ガーディアン(英国)ほか
Text by COURRiER Japon
その時、シュレッダーが発動した
バンクシーは、イギリスを中心に活動する芸術家で、世界各国でゲリラ的に社会的なメッセージを込めたストーリートアートを描く。
人知れず、真夜中に街頭で作品を完成させるため、誰もその正体を知らない。
そんなアーティストがまたやってくれた。
その“事件”が起きたのは金曜日夜のロンドン。1744年創業の由緒正しきオークションハウス「ササビーズ」が主催したオークション最後の作品は、2006年に製作されたバンクシーの有名なスプレー画「Girl with Balloon」だった。
それは、作品が約140万ドル(約1億5000万円)で落札、ハンマーが鳴らされた直後のこと。
突如、キャンバスがフレームに取り付けられたシュレッダーを通過しはじめたのだ。いきなりの“自己破壊”に、会場は騒然。
一方のバンクシーはInstagramに、「Going、going、gone …」というタイトルで細断された作品と驚く人々の写真をアップしていた。
さらに翌日にはフレームにシュレッダーを仕込んでいる様子をアップした。
「僕は数年前に密かに作品にシュレッダーを仕込むことにした」
「もしも、オークションにかけられることがあった場合にね」
と、作品が裁断され、会場がざわつく様子を撮影した動画も加えられた。そこにはピカソの「破壊の衝動は創造の衝動でもある」(The urge to destroy is also a creative urge)という言葉も添えられていた。
これまでもバンクシーは“壮大ないたずら”を仕掛けてきた。
2005年、ニューヨークのメトロポリタン美術館に19世紀の美女が20世紀のガスマスクを着用した作品を無許可で2時間展示、MoMAやブルックリン美術館、さらにイギリスの大英博物館でも同様の“展示”をした。
また、商業主義に批判的なバンクシーは、ニューヨーク・セントラルパーク前の露店で作品を並べ、バンクシーのものだと意図していない客に60ドルで作品を売り、その様子はドキュメンタリー映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』で見られる。
2017年には、英仏海峡に面するドーバーにEUの星を削る作業員が描かれた作品が出現。もちろんこれはイギリスのブレクジットを意味している。
Photo: Dan Kitwood / Getty Images
宣伝効果は抜群だった
サザビーズ側は「作品が細断されるのは初めてのことだ」と驚きを隠せない様子だが、米紙「ニューヨーク・タイムズ」によると“運営側がそれを知らないわけはない”と疑う人もいるようだ。
シュレッダーが仕込まれたフレームならば、通常より、厚さがあり重いはずなのだから、それをアートのプロたちが気づかないはずがないし、通常、大きい作品以外はオークション直前にポーターが作品を運んでくることが多いのだが、今回はそのサイズにもかかわらず、あらかじめ壁にかけられていた、というのがその理由だ。
さらに「ニューヨーク・タイムズ」は優秀な修復士の手にかかれば、きれいに細断されたこの作品を元通りにすることは可能」だと指摘する。
2016年には女性アーティスト、ジェニー・サヴィルの作品が、存命の女性アーティストとしては最高額1240万ドル(約13億円)で落札されて話題となったが、いずれにしろ、バンクシーはこの離れ業によって、英紙「ガーディアン」「BBC」から米紙「ワシントン・ポスト」など、全世界が報じ、大きな注目を浴びることとなった。これでバンクシーはオークションの歴史にも名を残すことになるだろう。