彼らとの出会いは大学1年生の初夏。日差しが眩しい校内で、ぬいぐるみを抱いたゴスロリちゃんを追いかけ、保健室の奥へと入っていくのを見つけたあの日・・・。
人物紹介
おじさん:8年生+数年休学、自分の年がわからない 統合失調症
みーこさん:7年生、よく道に倒れていた LGBT
ヨシダくん:5年生、唯一話が通じる人 強迫性障害
ゴスロリちゃん:4年生、ファッション(性豊かな)メンヘラ 不眠症
ゆり(わたし):1年生、複雑性PTSD すぐ怒る
ある日の平和なメンヘラ達の風景
「メンヘラ」という以外に共通点がなくても、メンヘラであるゆえにメンヘラのみんなはすぐに私を受け入れてくれて友達になってくれました。
他のメンヘラもたまに来ることがあったけれど、「この人たちのようになってはダメだ!」と思ったのか・・・定着していたのは基本この5人でした。
私は保健室にしょっちゅう顔を出すようになり、ある日みんなで神経衰弱(トランプ)をしていたら本当におじさんやみーこさんが衰弱してしまったり、
ヨシダくんがローソンでカラアゲ(5個入りのやつ)を1個ずつ分け合おうと買ってきてくれたらおじさんが全部食べてしまったり、
みんなでゴスロリちゃんの持ってきた『ゴシックロリータバイブル』を見たりして、感化されたみーこさんがしばらくしてゴスロリを着てきたり・・・メンヘラなりに楽しくやっていました。
不安の共鳴
学期末のテスト前になると、メンヘラ達は揃ってナーバスになります。調子が悪くて出られなかった授業のノートを見せてくれる「友達」は誰もいないのです。
メンヘラ達は学年や学部・学科が違っていたので協力し合うわけにもいかず、途方に暮れていました。
夕立が去った夕暮れ、突然ゴスロリちゃんが泣き出しました。そして共鳴するようにみーこさんが泣き、おじさんは無意味な言葉を早口で羅列し始め、ヨシダくんはぐるぐると歩き回っています。
保健師さん達がやってきて「ちょっと、どうしたの!大丈夫??」などと心配してくれます。私はあのとき、加われなかった共鳴の中で「ひとりじゃない」と少し安堵していたような気がします。
突然のナイフ事件
気づけばもう秋。私が午後の授業を終えホッと一息つこうかなーと保健室に入るとあらびっくり!みーこさんがみーこさん自身の喉元にナイフを突きつけているじゃないですか。私は驚いて声も出ませんでした。そしてこんな日に限って他に誰もいない。
とととととりあえず「保健師さああああああん!!!泣」と詰所でのんびりテレビを見ている保健師さんに事情を話し、保健師さんがみーこさんにタックル。その後は救急車も来て大変な騒ぎになりました。
さよならメンヘラ
泣いてもわめいても、季節は移り変わっていきます。メンヘラとていつまでも大学の保健室に留まるわけにはいきません。ヨシダくんとゴスロリちゃんは卒業し、おじさんは退学、みーこさんはしばらく休学していましたが、結局退学してしまいました。
2年生になった私はひとりぼっちです。さみしいなあ、懐かしいなあ、と思いながら、ぐるぐるとまた季節は巡っていきます。
あれから10年ほど経ちましたが、今でもみんなは私のことを覚えているでしょうか。私は忘れたように暮らしています。きっとみんなもそうしていることでしょう。