Eテレ 毎週 水曜日 午後2:00〜2:20
※この番組は、前年度の再放送です。
第34回
ケンとローザが休憩の合間、キャッチボールをしています。
所長に見つかったら叱られてしまうと、はじめは乗り気でなかったケンですが、やってみると楽しんでいる様子です。
ところが、ケンが投げたボールをローザが取りそこねると、タイミング悪く所長が登場します。
ケン 「すみません、これはあの……。」
所長 「続けなさい。でも、どうせならこのボールを使いなさい。」
ローザ 「e-?」
ケン 「e-って電子のことですよね?」
所長 「いいから、投げてみなさい。これをキャッチボールしていると、酸化還元反応のことがよくわかってくるはずだ。」
こうしてキャッチボールが再開されると、ボールが移動するたびに、所長が「酸化された・還元された」と言います。
・ケンが投げると、「ケンが酸化された」、「ローザが還元された」
・ローザが投げると、「ローザが酸化された」、「ケンが還元された」
といった具合です。
よくわからないままボールを投げ続ける2人ですが、所長は、だんだんとわかってくるといいます。
まずは酸化還元反応について復習です。
左図は前回学んだ、酸化銅(Ⅱ)が水素と反応して、銅と水ができる酸化還元反応です。
酸素のやりとりで考えると、酸化銅(Ⅱ)は、酸素を失って銅になりました。
つまり酸素を失って、「元に還(かえ)った」ので、「還元された」ということです。
一方、水素は酸素を受け取って水になりました。
つまり、水素は「酸化された」ということです。
次は、硫化水素と酸素が反応して、硫黄と水ができるという化学反応です(右図)。
この酸化還元反応の場合は、水素のやりとりで考えました。
硫化水素は水素を失って硫黄になるため、硫化水素は「酸化された」ということになります。
一方、酸素は水素を受け取って水になりました。
そのため、酸素は「還元された」ということになります。
ケン 「でも所長、さっき酸化還元反応は、電子のキャッチボールだって言ってましたよね。」
所長 「それはだな、この酸化還元反応で見てみよう。銅・Cuが酸化されて、酸化銅(Ⅱ)・CuOになるという反応だ。酸化銅(Ⅱ)・CuOは、銅(Ⅱ)イオン・Cu2+と酸化物イオン・O2-が電気的に引き付け合ってイオン結合しているんだ。このとき、何が起こっているのか、ケンは銅、ローザは酸素の気持ちになって考えてみなさい。」
所長 「まず、銅・Cuが銅(Ⅱ)イオンになるとき何が起こる?」
ケン 「電子はマイナスだから、電子を2つ失ってCu2+になります。」
ケンは、そう言って銅のボードから電子を2つ外して、下に置きます。
所長 「そうだ。電子を2つ失う。一方、酸素は?」
ローザ 「酸素は、O2-になるんだから……。あ、こんなところに電子が。電子を2つもらってO2-になります。」
ローザはそう言って、ケンが置いた電子を酸素のボードに貼り付けます。
所長 「そうだ。今、電子のやりとりがあっただろう?」
ケン 「ローザが勝手に電子を持っていっただけなんですけどね。」
所長 「銅が酸化されて酸化銅(Ⅱ)になる反応というのは、電子に注目して考えると銅・Cuが電子を失うことでもある。」
ケン 「電子を失うのが『酸化』。」
所長 「一方、酸素から見れば、この反応は、電子を受け取ることでもある。この電子を受け取る反応が『還元』だ。」
ローザ 「電子を受け取るのが『還元』。」
所長 「酸化還元反応は、酸素や水素のやりとりだけでなく、電子のやりとりで考えることもできるんだ。」
酸化還元反応と電子のやり取りについて、もう一度おさらいします。
銅原子が酸素と結びつくとき、電子を失って陽イオンになります(右図)。
この、「電子を失う」ことが酸化です。
その電子を、今度は酸素が受け取って、酸化物イオン・O2-になります。
この「電子を受け取る」ことが還元です。
この電子のやり取りこそが、酸化還元反応です。
「電子を失うのが酸化」・「電子を受け取るのが還元」ということは、よく覚えておく必要があります。
次に、銅と塩素が反応して、塩化銅(Ⅱ)になる化学反応を考えてみます。
化学反応式は、次のとおりです。
Cu + Cl2 → CuCl2
この反応がどんな反応なのか、実験して確かめてみました。
集気びんの中には、気体の塩素と水が入っています。
この中に熱した銅を入れると、激しい反応が起こります(右写真)。
反応後、びんを振ると水の色が変わりました。
この色は、生成した塩化銅(Ⅱ)が水に溶けて、銅(Ⅱ)イオン・Cu2+ができたことを示しています。
所長 「これも酸化還元反応の一つだ。」
ローザ 「でも、この化学反応には、酸素も水素も出てこないですよ。」
所長 「しかし、イオンが生成されているということは?」
ケン 「電子のやりとりがあるってことですね。」
ローザ 「それを考えれば、酸素や水素のやりとりがなくても何が酸化されたのかわかるんですね。」
所長 「その通り。まず銅・Cuについて考えると、CuがCu2+になるということは、電子をどうしたのかな?」
ケン 「2+になるということは、電子はマイナスだから、電子を失ったということですね。」
所長 「ということは、酸化か還元かで言えば?」
ケン 「酸化されたということです!」
所長 「一方、塩素はCl-になったということは?」
ローザ 「マイナスになるということは、電子を受け取った!」
所長 「そう。酸化か還元かで言えば?」
ローザ 「還元です!」
