従来のCCFLインバータ回路はノートパソコンや液晶テレビに使われていたので、ネットで公開されている既存のインバータ回路は電池駆動かDC12VまたはDC24Vのものばかりでした。
最近のCCFLは照明用で使われますので、AC電源から直接駆動されるものになります。このタイプのインバータ回路は公開情報が少ないので少しまとめてみました。
AC電源直接駆動のインバータ回路は液晶バックライト用のインバータ回路と比べた場合、いろいろと違うところがあります。
以下に、CCFLのインバータ回路に関する基本動作の説明をしましたので参考にしてください。
まずは、液晶バックライト用のインバータ回路です。
特徴を述べると、
1.DC駆動である。電源電圧は安定している。
2.他励型という方式である。
3.CCFL駆動用のICが多数発売されている。
4.昇圧トランス二次側で共振させている。
5.タイプに、高効率設定と高漏れインダクタンス設定の二つがある。
6.バックライト点灯起動の際に、駆動周波数を高くする機能がある。
7.CCFL破損の場合に備えてOVP(過電圧保護)回路がある。
8.ACからDCへの変換は外部のスイッチングレギュレータに任せている。
というものです。
一方、一般照明用のインバータ回路はAC電源から駆動するので整流回路を含んだ回路になります。
そうすると、今までのDC駆動では配慮しなくても良かったことがたくさん出てくるようになります。
1.AC駆動である。整流回路が必要である。電源電圧変動がある。
2.外気温変動がある。CCFLのインピーダンス変動が大きい。
3.液晶バックライトみたいにガッチリした筐体ではない。ゆがんで寄生容量変動がある。
4.EMIフィルタが必要である。
5.ハイサイドドライバーICが必要である。
6.他励共振型または電流共振型という方式である。
7.電源用の一般的なICが流用されている。(専用のICもある)
8.昇圧トランス二次側で共振させている。
9.タイプに、高効率設定と高漏れインダクタンス設定とHigh-Q設定の三つがある。
10.バックライト点灯起動の際に、駆動周波数を高くする機能がない。
11.CCFL破損の場合に備えてOVP(過電圧保護)回路がある。
などです。
●別目的のICを流用したインバータ回路
電源用の一般的なICを流用し、OVP(過電圧保護)回路も、EMIフィルタもない回路は以前にも紹介しましたが、以下のような回路です。
これはIR2153という汎用のハイサイド・ドライバICまたはそのセカンドソースのICです。もともとCCFL駆動専用のICではありませんから、点灯起動の際に駆動周波数を少し高くしてその後低くするという、スタートアップ機能も過電圧保護回路もありません。
CCFLインバータの場合、他励共振型の回路を採用するのであれば、点灯起動の際に駆動周波数を高くする機能が必要なのですがそれがないわけです。また、この回路は電源電圧変動や外気温変化に弱いという致命的な欠陥を持っています。この回路では少しでも設定を誤ると、容量性駆動(ハードスイッチング)が起きてスイッチングトランジスタ(FET)が発熱したりICが破壊されたりします。IR2153系はただの発振回路であって、それを使ってCCFLを駆動するのは他励共振型と言いますが、この方式を使う以上、器具および回路の設計には液晶メーカー並みの管理能力と専用インバータ回路メーカー並みの職人芸的設計能力、共振回路に関する豊富な知識などが必要になります。
回路が簡単だからといって、素人が簡単に設計できるというものではありません。
●CCFL駆動に適したICを使った場合のインバータ回路
ここで新たに出来上がったCCFL駆動専用のハイサイド・ドライバICの、NTS3733を使ったインバータ回路を見てみましょう。
回路はかなりシンプルですが必要な機能は全て備わっています。このICが入手できない場合はIR2104またはそのセカンドソースと若干の外付け回路で代替できます。
このインバータ回路の各部の働きを見てみましょう。
AC100V入力ですので、最初の回路にはEMIフィルタが入っています。フィルタの前にあるヒューズとPTCサーミスタは回路が故障したときのための保護回路です。
EMIフィルタはコモンモードチョークL1とデファレンシャルモードチョークL2、それと、アクロス・ザ・ライン・コンデンサCX1とで構成します。
ここで、アクロス・ザ・ライン・コンデンサというのは特別なコンデンサで、自己共振周波数も高く、ノイズ除去の目的のほかに耐サージ特性などの認証を受けたコンデンサです。ここに一般的なフィルムコンデンサを使うのは邪道です。
