アメリカで人気の「バレットジャーナル」は、最近日本でもSNSを中心に話題になっています。
バレットジャーナル唯一の公式ノート「ロイヒトトゥルム1917」(後述)を使って、楽しく管理する実践的ビジュアルガイド本「ロイヒトトゥルム1917ではじめる箇条書き手帳術」(実務教育出版)
「バレットジャーナル」は、もともとアメリカ・ニューヨーク在住のライダー・キャロル氏によって広まった思考術。これは、考案者がみずからの発達障害に対応すべく考えられたノウハウです。
現在普及している「バレットジャーナル」は、予定ややりたいこと、考えていることなどをノートとペンを使い、それぞれ短いフレーズ(「ラピッドロギング」と呼ばれます)にまとめて記録するもの。この記録により、「自分になにがおきているかどう感じているか、これからどうしたいのか、といった等身大の自分を客観的に見つめることができる」(※)ようになるのです。
※:「ロイヒトトゥルム1917ではじめる箇条書き手帳術」のP.34より
「バレットジャーナル」は、特定の手帳ではなく既存のノートを使って、タスクややりたいこと、予定などを一元管理できるように作ります。そのため、次のようなコンテンツのページを用意して、いくつかのルールのもと記録していきます。
いわゆる目次。市販のノートを使う場合は、各ページにページ番号をうつ必要があります
半年分の予定を書いておくページ
月間予定を管理するページ
1日の予定やタスクを管理するページ
次に、「KEY」と呼ばれる記号とその意味を決めておき、適宜利用していきます。たとえば、ToDo項目には先頭に「・」を書く。終了したら「・」を「×」に、予定をリスケする場合は「<」にするといったルールが「KEY」です。これら基本的なものに加え、ユーザーが独自の「KEY」(ルール)を加えることで、オリジナルの「バレットジャーナル」ができ上がるわけです。
記号「KEY」を使ったデイリーログ。「『箇条書き手帳』でうまくいく はじめてのバレットジャーナル」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より
「『箇条書き手帳』でうまくいく はじめてのバレットジャーナル」の著者Marieさんによるデイリーログの記入例。華美になりすぎず、シンプル。「バレットジャーナル」のひとつの典型例です
「バレットジャーナル」の公式ノートは、以下で紹介する「ロイヒトトゥルム1917」ですが、2018年後半にさしかかり、「バレットジャーナル」の関連書籍が続々と登場。「『箇条書き手帳』でうまくいく はじめてのバレットジャーナル」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)や、公式ガイド書籍「ロイヒトトゥルム1917ではじめる箇条書き手帳術」(実務教育出版)など、出版社各社からガイドムックが複数発売されています。
「『箇条書き手帳』でうまくいく はじめてのバレットジャーナル」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
また、「バレットジャーナル」は思考術ですので、その思考術を使うことをうたったノートも、各社から複数発売されています。また、「バレットジャーナル」向けマスキングテープといった周辺ツールも発売されるなど、以前よりも「バレットジャーナル」を試すための環境が整っていることは間違いありません。
そこで今回は、「バレットジャーナル」用の各種ノートを紹介しましょう。
以上で説明したように、「バレットジャーナル」は発想法であり、ノート術でもあります。そして、特定の手帳やノートを必要とせず、普通のノートを自分なりのルールでカスタマイズして利用することで作っていくものでもあります。
いっぽうで、「バレットジャーナル」用とうたったノートを利用する手もあります。共通するのは、ドット方眼や方眼用紙が収録されたノートであること。以下、こういった製品をそれぞれレビューしていきましょう。
「ロイヒトトゥルム 1917 バレットジャーナル A5 ブラック」はドット方眼タイプ
「ロイヒトトゥルム 1917 バレットジャーナル」は、唯一の「バレットジャーナル」公式ノートです(代理店の平和堂は、ライダー・キャロル氏の正式なパートナー)。公式だからゴテゴテしているのかと思いきや、実は基本に忠実。構成は、まずインデックスページ、次にフューチャーログ、そしてドット方眼のノートページは、ページ番号が控えめに入っています。
インデックスページ。いたってシンプル
半年分の予定を書くフューチャーログページ
マンスリーログやデイリーログを書き込むドット方眼ページ
