「んじゃー。行きますか。」
ルクルットのその一言で一同は頷く。
トブの大森林に目を向ける。そこはカルネ村から100m程先に位置する場所にあった。
先頭であるンフィーレアが立ち止まり、後ろを振り向く。
「これからトブの大森林に入ります。素人の僕が言うことじゃないですが警戒をお願いします。」
「任せて下さい。」
ぺテルが言う。
「・・私たちも警戒を怠ることなく進もう。ナーベ。」
「はい。」
そうして一同はトブの大森林に入っていった。
トブの大森林。王国と帝国の間に位置するこの場所には森が広がっている。そこには様々な薬草が生えており、代表的な薬草は三種類だ。ニュクリ、アジーナ、エンカイシの三つだ。特にエンカイシは治癒系のポーション生成によく使われる為に需要は多い、それゆえ高額で取引きされるのでこの薬草を採集しようとする者は多いと思われるだろう。
だが実際はこの森林には多数のモンスターが存在し、薬草採集のメリット以上にモンスターとの遭遇というデメリットがあるためそうでもない。
ただしそれでも一部の者たちは冒険者を雇うことで何とか薬草採集に励むこともある。
ンフィーレアなどが良い例だろう。
森に入った後の一連の流れはこうであった。
ンフィーレアが薬草を探す。
ンフィーレアが採集できる薬草を発見。
採集。
採集中のンフィーレアを中心に警戒をする。
採集が終われば他の薬草を探す。
これを何度か繰り返した。
薬草採集の場所を変えようとした時であった。
(ん?)
モモンの耳が微かな音を拾った。
(今の音は・・?)
何か大きな生物が歩くような音であった。地面が微かに揺れたのだ。
「ルクルットさん!」
「!あいよ。」
モモンのその呼びかけでルクルットが瞬時に察する。ルクルットは地面に耳を当てる。その様子を見て全員が理解した。
「間違いない。こっちに何か大きな奴が走って来ている。速度からして後15秒で来るぞ。」
「私たちがしんがりを務めます。皆さんは撤退を。」
「しかし・・」
そう言ったのはンフィーレアだった。
「大丈夫でしょう。モモンさんの強さを私たちは見たはずです。行きましょう。」
ぺテルがそう言って撤退を勧める。
(もし『森の賢王』だった場合、私たちは却って足手纏いになる。そうならないようにするためにも・・)
そんな思いが「漆黒の剣」のメンバー全員の中にあった。
「モモンさん。お願いがあります。」
「何でしょうか?」
「もし可能ならば『森の賢王』を殺さないで下さい。」
「それは・・」
誰かがそう言った。
「分かりました。」
しかしモモンはただ一言。そう言ったのだ。
「では私たちはンフィーレアさんを警護しつつ撤退します。モモンさんたちもご武運を!」
そう言って彼らは去っていった。
それを見てモモンは安心した。
「これで良かった。」
(『森の賢王』がどれだけ強くてもここは通さない!)
モモンはそう決心すると背中の大剣を抜いた。