コモンモードチョークコイルというのはごく普通に出回っているのでつい軽視しがちですが、これも安いものを用いるとフェライトコアの特性が規定以下だったり、コア接合面が研磨されていなかったりなど、フィルタ効果が怪しいものを使ってしまうことがあります。理想はそれぞれのコイルが2-3セクションに分割されているものであり、必ず自己共振周波数とフェライトコアの材質を仕様書でチェックできなければなりません。(コモンモードチョークコイルの仕様書の例)
仕様書のないコモンモードチョークコイルには注意しましょう。極端な場合、コイルがあってもなくても同じだったりします。
次に、ハイサイド・ドライバICの動作について説明します。
AC100VはブリッジダイオードBD1で整流されてC1にチャージされますが、このときの電圧は141Vと言われます。しかし、実際にはかなりの脈流を含んだ電圧になります。
電源ON直後の状態では、起動前のハイサイド・ドライバICはUVLO(Under Voltage Lock Out)という回路の働きにより消費電流がほとんどゼロの状態で眠っています。UVLO機能はこの手の電源駆動用ICのほとんどに内蔵されています。
この状態でICが起動していない場合、起動用電源抵抗R1を通じて電流がC2に流れるとC2の電圧が上がり始めます。
C2の電圧がある程度以上に上がるとUVLOが解除されてICが起動します。この起動電圧はICによって異なり、仕様書に記載されていますが、NTS3733の場合は約11V前後です。C2の電圧が起動電圧を超えるとICが起動してQ1,Q2を駆動し始めます。
このとき、ICの消費電流は急に増えますので起動用電源抵抗R1だけでは供給電流が足りず、C2の電圧は低下し始めます。そのままではC2の電荷を全部使ってしまうので、それを補うためにC3,R3,D1,D2による補助電源回路で電流を供給します。インバータ回路が発振を始めればC3,R3,D1,D2を通じてC2に電流が供給されるようになります。
ツェナーダイオードD3はIC電源の電圧が15V以上にならないようにクリップします。ハイサイド・ドライバICの中にもツェナーダイオードが内蔵されており、インバータを安くしたい場合にはD3を省略してIC内部のツェナーダイオードを利用する回路も多く見られますが、IC内部のツェナーダイオードは許容損失が小さいので、ICを大事に設計するならば外付けのツェナーダイオードは必要です。
C3,R3はハーフブリッジの中点電圧が振動しないように抑えるスナバ回路の役目も兼ねています。
ハイサイド・ドライバICは二つのFETを駆動します。この回路はハーフブリッジと呼ばれます。4つのFETを駆動する回路はフルブリッジと呼ばれますが、液晶バックライトでは一般にフルブリッジ回路が用いられていました。AC100Vで駆動する場合にはハーフブリッジ回路が用いられますが、高圧側のFETの駆動には特別な工夫が要ります。このために専用に開発された回路がハイサイド・ドライバです。
そしてこの回路の最大の特徴が共振コンデンサC8に流れる共振電流位相をICのPhin端子に帰還していることです。これによってこの自励発信回路は共振周波数の中心ほ自動的に捕捉して発振周波数が決まります。今までのインバータ回路のように設計職人が職人芸で駆動周波数を決めるのではなく、共振周波数で自動的に発振周波数が決まります。このため、共振周波数が設計値から変動したような場合にも自動的に最適周波数を追いかけて発振します。これを自動ZVS機能と言います。
●どこか間違っているハイサイドドライバ
ハイサイド・ドライバはInternational Rectifierが最初に開発し、その後多くのセカンドソースが出るようになりましたが、CCFLや蛍光灯ドライバに関してはInternational Rectifierはいくつかの間違えたインフォメーションを出しており、なにしろ信用のあるメーカーですから多くの後続メーカーがそのインフォメーションに続いてセカンドソースを出してしまい、手がつけられなくなってしまいました。例えばIRS2552D CCFL Ballast Controller ICのような例です。その後もIRS2530DのようにVFOを使った例など、少なくともCCFLや蛍光灯の駆動に関してはいくつか迷走したあげくに誤ったインフォメーションを出し、これに中国ICメーカーなどが追随しておかしなICを出すに至っています。例えばこれ。とてもよい機能であると10ページで自慢していますが、あいにくこの機能が働くときはCCFLや蛍光灯がちらつき状態になりますので実際には使えない機能です。2ページのIC内部のブロック図にFault logic というブロックがありますが、これはハードスイッチングを検出する機能のことです。
