元妻との離婚証明書を取得するため、トルコ総領事館を訪れたという。

チェンギス氏は、総領事館の前で11時間待ったものの、カショギ記者は出てこなかったと話している。

Jamal Khashoggi's fiancée Hatice waits in front of the Saudi consulate in Istanbul on 3 October 2018 Image copyright EPA
Image caption イスタンブールのサウジアラビア総領事館の前でカショギ記者を待つ婚約謝恩ハティス・チェンギス氏

チェンギス氏によると、カショギ記者は総領事館に入る際に携帯電話を係員に預けた。これは一部の外交公館では通常の手続きだ。

記者は、もし自分が戻らなかったらトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の顧問に連絡するよう、チェンギス氏に指示していたという。

ハティス氏は、カショギ記者の写真と共に、「ジャマルは死んでない。殺されたなんて信じられない……!」とツイートした。殺害情報が飛び交うと、正式な確認を待っていると書いた。

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トルコ政府の言い分は

トルコ政府関係者は、記者は総領事館の敷地内で殺害され、遺体は施設外に運ばれたと話している。

トルコ捜査関係者によると、2日には15人の一行が領事館に到着し、同日中にサウジアラビアの首都リヤドに戻ったという。

トルコ・アラブ・メディア協会のトゥラン・クシラクチ会長は米紙ニューヨーク・タイムズに、総領事館を警護するトルコ警察が防犯カメラ映像を確認したが、記者が歩いて総領事館を出る様子は確認できなかったと話した。ただし、外交関係者の車両の出入りはあったという。

これに対してエルドアン大統領は7日、慎重な姿勢を示した。トルコ警察は引き続き、総領事館や空港を人が行き来する映像を確認しており、その捜査結果を待つ間は自分は「楽観」を続けると述べた。

サウジアラビア政府の言い分は

サウジアラビア政府は、記者を領事館内で殺害したなど根拠のない憶測に過ぎないと反発している。領事館にカショギ記者がいないことを示すため、報道陣を中に招き入れた。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は米ブルームバーグ・ニュースに、「我々は何も隠し立てなどしない」のでトルコ当局による家宅捜索を受け入れると述べた。

皇太子は、カショギ氏は「数分から1時間の間に」領事館を出たと理解していると述べ、自分たちとしても記者に「何があったのかぜひとも知りたい」と話した。

Saudi consulate in Istanbul, Turkey (3 October 2018) Image copyright AFP
Image caption 在イスタンブールのサウジアラビア総領事館は、カショギ記者は書類手続きを済ませて退出したと話している

カショギ記者は母国サウジアラビアで刑事訴追されているのかと聞かれると、まずは居場所の確認が必要だと皇太子は答えた。

カショギ記者とは

皇太子に批判的な著名記者で、ツイッターのフォロワーは160万人以上

サルマン皇太子による様々な改革は欧米で称賛されているが、その一方で批判勢力を強行に取り締まっている様子だ。人権や女性の権利活動家、有識者や聖職者が次々と逮捕されている。この間、サウジアラビアはイエメン内戦に軍事介入しており、イエメン国内では人道的危機が続く。

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カショギ記者はアル・ワタン紙やニュース・チャンネルの編集長を務めた。長年にわたりサウジ王室と親しく、政府高官の顧問も務めた。

しかし、複数の友人が逮捕され、アル・ハヤト紙のコラムが連載中止となった後、ツイートをやめるよう警告されたとして、カショギ記者はサウジアラビアを離れ米国に移住した。米国では、ワシントン・ポストに論説記事を連載し、アラブ圏や欧米のテレビに出演を続けた。

記者は2017年9月、「私は家と家族と仕事を後にして、声を上げることにした」とワシントン・ポストに寄稿した

「そうしなければ、刑務所で弱っていく人たちを裏切ることになる。大勢が発言できずにいる中、私は発言できるので」

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<解説> ただでさえきしんでいた両国関係――マーク・ローウェンBBC記者(イスタンブール)

トルコ政府による爆発的な告発だ。現地当局はまだ裏づけの証拠を提示していないが、これほどの内容を確かな根拠なしに主張するとは考えにくい。トルコ政府にとって、サウジアラビア政府との関係は、根も葉もないうわさの犠牲にできるような軽いものではない。

しかし両国関係は、いくつかの問題ですでにきしんでいた。サウジアラビアなどによるカタール経済封鎖に際して、トルコはカタールを支援した。イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」をサウジアラビア政府はテロ組織認定しているが、トルコは同胞団を支援している。サウジアラビアの仇敵イランとも、トルコは融和姿勢を見せている。

北大西洋条約機構(NATO)に加盟するトルコは、同盟国・米国からの支援を期待するだろう。しかし、ドナルド・トランプ政権にとってサウジアラビアは中東最大の同盟国になりつつある。それだけに、米政府が現時点ではサウジアラビア政府に働きかけることはないかもしれない。

(英語記事 Jamal Khashoggi: Turkey says journalist was murdered in Saudi consulate

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