世界最大級の水産市場、築地市場(東京都中央区)が六日に営業を終える。十一日に開場する豊洲市場(江東区)は土壌や地下水の汚染不安が拭いきれず、まずは「安全安心」を確立するべきだ。
「魚の新鮮さ、種類の豊富さは、世界中どこを探しても築地に匹敵するような魚市場はないのではないでしょうか」。この夏亡くなった仏料理の巨匠、ジョエル・ロブションさんの言葉だ(月刊ソトコト編集部編「築地を考える人」から)。東京や欧米に一流店を構え、すしや刺し身も愛したシェフの評は最高の賛辞ではないか。
築地の開場は戦前の一九三五年。全国の産地から質の良い魚介を集めて築いたブランドとは裏腹に、施設の老朽化は深刻だった。外気にさらされた開放型建物は暑さや湿気を防げず、耐震不安もある。現地での再整備が頓挫した以上、移転はやむを得ない。
しかし、最新設備を備えた豊洲への移転後にこそ、中央卸売市場の存在意義が問われることになる。というのも築地は近年縮小を続け、水産物取扱量や水産仲卸業者数が八〇年代の半分以下になった。日本全体の漁業生産量が減っている上、産地からじかに小売店などに流れる市場外取引が増えているからだ。
都内のある割烹(かっぽう)では、インターネット直販サイトでの仕入れが増えたという。スマートフォンで魚介の画像を見て注文し、宅配も頼める。「夜の客に出す魚は築地で仕入れるが、ランチの魚はネットで間に合う」と経営者。こうした動きが加速すれば、都が約五千七百億円も投じた新たな「台所」豊洲の価値が揺らぐ。変化を先取りし、多様化するニーズに応えるため、知恵を出し合うべきだ。
豊洲は開場後も年間約二十億円の赤字が予想される。築地の跡地利用も決まらず課題が山積するが、何より大切なのは食の安全と消費者の安心である。豊洲ではこの二年、土壌汚染対策の盛り土が建物下にない問題、地下水中の有害物質が環境基準を超えた問題が発覚。小池知事は対策工事の実施を理由に七月、安全を宣言したが、最新の地下水検査でも基準超過は続いている。
確かに地下水は使わず、専門家会議のお墨付きも得たが、不安に思う人がいるのは当然だ。地下水をくみ上げる浄化システムが期待通り働くのか。液状化現象で土壌が噴出したらどうするか。今後も監視し必要な対策を取るべきだ。
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