一見良い機能のように思えますが、ハードスイッチングを検出してから調整しはじめるので、それでは手遅れなのです。IRやPhilips(NXP)のような大きなメーカーから示されている技術インフォメーションだからといっても、必ずしも正しいとは限らないことがありますので注意が必要です。正しくはハードスイッチングが起きる前に予測してハードスイッチングが起きないように調整しなければいけません。
これらのICは全てそこのところを間違えています。
●NTS3733の自動ZVS動作
この点、NTS3733においては共振電流位相帰還を行うことにより諸問題が解決されます。この方式はハードスイッチング動作を予測して自動的に直前の状態にセットする機能を有しています。共振コンデンサC8に流れる電流がNTS3733のPhinに接続され、共振電流位相がICに帰還されます。この方法によれば起動時に周波数を高くする必要もありませんし、低温起動性も良好です。これはたいへんにシンプルな方法ですが効果は絶大です。CCFLの管電流と管電圧ともきれいな正弦波ですし、共振周波数の変動に対しても完全に追従します。
CCFL管電流と管電圧波形
従来の他励共振型のCCFLインバータ回路ではCCFLやCCFL周辺の反射板状態を変えるとCCFLの特性や寄生容量が変わってしまうので、これらは変えてはいけないというのが常識でしたが、共振電流位相帰還を行った場合、
1.CCFLの太さや長さや直径を変えてもよい
2.CCFLと反射板との距離の状態を変えてもよい
3.インバータとCCFL間の配線を長くしてもよい
4.配線を束ねてもよい(束ねたときと束ねてないときで管電流変化がない)
5.室温が大きく上がったり下がったりして、CCFLのインピーダンスが大きく変化してもよい
などのように、高圧側構造や配線をどんなに荒っぽく扱っても問題は起きなくなります。これはCCFL初心者ユーザーproof (Safety for CCFL Beginners)仕様と言っても過言ではありません。
"CCFL 注意"の検索語で探してみてください。従来のCCFLというのは気難しいものだったのです。
また、ハーフブリッジ駆動回路は電源電圧の変動に弱いという欠点も克服しましたので、電源電圧を安定させるためのActive PFC回路も必要なくなります。これにより、CCFLとCCFLインバータは大変に使いやすいものになりました。今までのCCFLインバータ回路における常識を全て覆したことになります。
次に昇圧トランス一次巻線の電流波形と電圧波形を見てみましょう。一次巻線の電流波形はかなり正弦波に近いことがわかります。また、位相関係もほぼ同位相で、かつ、一次巻線電圧の位相に比べて一次巻線電流の位相がわずかに遅れているという絶妙な遅れ具合であることが確認できます。これはZVS動作であるということを意味し、ハーフブリッジ回路における昇圧トランスの理想的な駆動条件です。これよりもちょっとでも電流位相が進んでしまうとハードスイッチングが起きますが、その直前の状態に自動的にセットされています。
他励共振型ではこういう絶妙の動作条件というのは難しいので、一次巻線電圧の位相に比べて一次巻線電流の位相が大きく遅れる状態に設定しています。他励共振型では実験的に一品だけなら同じような絶妙の動作条件に設定することもできるのですが、気温の変化があるとCCFLのインピーダンスが変化するので、一次巻線電流の位相と電圧の位相との関係が変わってしまいますから量産は無理です。とくに、気温の低い状態などではCCFLのインピーダンスが高くなり、一次巻線電流の位相が電圧の位相よりも早くなって容量性駆動(ハードスイッチング)となってしまい、ZVS動作ではなくなります。これはハーフブリッジ駆動では最悪の状態と言われます。また、インバータとCCFLとを接続する配線を長くしたり、CCFLと金属板との距離がわずかに狂ったりした場合にもZVS動作でなくなることがあります。ZVS動作でないとどういう現象が起きるかはまた別の機会に説明しますが、一言で言えば壊れます。共振電流位相帰還をしている場合にはそのような現象は起きません。
昇圧トランスT1の一次巻線電圧と電流の位相関係
