シャルティアが精神支配されたので星に願ったら、うぇぶ版シャルティアになったでござる 作:須達龍也
<< 前の話
「Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)」
アインズが沈静化した。
(こ、こいつ、ドイツ語はやめろって、言っただろーが)
パンドラズ・アクターの卵顔が、してやったりの顔に見えて、更にむかついた。
「シャルティアには悪いが、期限は設けさせてもらう。
パンドラズ・アクターが自由に動き回れる期限は、建国までとする」
「了解しました。それまでに結果を出せるように致しましょう」
パンドラズ・アクターの綺麗な一礼をもって、この話は終了となる。
「…さて、では次のイベントまで時間も空くことだし、パンドラズ・アクター以外の守護者達は休暇を取るように」
アインズとしては、若干のパンドラズ・アクターへのあてつけはあったにせよ、特に普通なことを言ったつもりであったが、玉座の間に流れる変な空気におやっとなる。
「…休暇…で、ごさいますか?」
守護者達を代表して、アルベドがそう口を開いた。
「うむ、休むのも良いし、何かやりたいことがあるならやれば良い」
「いえ、我らはナザリックの為に生み出された者、やりたいことは正にナザリックの為になることです。休みは不要です」
大真面目にそう答えるアルベドに、アインズはマジかと思った。
(ブラック会社の、ブラック社員そのものじゃないか)
「駄目だ。これは決定事項だ。…そうだな、せっかくだから守護者女性陣で集まって遊んだらどうだ」
アインズは自分で言っていて、なかなか良い考えだと思った。
(ふむ、女子会ってやつだな。そうだな、男子陣で集まるのもいいな。みんなで風呂で裸の付き合いと言うのも悪くないな)
「アインズ様がああおっしゃったので集まったでありんすが、さて何をすべきでありんすか?」
とりあえず第六階層にアルベド、アウラと共に集まったのはいいが、ノープランもいいところであった。
「そういえば、第六階層に来るのは久しぶりでありんす」
「あれ、そうだっけ? ひょっとしてこっちに転移して来て以来だったりする?」
アウラの言葉にハテと考えて、言われてみればそんな気がしてきた。
「そうかもしれないかぇ。集合がかからないと、基本的に第1から第3階層から出ないでありんすな」
「私たちは基本的に、自分に割り当てられた階層からは出ないからね」
わたしの言葉に、アルベドが同意の言葉を返してきた。
「それもそっか。ただこの階層が一番変化が大きい階層かもしれないね」
「そうね。ナザリック外の種族はここに住んでるものね」
「そういえば、アルシェもここに住むことになったでありんすな」
ふと思い出して、そうつぶやいた。
「アルシェ? 誰それ?」
「…あっ!」
「…お馬鹿」
そう言えば、あの後の打ち合わせではアウラには外れていてもらったんだった。
「まあ、別にいいでしょう。
この後のナザリックに侵入者を招くイベントで、特別に慈悲をかけて生かしておいてやることになる人間のことよ」
「アインズ様から妾に下さった娘でありんす。なかなかかわいらしい子ですぇ」
「ふーん。まあ、別にいいけどさ。何でシャルティアがもらった子が、あたしの階層に住むことになるわけ?」
チラリとアルベドの様子を見ると、別に話してもいいわよという感じだったので、事の経緯を話すことにする。
「アインズ様と妾にダンスを教えたご褒美に、ここで妹達と暮らすことになったでありんす。…最初は、妾に処女を捧げることになってたんでありんすが…なんか、そうなったでありんすよ」
「いや、そっちのがわけわかんないし」
「なんか、今思うともったいない気がしてきた。今度はきっちりもらっとこう」
「しらんし」
「まぁ、あなたがそいつをどうしようと、どうでもいいんだけど…」
