安倍晋三首相が「国難と呼ぶべき」という少子化問題。対策は多々立てたが成果は見えない。政府任せでなく、企業が真に産み育てる人に合わせた環境づくりを進めることこそ大事だろう。
「社員と、その家族を大切にする経営の企業では、総じて社員の子供の数が多い」-。
こんな仮説を立て、検証する作業が進められている。立証できれば、こういった企業経営を広めることによって財政資金を投じることも、また制度改正もせずに出生率を上げられるという発想である。
企業の経営者や経営学者、弁護士、産業医、社会人らが立ち上げた異色の経営学会、「人を大切にする経営学会」(代表・坂本光司元法政大大学院教授)の試みだ。
同会は、全国七千社余の実地調査の結果、社員、家族、取引先など会社に関わる人を大切にする経営の企業は、好不況に左右されず安定的に業績が良いとの理論を掲げている。
経営理念と社員の子供の数の関係は調べてこなかったが経験的に関係があると感じていたという。
厚生労働省は「くるみん認定」という制度で子育てをサポートする働きやすい企業を紹介したり、「女性の活躍推進企業データベース」で情報提供したりしてきた。
だが、長時間労働で過労自死事件が起きた電通がくるみん認定を受けるなど、出産や育児に関する指標だけで判断するのは危ういことが浮き彫りになった。いくら子育ての制度が充実していたとしても、過労など肝心の労働環境が悪ければ元も子もない。
同学会の調査は、くるみん認定された企業のうち百五十社を選び、過去三年間の平均育児休暇取得率や育児休暇中の賃金支給の有無などのほかに、残業時間や離職率、在宅勤務の有無といった働く環境を重点的に調べる。
まだ中間的ながら一定の傾向は表れているという。それは人を大切にする企業は社内の雰囲気がよく、社内結婚も多い。業績が安定しているのでリストラにおびえることもなく安心して働くことができ、子供のいる社員の平均的な子供の数は二人以上だった。
大事なことは、将来不安がなく幸せを感じながら働くことができる環境づくりである。本来は当たり前のことだ。
残念ながら財界トップらによる社会保障改革では少子化対策の効果は期待できない。働く現場で変えていくのが近道だろう。
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