CCFL用インバータ回路でもっとも重要な管理ポイントはこの一次巻線電圧と電流の位相関係です。今までインバータメーカーやCCFL蛍光灯メーカーはこれを管理してましたか?液晶メーカーはこの最重要ポイントを常に管理していましたが、CCFL蛍光灯メーカーは管理してなかったでしょう。電圧を測ることは簡単なのでよく管理しますが、電流を測るというのは半田付けを一箇所外さなければなりませんので、ついつい手を抜いて測定すらしないことのほうが多かったとは思います。でも、もし管理してなかったとしたらこれは重大な見落としになります。他励共振型では人為的管理なので大変だと思いますが、「液晶バックライトで実績がある」とうたうのであれば、液晶メーカーにおける管理と同様の管理はするべきでしょう。
いずれにしても、自動ZVSでは非常に簡単な回路で自動的に一次巻線電圧と電流の位相関係が調整され、効率も改善してCCFL駆動の際の安定度も増し、CCFLの温度変化によるインピーダンスの変化にも強くなり、またIRS2530Dで解決しようとして失敗していた容量性駆動の防止に関しても完全に解決できるようになりました。
●CCFLインバータ回路の基本はZVS
CCFL照明技術は液晶バックライトで確立されたと言われることが多いですが、実際にはCCFL照明に使われているインバータをチェックしてみると、
1.管電流が正弦波でない
2.ZVS動作を守っていない
3.トランスの自己共振周波数が低過ぎる
などと、液晶バックライトで培われた技術を継承していないものが数多く見受けられます。CCFLインバータ回路は基本に忠実にならなければいずれ故障したり、ちらついたりして品質イメージを落としてしまいます。
基本に忠実なCCFLインバータ回路はZVS動作が必須です。また、トランスも重要です。二次側回路の共振条件も大切です。
基本に忠実なCCFLインバータ回路はZVS動作が基本ですので、30MHzから300MHz帯域における不要輻射の雑音電力がたいへんに小さくなっています。
余談になりますが、LEDのコンバータにおいては一般的にフライバック回路というものが使われており、このフライバック回路は基本的にZVS動作ではありませんので、30MHzから300MHz帯域における不要輻射雑音電力が大きく、規制値ぎりぎりのものが多く見受けられます。しかしながら、LED用の駆動ICはほとんど全てといってもよいぐらいフライバック回路しか存在しませんので不要輻射雑音電力の解決は難しい問題になっています。
(続く)
●調光回路への対応
CCFLの最大の特徴といえば調光ですが、いままでCCFL照明では調光できるものがありませんでした。
トライアックで調光可能な回路は比較的シンプルに実現できますが、そのためにはCCFLがいかなる状態に変化してもハーフブリッジの駆動回路で容量性駆動(ハードスイッチング)にならないことが必要です。
従来の他励共振型のCCFLインバータ回路では、電源電圧が低くなってCCFLの管電流が少なくなり、CCFLが高インピーダンスの状態になると、必ず容量性駆動(ハードスイッチング)状態になります。他励共振型では原理的にこの容量性駆動(ハードスイッチング)を防ぐことはできません。
ここで共振電流位相帰還を行うと、CCFL管電流が少なくなった場合でも理論的に容量性駆動(ハードスイッチング)が起きません。このことがNTS3733を用いた試験でも確認できましたので早速調光回路にも応用してみることにしました。
たいへんにスムースな調光が実現できました。大手LED駆動ICメーカーの提案する回路ではここまでスムースな調光はできないでしょう。
このスムース調光はLEDにも応用可能ですか?、答えはYESです。
では、LEDでスムース調光するにはどうしたら良いのでしょうか?最近は調光専用ICも出ているのですが、調光器を絞った状態でONすると点灯しないものも多いようです。電流共振ならばその心配も要らないということは知っておいてください。
NTS3733を応用したCCFL調光インバータ回路
トライアックで調光できるダウンライト
●最近のCCFL事情
最近は大手のCCFLインバータメーカーが次々とDC12V系インバータの製造を中止しています。そのようなところから、CCFLインバータを自分で設計できないかと思う方から問い合わせが増えています。
今から始めるのであればAC100V点灯のほうがいいでしょう。それと、コレクタ共振型で作ろうとする人が多いですが、やめておいたほうがいいと忠告します。トランスの入手は難しいし、よくレイヤショートを起こすしで、ロクなことがありません。それと、一見回路が簡単ですが12V系はとてもノウハウが要ります。CCFLに直列で接続される高圧コンデンサがトランスの巻線に問題を起こします。もうこれからはAC100V系しかないと考えて設計変更を前提に考えたほうが良いと思います。
最近のCCFLは照明用で使われますので、AC電源から直接駆動されるものになります。このタイプのインバータ回路は公開情報が少ないので少しまとめてみました。