この反応の電子のやり取りを、もう一度確認します。
銅が銅(Ⅱ)イオンになるとき、電子を失いました(左図)。
つまり、銅は「酸化された」ということです。
一方、塩素は、電子を受け取りました。
つまり、「還元された」ということです。
電子を失えば酸化、電子を受け取れば還元です。
酸素や水素のやりとりがなくても電子のやりとりに注目すれば、酸化還元反応として考えることができます。
所長 「電子のやりとりに注目すれば、さまざまな酸化還元反応を統一的に考えられるわけだが、電子のやりとりはどんな化学反応でも明確というわけではないんだ。そういうときは、物質の『酸化数』を考えればいいんだ。」
ここで、特別研究員の貝谷 康治 先生(東京都立府中高等学校 教諭)に、酸化数について解説していただきます。
酸化数とは、物質中の原子やイオンの酸化の程度を表す数値です。
原子やイオン一つひとつに対して整数で表し、0以外は必ず+か-の符号をつけます。
酸化数の決め方のルールは、次のとおりです。
・単体中の原子の酸化数は0とする
水素・H2の水素原子・Hの酸化数は0、銅原子・Cuの酸化数は0となる。
・単原子イオンの酸化数はそのイオンの電荷に等しい
たとえば銅(Ⅱ)イオン・Cu2+の酸化数は、そのイオンの電荷に等しいので、+2となる。
塩化物イオン・Cl-なら-1。
・化合物中の水素原子の酸化数を+1、酸素原子の酸化数を-2とする
たとえば水・H2Oの場合、水素原子・Hの酸化数はそれぞれ+1、酸素原子・Oの酸化数は-2となる。
・化合物中の原子の酸化数の総和は0とする
水・H2Oの場合、水素と酸素の酸化数を足すと0になる(右図)。
・多原子イオン中の原子の酸化数の総和は、そのイオンの電荷に等しくなる
例:OH-、SO42-
それぞれ具体的な例で考えてみます。
アンモニア・NH3の中の窒素原子・Nの酸化数を求めてみます。
窒素・Nの酸化数をxとおき、Nは1個なので、「x×1」とします。
このxを計算で求めていきます。
水素・Hについては、化合物中の水素原子の酸化数は「+1」としました。
水素原子は3つあるため、(+1)×3とします。
すると、化合物の原子の酸化数の総和は0になるので、
x×1+(+1)×3=0
x+3=0
x=-3
となります。
このことから、アンモニアNH3の窒素原子・Nの酸化数は-3ということになります。
次はもう少し複雑な、過マンガン酸イオン・MnO4-の場合を見ていきます。
過マンガン酸イオンは、1価の陰イオンなので、酸化数の合計が-1になるはずです。
今度は、MnO4-のマンガン・Mnの酸化数を求めます。
この酸化数をxとすると、Mnは1つなので、「x×1」となります。
化合物中の酸素原子・Oの酸化数は-2でした。
それが4つあるので、「(-2)×4」となります。
「多原子イオンの酸化数の総和は、そのイオンの電荷に等しい」ということでした。
いま、過マンガン酸イオン・MnO4-のイオンの電荷は-1なので、マンガン・Mnと酸素・Oの酸化数の総和が-1となります。
すると、
x×1+(-2)×4=-1
x+(-8)=-1
x=+7
となり、過マンガン酸イオン・MnO4-のマンガン・Mnの酸化数は+7だとわかります。
ローザ 「この酸化数の変化がわかれば、ある原子が酸化されたのか、還元されたのかがわかるということですか?」
貝谷先生 「そうですね。反応の前後で比較して、ある原子の酸化数が増えていればその原子を含む物質は酸化されたということです。逆に、ある原子の酸化数が減れば、その原子を含む物質は還元されたということです。」
ケン 「酸化数が増えれば酸化、減れば還元……。」
貝谷先生 「実際の例で見てみましょう。」
酸化銅(Ⅱ)が水素と反応して、銅と水ができる反応を、「酸化数」で考えてみます。
酸化数の分かるところから挙げていきます。
「単体中の原子の酸化数は0とする」ので、水素・H2の水素原子の酸化数は「0」になります。
同様に、銅原子・Cuの酸化数も「0」です。
「化合物中の酸素原子の酸化数は-2」のため、酸化銅(Ⅱ)・CuOの酸素原子の酸化数は「-2」になります。
同じく、水・H2Oの酸素原子の酸化数も「-2」になります。
「化合物中の原子の酸化数の総和は0になる」ので、銅原子・Cuの酸化数は「+2」、水素原子・Hの酸化数は「+1」になります。
これで、すべての酸化数がわかりました。
このとき、水素原子・Hの酸化数が、「0」から「+1」へと増えています。
このように、酸化数が増えているので、H2は「酸化された」と表します。
水素・H2は酸素と結合して水になっているので、確かに酸化です。
一方、銅は酸化数「+2」から「0」に減っています。
このように銅・Cuの酸化数が減っているので、酸化銅(Ⅱ)は「還元された」と表します。
酸化銅(Ⅱ)が酸素を失って元の銅に還ったので、確かに還元です。
ケン 「これまで酸化還元反応を酸素や水素、電子のやり取りで考えてきましたけど、酸化数で考えれば、どんな反応でも同じように考えられるということですね。」
貝谷先生 「酸化数の決め方にはいくつか例外があります。たとえば、『化合物中の酸素原子・Oの酸化数は-2とする』、ということですが、過酸化水素・H2O2の酸素Oの酸化数は-1になります。」
所長 「いくつか例外はある。あせらず覚えていこう。」
2人 「はい。」
それでは、次回もお楽しみに~!
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