また、表紙の折り返し部分には、「KEY」の覚え書き欄が用意されています。「バレットジャーナル」では、「処理済み」や「リスケ」などの情報を独自の記号で管理しますから、「ロイヒトトゥルム 1917 バレットジャーナル」においてはこの専用欄「KEY」に記入マークを記入することで、いつでも参照できるようにしています。
「KEY」の記入欄は、表表紙の裏に用意されています
しおり紐は3本付属。ノートや手帳としては異例の数です。メーカー推奨の使い方は、瞬時に過去・現在・未来を見比べてタスク管理を行うこと。フューチャーログ、マンスリーログ、デイリーログに挟んでおくことで、効果的に「バレットジャーナル」を運用できるといいます。力が入った印象ですが、同時にユーザーのことをよく考えていることがわかります。
シールも付属しています。表紙用と背表紙用のそれぞれ3つがセットになっており、記録としてきちんと保存し、必要に応じて過去のものが簡単に参照できるようにという配慮が感じられます。
「ロイヒトトゥルム 1917 バレットジャーナル」は、これから「バレットジャーナル」をきっちりとマスターしたいという人が、公式ガイドブック「ロイヒトトゥルム1917ではじめる箇条書き手帳術」を片手に利用するべきノートだと言えます。
なお、「ロイヒトトゥルム 1917」には、「バレットジャーナル用」ではないドット方眼のみのノートも用意されています。こちらは先述の製品のようなカスタマイズは施されていませんが、ルールさえわかっていれば同じように使えます。
TIPSの説明は、すべて英語
裏表紙の裏にはポケットが用意されています。ここに収納されているシールは、表紙と背表紙に貼れます。ちなみに、3本のしおりは色が異なります
「ライフジャーナル インフィニット」のA5サイズ。表紙はやや厚めでソフトです
「ライフジャーナル インフィニット」は、バーチカル式手帳の元祖として知られるクオバディス製の「バレットジャーナル」用ノート。まるで手帳のような記入欄が最初から印刷されており、月間予定欄や週間予定欄に相当するページが、ドット方眼をベースとしながらも収録されています。
マンスリーログページ。ベースはドット方眼
ともあれ、単なる手取り足取りなノートではありません。月間ページの右下には、趣味やルーティンの実施日を記録する「ハビットトラッカー」用の記入欄が用意されています。このあたりはユーザー層である女性に配慮しており、とても親切です。
マンスリーログページの記入例。右下の「ハビットトラッカー」用記入欄は、趣味やルーティンを実施した日に色付けすることで、ひと目で頻度がチェックできる
もうひとつの特徴は、全編フランス語で書かれていること。先述の「ロイヒトトゥルム1917」はドイツ製ですが、英語でルールの説明が書かれています。ところが「ライフジャーナル インフィニット」のそこここにある説明文は、「´」(アクサンテギュ)バリバリで、かわいらしい雰囲気のフォントで綴られたおフランス仕様。女子力が横いつするこの仕様は、人によってはそれだけでお腹いっぱいになってしまうかもしれません。
ページ番号の左右にも、女子力炸裂な飾りが!
表紙は合皮カバーに金箔押し。ラメ入りのエラスティックバンド付き
しおり紐は1本付属。巻末にはマチ付きポケットを搭載します
クオバディスブランドがいいけれど、ここまで親切じゃなくてもいいやという人には、インデックスページとドット方眼ページのみで構成されたシンプルな「ライフジャーナル ドット」がイチオシです。
「ライフジャーナル ドット」のA5サイズ
「ライフジャーナル ドット」の中身はシンプルなドット方眼紙
「ゴールブック A5」は、表紙にイタリア製合皮を使用した12色展開
「バレットジャーナル」をやってみたいけれど、「ロイヒトトゥルム1917」みたいなカッチリした感じだとやや堅苦しい。かといって、クオバディスブランドの製品ほど女子力が高くなくてもいいと思った方には、このロディアの「ゴールブック A5」がよいでしょう。
メモ帳でも有名なブランドですが、アイデンティティたるオレンジ色の表紙は、他の製品と比べるとやわらかめ。2本のしおりも色の区別はなく、ラフに使える感じです。それでいて、フューチャーログやインデックスページはしっかりと用意されています。ページ番号も控えめ。濃いめのドットは好みが分かれるところかもしれません。
フューチャーログのページ。見開きが半年分で、1月から12月まで月名が書いてあり親切
ドット方眼ページ。他の製品に比べると、ドットの色は濃いめ
巻末のポケット。しおりは2本ともオレンジ
64ページのノートはシンプル設計。カバーを付けてもよさそうだ
パインブックの「マイジャーナル用スターターキット」は、専用ノートに加え、日付シールや「KEY」シールが付属する、至れり尽くせりの「バレットジャーナル」用キット。ほかのブランドがA5サイズオンリーなのに対し、こちらはB6サイズも用意されています。