AC電源直接駆動のインバータ回路は液晶バックライト用のインバータ回路と比べた場合、いろいろと違うところがあります。
以下に、CCFLのインバータ回路に関する基本動作の説明をしましたので参考にしてください。
まずは、液晶バックライト用のインバータ回路です。
特徴を述べると、
1.DC駆動である。電源電圧は安定している。
2.他励型という方式である。
3.CCFL駆動用のICが多数発売されている。
4.昇圧トランス二次側で共振させている。
5.タイプに、高効率設定と高漏れインダクタンス設定の二つがある。
6.バックライト点灯起動の際に、駆動周波数を高くする機能がある。
7.CCFL破損の場合に備えてOVP(過電圧保護)回路がある。
8.ACからDCへの変換は外部のスイッチングレギュレータに任せている。
というものです。
一方、一般照明用のインバータ回路はAC電源から駆動するので整流回路を含んだ回路になります。
そうすると、今までのDC駆動では配慮しなくても良かったことがたくさん出てくるようになります。
1.AC駆動である。整流回路が必要である。電源電圧変動がある。
2.外気温変動がある。CCFLのインピーダンス変動が大きい。
3.液晶バックライトみたいにガッチリした筐体ではない。ゆがんで寄生容量変動がある。
4.EMIフィルタが必要である。
5.ハイサイドドライバーICが必要である。
6.他励共振型または電流共振型という方式である。
7.電源用の一般的なICが流用されている。(専用のICもある)
8.昇圧トランス二次側で共振させている。
9.タイプに、高効率設定と高漏れインダクタンス設定とHigh-Q設定の三つがある。
10.バックライト点灯起動の際に、駆動周波数を高くする機能がない。
11.CCFL破損の場合に備えてOVP(過電圧保護)回路がある。
などです。
●別目的のICを流用したインバータ回路
電源用の一般的なICを流用し、OVP(過電圧保護)回路も、EMIフィルタもない回路は以前にも紹介しましたが、以下のような回路です。
これはIR2153という汎用のハイサイド・ドライバICまたはそのセカンドソースのICです。もともとCCFL駆動専用のICではありませんから、点灯起動の際に駆動周波数を少し高くしてその後低くするという、スタートアップ機能も過電圧保護回路もありません。
CCFLインバータの場合、他励共振型の回路を採用するのであれば、点灯起動の際に駆動周波数を高くする機能が必要なのですがそれがないわけです。また、この回路は電源電圧変動や外気温変化に弱いという致命的な欠陥を持っています。この回路では少しでも設定を誤ると、容量性駆動(ハードスイッチング)が起きてスイッチングトランジスタ(FET)が発熱したりICが破壊されたりします。IR2153系はただの発振回路であって、それを使ってCCFLを駆動するのは他励共振型と言いますが、この方式を使う以上、器具および回路の設計には液晶メーカー並みの管理能力と専用インバータ回路メーカー並みの職人芸的設計能力、共振回路に関する豊富な知識などが必要になります。
回路が簡単だからといって、素人が簡単に設計できるというものではありません。
●CCFL駆動に適したICを使った場合のインバータ回路
ここで新たに出来上がったCCFL駆動専用のハイサイド・ドライバICの、NTS3733を使ったインバータ回路を見てみましょう。
回路はかなりシンプルですが必要な機能は全て備わっています。このICが入手できない場合はIR2104またはそのセカンドソースと若干の外付け回路で代替できます。
このインバータ回路の各部の働きを見てみましょう。
AC100V入力ですので、最初の回路にはEMIフィルタが入っています。フィルタの前にあるヒューズとPTCサーミスタは回路が故障したときのための保護回路です。
EMIフィルタはコモンモードチョークL1とデファレンシャルモードチョークL2、それと、アクロス・ザ・ライン・コンデンサCX1とで構成します。
ここで、アクロス・ザ・ライン・コンデンサというのは特別なコンデンサで、自己共振周波数も高く、ノイズ除去の目的のほかに耐サージ特性などの認証を受けたコンデンサです。ここに一般的なフィルムコンデンサを使うのは邪道です。
コモンモードチョークコイルというのはごく普通に出回っているのでつい軽視しがちですが、これも安いものを用いるとフェライトコアの特性が規定以下だったり、コア接合面が研磨されていなかったりなど、フィルタ効果が怪しいものを使ってしまうことがあります。理想はそれぞれのコイルが2-3セクションに分割されているものであり、必ず自己共振周波数とフェライトコアの材質を仕様書でチェックできなければなりません。(コモンモードチョークコイルの仕様書の例)
