日本政府が銀行以外の事業が行う「資金移動業」の規制緩和を検討していると報じられています。
この規制緩和はフィンテック企業等の「送金業務」への参入をさらに促すものになりますが、他にも影響を与えることが予想されます。
今回は資金移動業の法規制見直しが及ぼす影響について考察します。
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報道内容
資金移動業の法規制緩和については日経新聞が報じています。
以下で日経新聞の記事を引用します。
送金規制 緩和へ 首相表明 IT企業の参入促す
2018/10/06 日経新聞政府は銀行以外の事業者に送金を認める「資金移動業」などの金融に関する法規制の見直しを検討する。フィンテックの台頭でIT(情報技術)企業などによる金融への参入が進みつつある。金融のサービスやリスクに応じた横断的な法規制に改め、技術革新を促す。
5日、安倍晋三首相が未来投資会議で明らかにした。首相は同会議で「キャッシュレスで送金サービスを受けられる社会を実現するため、金融法制の見直しや金融機関との連携促進などを検討する」と述べた。
例えば、資金決済法に基づく資金移動業者は銀行でなくても送金サービスを手掛けられるが、上限は100万円までとなっている。この規制を緩めれば、銀行を経由せずに企業同士でまとまったお金をやり取りできるサービスが生まれる可能性がある。
成長戦略をめぐっては、来年夏までに今後3年間の工程表を含む実行計画をまとめる。(以下略)
これが報道内容です。
ポイントは資金移動業者は送金サービスの上限が100万円であること、この上限を緩めることを政府が検討しているということです。
では、以下でもう少し詳細に見ていくことにしましょう。
資金移動業とは
そもそも資金移動業とはどのようなものでしょうか。以下定義を確認してみましょう。
資金移動業とは、銀行等の預金取扱金融機関以外の者が為替取引を業として営むことをいいます。
資金決済法上の「為替取引」は、銀行法上の「為替取引」と同義であり、銀行等以外の者であっても、これまで銀行等が取り扱ってきた為替取引を営むことが可能です。
「為替取引」を行うこととは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいうと解されています(平成13年3月12日最高裁第三小法廷決定)出典:日本資金決済業協会ホームページ
これが資金移動業です。
資金移動業が創設されたのは資金決済法の成立によってです。
資金決済に関する法律(資金決済法)は、近年の情報通信技術の発達や利用者ニーズの多様化等の資金決済システムをめぐる環境の変化に対応して、(1)前払式支払手段、(2)資金移動業、(3)資金清算業(銀行間の資金決済の強化・免許制)を内容として、2010年4月1日に施行されました。
(中略)
資金移動業では、銀行法にかかわらず、資金決済法による登録をした者は、資金移動業者として為替取引(1回あたり100万円以下)を行うことができることとなりました。履行保証金の供託のほか、いわゆる金融ADRへの対応が必要となりました。
(出典 日本資金決済業協会ホームページ)
資金移動業者のポイントは以下の点です。銀行よりは大幅に規制が緩和されています。
- 銀行以外の者でも、登録を受けることにより為替取引を行うことが可能
- 少額取引に限定(1回の送金100万円以下)
- 預金の受入れ、預金を原資とする資金の貸付けは不可
- 兼業規制なし(公益に反する他業を除く)
- 登録制
資金移動業への参入は比較的ハードルが低くなっています。
しかし、一回の送金が100万円以下という規制から、大きな金額が動く「企業間の送金」はいまだに銀行の独占状態となっています。
政府はこの規制を緩和し、更なる競争促進を促すという方針なのです。
仮想通貨への影響
資金移動業の規制が緩和された場合は、銀行の為替取引へ影響が出てくることは間違いないでしょう。
加えて、「仮想通貨」に影響が出ることが想定されます。
ここでは実用を見据えて開発されている代表的な仮想通貨であるMUFGコインを事例に確認してみましょう。MUFGコインのメリットは以下の通りと想定されます。
<MUFGコイン(仮想通貨)のメリット>
- トレーサビリティ(ユーザーである企業等は銀行間システムでは取引履歴が見えないが仮想通貨ならば確認できる可能性がある)
- 送金手数料が安い
- 仮想通貨なので100万円超の送金も可能
- 価格を1MUFGコイン=1円と固定できない
- 国の信用ではなくMUFGの信用に依拠
(MUFGコインについての考察は以下記事をご参照ください)
そしてMUFGコインの価値を担保するのは、あくまで民間企業であるMUFGです。
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所見
以上で見てきた通り、資金移動業の上限規制緩和は、MUFGコインのような仮想通貨を送金へ利用する計画へ影響を与える可能性があります。
仮想通貨でなく、価値を運営会社が担保する「電子マネー」だったとしても、送金コストの低下、利便性の向上があれば、個人も企業もより良いサービスを選択するでしょう。
そもそも2018年10月からは24時間365日の即時振込に対応できる銀行間のシステムが開始されます。すでに銀行免許を持っている銀行ならば、電子マネーでもなく、仮想通貨でもなく、このシステムを用いた為替取引(すなわち現行のシステムの改善)で対応していくことも選択肢かもしれません。