中身はシンプルなドット方眼のノートですが、ページ番号はしっかりと入っています。またページセンターを示すためにひとつだけ四角マークが印刷されており、便利に使えます。
ノートの中身は、ドット方眼ページのみ
入門用セットの「スターターキット」には、さまざまなマスキングシールが付属します。
スターターキットに付属するマスキングシール。「インデックス&キー」、「フューチャーログ」、「マンスリーログ」、「デコレーションシール」、「日付」、「月名」、「曜日」、「月間トラッカー」の全12シートがセットになっています。写真のマスキングシールの書体は、「カリグラフィー」タイプ。ほかに、「ベーシック」と「ハンディー」の書体タイプがラインアップされています
写真を見ていただければわかるように、ルールにのっとってこれをノートに貼っていくだけで簡単にページ構成が作れそうです。
また、「フューチャーログ」や「日付」のマスキングシールは曜日の記載もあって親切。もっとも、国民の祝日などは逐一確認する必要があるかもしれません。
ともあれ、数字や曜日がきれいなフォントでノートの面にあると、それだけで安定感が出ます。かゆいところに忖度するこの製品の手回しのよさたるや、さすがは日本メーカーという印象。「スターターキット」を買えば労せずに、「バレットジャーナル」が楽しめそうです。
シールは単体でも販売しているので、ノートはほかのメーカーのものを利用しつつ、これらシールを随所に使ってもよし。きれいに仕上がります。
ノートの記入例。きれいなフォントの数字や記号が入るだけで紙面が引き締まる
「ドローイングダイアリー2019」の「Light」版。158ページの3mm方眼ノートが収録される。382ページの「Heavy」版もあり
冒頭で書いたように、どんなノートを使っても作れるのが「バレットジャーナル」です。しかし、月間予定欄が必要ならば、せめてその部分は日付が入った製品を選んだほうがラクなのではないか。そう思った人には、「ドローイングダイアリー」がぴったりハマるでしょう。
「ドローイングダイアリー」はコクヨの月間タイプの手帳で、ノートページが多く収録され、インデックス機能も備えています。また、ページ番号も印刷済み。つまり、月間スケジュールページをそのまま利用しつつ、ノートページにはフューチャーログなどの各種コンテンツを記入。またインデックスページに各コンテンツのページ番号などを書いておけば、簡単に「バレットジャーナル」が作れてしまいます。
月間ブロックページ。ブロックのスペースはページいっぱいに大きめに取られています。右の余白に設けられた「week欄」は、週ごとの予定やタスク記録に使えます
ノートの先頭ページに設けられたインデックスページ。インデックスページと次ページからの方眼罫ノートには、タブスペースが設けられており、タスクごとに色分けすれば検索しやすくなる
3mm方眼罫のノートページ。小口側には14項目のタブスペースを設置。ページ番号もあらかじめ振ってある
「ドローイングダイアリー」のメリットとしては、使用中に「やっぱり『バレットジャーナル』は自分に向いてないかも」と思った際、これならば普通の手帳として使い続けられるという点があげられます。「ドローイングダイアリー」は、確かに上記の専用製品と比較すると、手帳としてのカッチリとした雰囲気は否めません。しかし、「バレットジャーナル」を始めるハードルを下げてくれる点は、専用製品にはない特徴だったりするわけです。
「バレットジャーナル」は、手帳よりも自由度が高いのが特徴です。半面、手帳が使い方を一挙手一投足にいたるまで決めていないのと異なり、「バレットジャーナル」は“ルール”を自分で決めてそれを理解・運用する必要があります。
本稿で紹介した専用ノートであれば、楽しく自由に「バレットジャーナル」が作れるはずです。もちろん普通のノートを使ってもなんら問題はありません。
ともあれ、日本でこれだけ「バレットジャーナル」の情報や製品がそろっている状態は初めてと言っていいでしょう。何しろガイドの書籍やムックが複数あり、専用ノートも選び放題。専用オプションはもちろん、従来からある日付のシートやシール、スタンプ類などを転用してより楽しく、またラクに「バレットジャーナル」を作ることもできるからです。
それらはいささか、「バレットジャーナル」発案者の思惑からずれているかもしれません。しかし、これは文具大国たる日本らしい現象とも言えます。
手帳が苦手な方も、「バレットジャーナル」ならば続けられるかもしれません。1度試してみてください。
手帳評論家・ふせん大王。知的生産の面から文具・手帳について執筆。主な著書に「iPhone手帳術」「手帳の選び方・使い方」(ともにエイ出版社)「パソコンでムダに忙しくならない50の方法」(岩波書店)などがある。