仕様書のないコモンモードチョークコイルには注意しましょう。極端な場合、コイルがあってもなくても同じだったりします。
次に、ハイサイド・ドライバICの動作について説明します。
AC100VはブリッジダイオードBD1で整流されてC1にチャージされますが、このときの電圧は141Vと言われます。しかし、実際にはかなりの脈流を含んだ電圧になります。
電源ON直後の状態では、起動前のハイサイド・ドライバICはUVLO(Under Voltage Lock Out)という回路の働きにより消費電流がほとんどゼロの状態で眠っています。UVLO機能はこの手の電源駆動用ICのほとんどに内蔵されています。
この状態でICが起動していない場合、起動用電源抵抗R1を通じて電流がC2に流れるとC2の電圧が上がり始めます。
C2の電圧がある程度以上に上がるとUVLOが解除されてICが起動します。この起動電圧はICによって異なり、仕様書に記載されていますが、NTS3733の場合は約11V前後です。C2の電圧が起動電圧を超えるとICが起動してQ1,Q2を駆動し始めます。
このとき、ICの消費電流は急に増えますので起動用電源抵抗R1だけでは供給電流が足りず、C2の電圧は低下し始めます。そのままではC2の電荷を全部使ってしまうので、それを補うためにC3,R3,D1,D2による補助電源回路で電流を供給します。インバータ回路が発振を始めればC3,R3,D1,D2を通じてC2に電流が供給されるようになります。
ツェナーダイオードD3はIC電源の電圧が15V以上にならないようにクリップします。ハイサイド・ドライバICの中にもツェナーダイオードが内蔵されており、インバータを安くしたい場合にはD3を省略してIC内部のツェナーダイオードを利用する回路も多く見られますが、IC内部のツェナーダイオードは許容損失が小さいので、ICを大事に設計するならば外付けのツェナーダイオードは必要です。
C3,R3はハーフブリッジの中点電圧が振動しないように抑えるスナバ回路の役目も兼ねています。
ハイサイド・ドライバICは二つのFETを駆動します。この回路はハーフブリッジと呼ばれます。4つのFETを駆動する回路はフルブリッジと呼ばれますが、液晶バックライトでは一般にフルブリッジ回路が用いられていました。AC100Vで駆動する場合にはハーフブリッジ回路が用いられますが、高圧側のFETの駆動には特別な工夫が要ります。このために専用に開発された回路がハイサイド・ドライバです。
そしてこの回路の最大の特徴が共振コンデンサC8に流れる共振電流位相をICのPhin端子に帰還していることです。これによってこの自励発信回路は共振周波数の中心ほ自動的に捕捉して発振周波数が決まります。今までのインバータ回路のように設計職人が職人芸で駆動周波数を決めるのではなく、共振周波数で自動的に発振周波数が決まります。このため、共振周波数が設計値から変動したような場合にも自動的に最適周波数を追いかけて発振します。これを自動ZVS機能と言います。
●どこか間違っているハイサイドドライバ
ハイサイド・ドライバはInternational Rectifierが最初に開発し、その後多くのセカンドソースが出るようになりましたが、CCFLや蛍光灯ドライバに関してはInternational Rectifierはいくつかの間違えたインフォメーションを出しており、なにしろ信用のあるメーカーですから多くの後続メーカーがそのインフォメーションに続いてセカンドソースを出してしまい、手がつけられなくなってしまいました。例えばIRS2552D CCFL Ballast Controller ICのような例です。その後もIRS2530DのようにVFOを使った例など、少なくともCCFLや蛍光灯の駆動に関してはいくつか迷走したあげくに誤ったインフォメーションを出し、これに中国ICメーカーなどが追随しておかしなICを出すに至っています。例えばこれ。とてもよい機能であると10ページで自慢していますが、あいにくこの機能が働くときはCCFLや蛍光灯がちらつき状態になりますので実際には使えない機能です。2ページのIC内部のブロック図にFault logic というブロックがありますが、これはハードスイッチングを検出する機能のことです。
