緋山さんが足りない。
すれ違いのシフトが続きすぎて、職場では業務連絡、家に帰れない時もあったり、帰ったとしても2人でゆっくり話す時間もない。
「はぁ…足りないなぁ…触れたいなぁ」
「…緋山先生に?」
「っ?!…さえじま…さん?」
「何日か前から顔にははっきり書いてましたけど、声に出すのはどうかと。ここ職場ですよ、スタッフリーダー。」
「えっ?声に出してた?」
「……その顔、おもしろいですから緋山先生が出勤されたら報告してもいいですか?」
「待って、待って、それだけは…ごめんなさい…気を付けるから言わないで!!」
「無自覚なんですよね?何をどう気を付けるんです?大体少しくらいすれ違ったぐらいで…」
「少しじゃないもん…もう5日ぐらい…」
「…はい?」
「ごめんなさい…ラウンド行ってきます…。」
冴島さんの氷のような視線から逃れるようにラウンドに向かいながら、「5日って結構長くない?」という反論は必死で飲み込み、私はある決心をしたのだった。
…今日、緋山さんは当直だ!これはチャンス!
「あー、じゃあ、あたし仮眠とってくるわ~」
と当直の緋山さんが仮眠室に向かったのを確認して私は慌てて後を追った。
「緋山さん!」
「あー、白石お疲れ。やっとカルテの記入終わったの?早く帰って寝なよ?寒いんだから暖かくしてね。疲れてるからってお風呂で寝ちゃだめだよ?お酒も飲みすぎないようにね。」
と優しい言葉をかけてくれる緋山さんに罪悪感を抱き、早くも決心が鈍る…。
いや、でも、もう5日!我慢できない!これ以上すれ違いが続けば仕事に響く!
疲れてるんじゃなくて緋山さんが足りないんだ!
「ちょっと来て」
強引に緋山さんの腕を掴みある方向へ引っ張っていく。
「ちょっと、何?あたし仮眠取るんだけど?方向違うよ?」
「そうだね」
「…どこ連れていくつもりよ、あんた?」
「んー?昼間に空いた個室がいいかなぁ?」
「はぁ?…ちょっと待った!嫌な予感する!やだ、行きたくない、放して!!」
「ごめんね?無理」
「無理ってあんた…。あたしは仮眠室に行きたいの!」
「仮眠室だと誰かが入ってきたら困るじゃん」
「何であんたまで来る前提なのよ!1人で寝るの!何も困らない!だから放せ!」
「やだよ。」
「ここ職場!私は勤務中!!」
「でも、仮眠でしょ?」
「仮眠でも仕事のうち!何考えてんの!」
「…だってもう5日だよ?」
「何がよ?」
「5日も緋山さんとの時間取れてない。何もできてない。もう我慢の限界!」
「いちいち日数数えるな。たった5日ぐらい我慢できんのか!中学生か!」
「冴島さんにもよく似たこと言われたけど、できないよ?」
「冴島にも言われてるのか…。てか、当然のように言うな!」
「そう我がまま言わずに…」
「どっちが!」
そうして私は嫌がる緋山さんを個室に連れ込んだのだった…。
…続く…かな?