アルベドが話を変えて、ちょっと真面目な顔をした。
「なんでありんしょう?」
「正直、これはただの好奇心なんだけど、異世界からこちらの世界に来て…どんな感じなのかしら?」
「あー、それ、あたしも聞きたいかも。二つの世界の違いは聞いたけど、それってどんな風に感じるもんなの?」
すっごく、ふわっとした質問だった。
「んー、あくまでも妾の感想でしかないけど…違和感はすごくあったわね」
「そうなの? シャルティアまわりはあんまり変わってない感じがしてたんだけど?」
「全体的にはあんまり変わりないんだけど、微妙な違いが逆にすごく変な気がしてね、違和感はすごくあったわ」
アウラがそんなもんなの?…と、あまりピンと来ていない顔をしている。
「はっきりとした違いがわからなかったはずの、来た瞬間が一番違和感…いいえ、排除感とでも言うのかしら…ここは違う、わたしの世界じゃないって気分を一番受けたわ」
「そうなんだ。…そんな風には見えなかった」
アウラがすごく驚いた顔、そこにちょっとした同情めいた色を見せていた。
「違和感があった…来た瞬間が一番、今はそんなに違和感はないってこと?」
「そう! アインズ様を見た瞬間に!! たとえ姿かたちが変わろうとも、妾の愛は変わらなかったのよ!!!」
「うぐっ、こいつ…」
「…真面目な話なんだけどね」
「…真面目な話…ね、アインズ様を見つけた瞬間、ああ、ここに居てもいいんだって思えたのは本当よ。ここでもわたしは、この御方のお役に立てるんだって、許された気分だったわ」
「…なるほど」
「…ああ、それはわかるかも」
二人が納得したように頷いた。
今でも思い出す。
…ここに来た瞬間のことを。
見覚えのない…いいえ、記憶にあるようでいて、確実に自分の世界ではないという違和感。
そしてそれは、世界に拒絶されたような気分だった。
…そんな中、アインズ様を見つけた瞬間…
誰?…とは思わなかった。
すぐにわかった。アインズ様だって。
そして、わたしはこのアインズ様に呼ばれたんだって、わかった。
それが途方もなく嬉しかった。わたしは必要だから呼ばれたんだって、そう思えたから…
…あの…■■っ■しまった世界に、拒絶されたわけじゃないと、そう思えたから…
「…それとさ、シャルティアにもう一つ聞いておきたかったんだけど」
「…なにかしら?」
思い出から意識を取り戻して、アウラに答える。
「シャルティアは早く向こうの世界に帰りたいのかなって、それはさっきの違和感のせい? なにかこの世界に居づらかったりするのかな?」
おずおずとそんなアウラには似合わない…マーレのような態度に、思わず噴き出してしまう。
「ふふっ、そんなんじゃないわよ。
ただわたしの中の、こちらの世界のわたしが言うのよ。…早く戻りたい…お役に立ちたいってね」
胸の前に置いた手をきゅっと握る。自分でそう言った瞬間、胸がきゅっと締め付けられる。
「こちらの世界のシャルティアは、何も消えたわけじゃない。ここに居る。確かにここに居る。
…ただ、何もできない。…ただただ、ここにいるだけなのよ」
左目から、つーっと涙が一筋こぼれたのを自覚する。
この涙は、彼女に同情したわたしが流したのか、…それとも、この身体が本来の持ち主の感情のままに流したのか、それはわたしにはわからなかった。
「だから、わたしは早くこの身体をこの子に返してあげたい。わたしだってお役に立ちたいというこの子の願いを叶えてあげたい」
「…なんか、お姉さんみたいだね。こっちのシャルティアの」
アウラが茶化すようにそう言った。
「確かに、こっちのシャルティアよりも、だいぶ優秀に思えるわ」
アルベドも、茶化しているのよね?
「…そう見えるとしたら、いくぶんわたしが、客観的に俯瞰しているからかもね」
時系列的には、7巻より8巻が先ですよね。
アニメに準拠しましたw