一見良い機能のように思えますが、ハードスイッチングを検出してから調整しはじめるので、それでは手遅れなのです。IRやPhilips(NXP)のような大きなメーカーから示されている技術インフォメーションだからといっても、必ずしも正しいとは限らないことがありますので注意が必要です。正しくはハードスイッチングが起きる前に予測してハードスイッチングが起きないように調整しなければいけません。
これらのICは全てそこのところを間違えています。
どこか間違っているハイサイドドライバ一覧
メーカー | ICの型番 |
IR | IRS2530 |
IMP | IMP3519,IMP3520,IMP3522,IMP3526,IMP3528 |
NXP | UBA2016A,UBA2071A |
●NTS3733の自動ZVS動作
この点、NTS3733においては共振電流位相帰還を行うことにより諸問題が解決されます。この方式はハードスイッチング動作を予測して自動的に直前の状態にセットする機能を有しています。共振コンデンサC8に流れる電流がNTS3733のPhinに接続され、共振電流位相がICに帰還されます。この方法によれば起動時に周波数を高くする必要もありませんし、低温起動性も良好です。これはたいへんにシンプルな方法ですが効果は絶大です。CCFLの管電流と管電圧ともきれいな正弦波ですし、共振周波数の変動に対しても完全に追従します。
CCFL管電流と管電圧波形
従来の他励共振型のCCFLインバータ回路ではCCFLやCCFL周辺の反射板状態を変えるとCCFLの特性や寄生容量が変わってしまうので、これらは変えてはいけないというのが常識でしたが、共振電流位相帰還を行った場合、
1.CCFLの太さや長さや直径を変えてもよい
2.CCFLと反射板との距離の状態を変えてもよい
3.インバータとCCFL間の配線を長くしてもよい
4.配線を束ねてもよい(束ねたときと束ねてないときで管電流変化がない)
5.室温が大きく上がったり下がったりして、CCFLのインピーダンスが大きく変化してもよい
などのように、高圧側構造や配線をどんなに荒っぽく扱っても問題は起きなくなります。これはCCFL初心者ユーザーproof (Safety for CCFL Beginners)仕様と言っても過言ではありません。
"CCFL 注意"の検索語で探してみてください。従来のCCFLというのは気難しいものだったのです。
また、ハーフブリッジ駆動回路は電源電圧の変動に弱いという欠点も克服しましたので、電源電圧を安定させるためのActive PFC回路も必要なくなります。これにより、CCFLとCCFLインバータは大変に使いやすいものになりました。今までのCCFLインバータ回路における常識を全て覆したことになります。
次に昇圧トランス一次巻線の電流波形と電圧波形を見てみましょう。一次巻線の電流波形はかなり正弦波に近いことがわかります。また、位相関係もほぼ同位相で、かつ、一次巻線電圧の位相に比べて一次巻線電流の位相がわずかに遅れているという絶妙な遅れ具合であることが確認できます。これはZVS動作であるということを意味し、ハーフブリッジ回路における昇圧トランスの理想的な駆動条件です。これよりもちょっとでも電流位相が進んでしまうとハードスイッチングが起きますが、その直前の状態に自動的にセットされています。
他励共振型ではこういう絶妙の動作条件というのは難しいので、一次巻線電圧の位相に比べて一次巻線電流の位相が大きく遅れる状態に設定しています。他励共振型では実験的に一品だけなら同じような絶妙の動作条件に設定することもできるのですが、気温の変化があるとCCFLのインピーダンスが変化するので、一次巻線電流の位相と電圧の位相との関係が変わってしまいますから量産は無理です。とくに、気温の低い状態などではCCFLのインピーダンスが高くなり、一次巻線電流の位相が電圧の位相よりも早くなって容量性駆動(ハードスイッチング)となってしまい、ZVS動作ではなくなります。これはハーフブリッジ駆動では最悪の状態と言われます。また、インバータとCCFLとを接続する配線を長くしたり、CCFLと金属板との距離がわずかに狂ったりした場合にもZVS動作でなくなることがあります。ZVS動作でないとどういう現象が起きるかはまた別の機会に説明しますが、一言で言えば壊れます。共振電流位相帰還をしている場合にはそのような現象は起きません。
昇圧トランスT1の一次巻線電圧と電流の位相関係
