写真:村田克己

発達障害当事者が「生きづらい」と訴えるとどうなるか

鈴木大介×姫野桂対談【後編】

生まれつきの脳の特性により、できることとできないことの差があり、日常生活や仕事において支障をきたす発達障害。主に不注意や衝動性があるADHD(注意欠如多動性障害)、コミュニケーションに特徴があったり特定のこだわりが強いASD(自閉スペクトラム症)、知的な問題はないのに簡単な計算や読み書きが困難なLD(学習障害)の3種類があり、障害の程度は人それぞれ。

発達障害当事者を取材した『私たちは生きづらさ抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)を上梓したフリーライターの姫野桂氏と発達障害の妻との絆を描いた『されど愛しきお妻様』(講談社)が話題で、高次脳機能障害当事者の鈴木大介氏との対談。後編では、発達障害当事者の埋もれてしまっている苦しみの声について切り込む。

*前編はこちらhttps://gendai.ismedia.jp/articles/-/57821

高次脳になって当事者目線になれた「ギフト感」

姫野 鈴木さんは「できないことはできないと、最初から相手に伝えて配慮してもらったほうがいいとのことですが、私も最近はできないことはやってないです。確定申告も、自分ではもう無理だと感じ、税理士さんに依頼し始めました。一気に肩の荷が下りました。

それに、今まで経理業務に使っていた時間に本業のライター仕事を当てれば、それまではスケジュールの都合上断っていた仕事を受けられるようになり、依頼していただく方にとっても都合が良いです。また、失敗しがちなジャンルの仕事も分かるようになってきたので、それは断った方がお互いのためです。

 

鈴木 ですよね! 改めて、計算が苦手な特性の姫野さんが確定申告を自力でやろうと思った時点で、尊敬しちゃいますが(笑)。

姫野 何かにつけて「フリーランスだから我慢しなくては」と思っていました。

鈴木 僕なんか逆でした。フリーになったとき、何年確定申告しなくても法的に問題ないのか、どれだけ安く人に頼めるのかを最初に調べましたから(笑)。

姫野 鈴木さんは高次脳機能障害により、それまでできていたことができなくなりましたよね。でも、発達障害の人は最初からできません。できないことに関して褒められないし、「人生なんてこんなもん」と思って生きてきた部分が私は大きいのですが、途中からできなくなった鈴木さんは、とてもショックが大きかったのではないかと思います。

写真:村田克己

鈴木 できなくなったショックよりパニックのほうが大きかったです。会計時、小銭を数えられなくてひたすらつらいとか。パニックが苦しいってことは知っていたけど、死んだ方が楽かもってぐらいリアルな苦しさを伴うとは当事者になるまで知らなかったので、途方にくれました。ショックが少なかったのは、ようやく当事者目線で情報を発信できるようになったというギフト感があったからですね。

姫野 私も周りから見るとパニックに見えないらしいのですが、イレギュラーなことが起こると脳内でパニックを起こして、後から「あのときああ言えばよかった」と思うことがよくあります。それが検査の結果ASDの傾向として出ていました。でも、それがもともとの自分なんです。その調子で31年間生きてきたので。