「ゲーム依存症」、あるいは「ゲーム障害」とは、日常生活が破綻するほど、持続的、反復的にゲームにのめり込んでしまうことを指す。今年6月18日、WHO(世界保健機構)は、この「ゲーム依存症」を精神疾患として正式に認定した。
今世紀に入ってから、人間の生活を劇的に便利にしたスマホ——その中に潜んでいた悪魔に一人息子を虜にされてしまったライターが、あまりにこの疾患にたいして無防備な日本社会に警鐘を鳴らすため、現在進行形で続く「ゲーム依存症」との戦いをレポートする。
大学合格を機にスマホを与えた途端、ゲームにはまりこんでしまった息子。合格祝い、小遣いのすべてをゲーム課金につぎ込み、まるで人が変わったように高圧的に金をせびるようになる。そして、ついに親に向かって暴力をふるった……。
(第一回はこちらから→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57378)
先日、ゲーム依存症でお世話になっている病院の「家族の会」に行ったら、小学生の親御さんが参加されていた。
お子さんは高学年の男の子で、スマホゲームをやめるとイライラするようになってしまい、対応に困っているという。そんな折にテレビでゲーム依存症の報道に触れ、思い当たるフシがあって専門医を訪れたとのことだった。
ゲームに依存するようになると、時間をたくさんとられるだけでなく、ほかの物事への関心や意欲が薄れてしまう。息子を含め、「家族の会」で聞く話からも、依存症の子どもたちに共通するのは「異様なまでの面倒臭がり」だ。食事もろくに取らなくなる子さえ珍しくない。
人が大人になるまでに学ぶことはたくさんある。小学生から依存症になってしまったら本当に苦労するだろう。それでも、小学生のうちはまだ親ができることは多い。その子が一刻も早く回復するように祈るばかりだ。
息子の話に戻ろう。
ゴールデンウィークにゲームに使うお金ほしさから私に手をあげた「事件」の翌日は、息子は一見すると何事もなかったかのように普通に振る舞っていた。しかし、ゴールデンウィーク以降に学校に関係する問題がついに起き始める。
まず、遅刻が始まった。大学だから遅刻しても学校から連絡は来ないし、そもそも出席を取らない授業だってあるだろう。だから、遅刻がどれぐらい大きな問題なのかよくわからなかった。とはいえ、例の事件のこともあったし、朝から晩までずっとゲームをするうえに遅刻も加わっては危機感が募る一方だった。
息子が遅刻するようになったのは、明らかにゲームをやって夜更かしが続いたせいだった。ゴールデンウィーク中に夜更かしになり、4月に新学期が始まったときとは違って、今度は生活のリズムがなかなか元に戻らなかった。
その頃、夜更かしと関連して、驚いたことがまたひとつあった。ある週末のことだ。
「今日の夜は友だちと待ち合わせしてるから、晩ご飯は早めに食べたい」
息子は出不精なほうで、大学に入ってからわざわざ外出して友だちと遊ぶことはほとんどなかった。珍しいこともあるものだ。
「友だちと待ち合わせって、どこで何するの?」
「どこへも行かないよ」
「えっ? でも友だちと集まるんでしょう?」
「みんなで同じ時間にゲームをするだけだよ。家でできるから」
ゲームのことをよく知らなかった私は、仲間と遊べるゲームがあることを遅ればせながら初めて知った。息子の話によれば、これはマルチプレイというスタイルで、スマホゲーム以前のオンラインゲームの時代からあり、チーム同士で対戦したりRPGを一緒に攻略したりするのだという。
早めの夕食を食べ終え、珍しくお風呂もさっさと済ませた息子はきつい口調でこう言った。
「ゲーム中は絶対に邪魔しないように。よろしく」
部屋のドアをバタンと閉めてから、その晩は、深夜12時を回ってもゲームをやっていた。スマホで友だちとしゃべりながらゲームをしていたようだ。1時を過ぎてもまだ話し声がしていたので、さすがに静かにするように言おうと部屋を覗くと、険しい表情でにらみつけられ、しっしっという手ぶりで追い払われた。
結局、その晩は私が先に眠ってしまったので、いつまでゲームをやっていたのかわからない。さすがに深夜12時を過ぎても話しながらするのはまれだったものの、オンライン上のゲーム仲間と遊ぶのは楽しいようで、こうした機会も、そして遅刻も増えていった。
オンライン上の友だちには会ったこともなければ、本名をはじめ実生活でどんなことをしているのかもよく知らないという。仲間には社会人もけっこういるらしく、深夜に及びがちなのはそのせいもあった。