CCFL用インバータ回路でもっとも重要な管理ポイントはこの一次巻線電圧と電流の位相関係です。今までインバータメーカーやCCFL蛍光灯メーカーはこれを管理してましたか?液晶メーカーはこの最重要ポイントを常に管理していましたが、CCFL蛍光灯メーカーは管理してなかったでしょう。電圧を測ることは簡単なのでよく管理しますが、電流を測るというのは半田付けを一箇所外さなければなりませんので、ついつい手を抜いて測定すらしないことのほうが多かったとは思います。でも、もし管理してなかったとしたらこれは重大な見落としになります。他励共振型では人為的管理なので大変だと思いますが、「液晶バックライトで実績がある」とうたうのであれば、液晶メーカーにおける管理と同様の管理はするべきでしょう。
いずれにしても、自動ZVSでは非常に簡単な回路で自動的に一次巻線電圧と電流の位相関係が調整され、効率も改善してCCFL駆動の際の安定度も増し、CCFLの温度変化によるインピーダンスの変化にも強くなり、またIRS2530Dで解決しようとして失敗していた容量性駆動の防止に関しても完全に解決できるようになりました。
●CCFLインバータ回路の基本はZVS
CCFL照明技術は液晶バックライトで確立されたと言われることが多いですが、実際にはCCFL照明に使われているインバータをチェックしてみると、
1.管電流が正弦波でない
2.ZVS動作を守っていない
3.トランスの自己共振周波数が低過ぎる
などと、液晶バックライトで培われた技術を継承していないものが数多く見受けられます。CCFLインバータ回路は基本に忠実にならなければいずれ故障したり、ちらついたりして品質イメージを落としてしまいます。
基本に忠実なCCFLインバータ回路はZVS動作が必須です。また、トランスも重要です。二次側回路の共振条件も大切です。
基本に忠実なCCFLインバータ回路はZVS動作が基本ですので、30MHzから300MHz帯域における不要輻射の雑音電力がたいへんに小さくなっています。
余談になりますが、LEDのコンバータにおいては一般的にフライバック回路というものが使われており、このフライバック回路は基本的にZVS動作ではありませんので、30MHzから300MHz帯域における不要輻射雑音電力が大きく、規制値ぎりぎりのものが多く見受けられます。しかしながら、LED用の駆動ICはほとんど全てといってもよいぐらいフライバック回路しか存在しませんので不要輻射雑音電力の解決は難しい問題になっています。
(続く)
●調光回路への対応
CCFLの最大の特徴といえば調光ですが、いままでCCFL照明では調光できるものがありませんでした。
トライアックで調光可能な回路は比較的シンプルに実現できますが、そのためにはCCFLがいかなる状態に変化してもハーフブリッジの駆動回路で容量性駆動(ハードスイッチング)にならないことが必要です。
従来の他励共振型のCCFLインバータ回路では、電源電圧が低くなってCCFLの管電流が少なくなり、CCFLが高インピーダンスの状態になると、必ず容量性駆動(ハードスイッチング)状態になります。他励共振型では原理的にこの容量性駆動(ハードスイッチング)を防ぐことはできません。
ここで共振電流位相帰還を行うと、CCFL管電流が少なくなった場合でも理論的に容量性駆動(ハードスイッチング)が起きません。このことがNTS3733を用いた試験でも確認できましたので早速調光回路にも応用してみることにしました。
たいへんにスムースな調光が実現できました。大手LED駆動ICメーカーの提案する回路ではここまでスムースな調光はできないでしょう。
このスムース調光はLEDにも応用可能ですか?、答えはYESです。
では、LEDでスムース調光するにはどうしたら良いのでしょうか?最近は調光専用ICも出ているのですが、調光器を絞った状態でONすると点灯しないものも多いようです。電流共振ならばその心配も要らないということは知っておいてください。
NTS3733を応用したCCFL調光インバータ回路
トライアックで調光できるダウンライト
●最近のCCFL事情
最近は大手のCCFLインバータメーカーが次々とDC12V系インバータの製造を中止しています。そのようなところから、CCFLインバータを自分で設計できないかと思う方から問い合わせが増えています。
今から始めるのであればAC100V点灯のほうがいいでしょう。それと、コレクタ共振型で作ろうとする人が多いですが、やめておいたほうがいいと忠告します。トランスの入手は難しいし、よくレイヤショートを起こすしで、ロクなことがありません。それと、一見回路が簡単ですが12V系はとてもノウハウが要ります。CCFLに直列で接続される高圧コンデンサがトランスの巻線に問題を起こします。もうこれからはAC100V系しかないと考えて設計変更を前提に考えたほうが良いと思います。
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