鉄道模型は動かせることと精密さの両方が求められる

 天賞堂の鉄道模型といえば、宝飾品の技術を生かして作られた真鍮製の精密な高級鉄道模型というイメージが強い。特に、配管や機器の多い機関車の模型ではその質感がよりいっそう際立ってくる。もちろん、そうした製品もあるが、現在はダイキャストやプラスチックといった素材を使った模型も数多くリリースし、幅広い価格帯の製品をそろえている。また、「Zゲージ」と呼ばれる線路幅が6.5mmの非常に小さい鉄道模型セットも手がけている。

塗装をしていない真鍮の状態の見本。1/80スケールほどの模型だが、本物さながらに細部まで再現されている。このまま透明な塗装をしただけの状態で欲しいという人も多いとか
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 鉄道模型は、動かして遊べる模型でありながら、同時にスケールモデルとしてのディティールも求められる。ほかのジャンルの模型、例えば車や飛行機では、飾るためのスケールモデルと動かすためのラジコン模型は性格が異なる。スケールモデルでは形の再現や細かなディティールが重視されるが、ラジコンモデルでは動かして遊ぶための形や丈夫さが優先され、細かい形やディティールはあまり追及されない。

 しかし鉄道模型の世界では、コントローラーを使って動かして遊べるものでありながら、細かい部分まで本物さながらに再現する精密さも同時に求められる。ここが面白さであり、作る側にとっては難しく挑戦し甲斐のあるところだという。

天賞堂に保管されているもので、作られてからかなり経つものだが、精密で本物のような質感が魅力的だ。当然ながら、HOゲージ用の線路に載せて走らせることができる
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 面白いのは、本物を正確に再現しているように見える鉄道模型だが、実はあちこちが微妙にデフォルメされていることだ。鉄道車両は人間よりずっと大きいが、鉄道模型は小さい。そのため実物を正確に縮小した模型を作っても、実物を見たときに受けた印象とは違って見えてしまい、物足りなさを感じるのだという。

 そこで、パーツによっては実際より少し太めや大きめに作ることで、実物を見たときと同じような印象を抱けるように工夫している。設計図通りの正確さだけにとらわれず、ユーザーがその車両に抱く印象・イメージも重視した造形になっているわけだ。