錦鯉の伝染病 -イスラエルのKHVD対応の現状-

○イスラエルは錦ゴイの生産と輸出の国
 イスラエルは、砂漠があって乾いた土地の国と思われがちですが、北半分は、ヨルダン川上流部のキネレット湖(別名:ガリリア湖、またはティベリア湖)という大きな淡水湖や中小の湖が点在していて、穀物や野菜、果樹などの農業も営まれている緑豊かな土地柄です。
 魚の養殖も地下水の豊富な北部地方の内陸部や沿岸部で行われており、世界トップレベルの技術で、淡水魚や一部海産魚が養殖されています。
 錦ゴイも養殖種の一つで、キンギョと並んで欧米向けの輸出用として生産されています。生産するのは、キブツというイスラエル独特の地域共同経営体に属する養殖場で、国内に10カ所ほどあり、かつてはマグ・ノイという養殖団体をつくって、輸出に力を入れていました。
 しかし、1998年にコイヘルペスウイルス病(KHVD)が突如発生し、有名な食用魚イスラエルゴイと錦ゴイが壊滅的な被害を被ってしまいました(Webで私の拙文「KHVへの不覚」を検索し、ご覧ください)。

○イスラエルのKHVDへの対応
 イスラエルでは魚病研究者達が直ちに原因究明と対策に取り組み、この伝染病がコイ特有のウイルス病であり、養殖再建には防疫と予防が不可欠という観点から、魚に免疫を持たせるという技術を開発しました。

 イスラエルでのコイ養殖は、広大な路地池(屋外池)が用いられており、ペリカンなどの水鳥が飛来したり、コイとテラピア、ソウギョが混養されていたりと、池そのものの隔離策が困難という事情もありました(写真左)。

 コイに免疫を持たせる方法として、一つは、稚魚にウイルスを故意に感染させ、その後、飼育水温を30℃位に上げて、ウイルスの活性を抑えて、稚魚に免疫を獲得させるという方法です。 
 二つ目は、人工的にウイルスを増やして生ワクチン(写真上)を作り、それをコイに接種(注射)するという方法です。

○錦ゴイの輸出入事情の変化
 この免疫対策によって、錦ゴイの生産も輸出入も難問解決ということになるはずでした。しかし、免疫対策は必ずしも万全ではないという事例が出てしまいました。 未感染魚が、免疫魚との混養で、感染死亡するという事例です。 
 このこともあって、ドイツやイギリスなど欧州の輸入主要国や東南アジアの国々もKHVフリーを要求するという立場を変えることにはなりませんでした。 結局、OIE(国際獣疫事務局)においても、KHVDは2006年に疾病診断マニュアルに追加され、実質上、参加国間の輸出入に際してはフリー証明が必要な病気となりました。 

○イスラエル錦ゴイの二つの道
 現在(2012年)、イスラエル国内では、錦ゴイは、かつて程ではないにしても、生産され輸出されています。その品質は、日本の生産者(プロ)から見ても、遜色ないまでに向上しつつあるそうです(写真上:採卵用親魚、写真下:1歳魚)。


 選別技術は未だ日本には及ばないようですが、採卵用の合成ホルモン剤や飼育用の循環ろ過システムなど、生産技術としては、日本にひけをとらない高いものがあります。


 今、イスラエルでは、錦鯉のKHVD対応の生産方法として、二つの道があります。

 その一つは、ワクチン接種による生産です。稚魚にワクチンを注射し、従来の池で生産するという方法です。
 他の一つは、生産を全て隔離施設で行い、ウイルスフリー魚を生産するという方法です(左写真、いずれも循環ろ過方式による完全隔離飼育施設)。






 ワクチン接種をする現地担当者によれば「最近は未感染魚と混養しても発病しない」そうですし、ウイルスフリーを生産する担当者は「いずれ皆この方式になるだろう」と云います。

 ちなみに、食用のイスラエルゴイは国内消費向けですが、高水温処理による免疫稚魚を従来の方式で成品サイズまで養殖し、かつてのように出荷販売しています。今ではKHVDのリスクはほとんど無いということです。

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