- ロンドンを拠点とするブックメーカーのスタートアップ「スマーケッツ(Smarkets)」は、従業員に自らの給与を決めさせている。
- この制度は社内のコンセンサスを利用するもので、従業員の給与情報は社内wikiで公表される。
- 導入の過程では良いことも悪いこともあったが、最終的にはうまく機能していると、スマーケッツのCEOジェイソン・トロスト(Jason Trost)氏は語る。
「見かけほど素晴らしいものではない」
ロンドンを拠点とするブックメーカーのスタートアップ「スマーケッツ」のCEOジェイソン・トロスト氏は、従業員に自らの給与を決めさせる同社の珍しい制度について聞かれ、こう答えた。
「クレイジーな制度だ」「だが、機能している」
トロスト氏が従業員自ら給与を決める制度をスマーケッツに導入したのは、約3年前のことだ。会社全体の透明性を突き詰めていったことによるところが大きいと言う。
「これは最もフェアな制度だと思う」
トロスト氏は語った。
「自分の仕事や地位をコントロールしているという公正な感覚をより強くするものだ。
スマーケッツでは、従業員の給与は上司との話し合いで決まるものではない —— それぞれの従業員が、自分がいくら欲しいのかを示し、その額がふさわしいかどうか、同僚たちが投票する。各従業員の給与は社内wikiで公表され、給与交渉は年に2回だ(当初は給与査定を毎月行っていたが、それでは「あまりにも混乱する」ことが分かったとトロスト氏は言う)。
同僚よりあまりにも高い額を求めると、周囲から賛同を得られない可能性もある。
「皆、社内裁判でそれぞれの要求額を慎重に検討している」
トロスト氏は明かす。
「ほぼ適切な額だと考える人もいれば、高すぎるまたは低すぎると考える人もいる。大抵は高すぎると言われることが多い。そして、従業員たちにはポジティブとネガティブ、両方のフィードバックが返される」
従業員は同僚の給与をゼロにはできないが、口を挟むことはできる。この制度は社内コンセンサスに基づいている部分が大きい —— 他人の給与額に異議を唱えたければ、その人と直接対峙しなければならない。
スマーケッツのイギリスオフィスに勤めて4年になるフランス人エンジニア、アンジェリーヌ・ミュレ・マルキ(Angeline Mulet-Marquis)さんは、この制度は従業員の間で激しい議論を引き起こしたと語る。だが最終的には、より健全な職場環境を作り出していると言う。
結局のところ、情報が表に出ていようがいまいが、同僚との給与の差が従業員の間で話題になることに変わりはない。
「給与が公になることで、これまで以上に健全になりました」とミュレ・マルキさん。「全員が他の人の給与を知っていて、給与がそれほど不平等ではないと分かっているので」
だが、この制度にも短所はある。
トロスト氏によると、制度の導入初期、与えられたプロジェクトに不満のあったある従業員が、抗議の手段として給与を2倍にするよう求めた。最終的に、その従業員の給与は約4万ドル(約460万円)低い額で決着がついたという。トロスト氏はこの出来事を「腹立たしい、時間の無駄」だったと語る。
だが、大抵の場合はこの「自ら給与を決める」制度で柔軟性が増す。
「お互いに人間らしくなれると思う」とトロスト氏は言う。「家を買うのに少し多めにお金が欲しい人がいて、周りがそれを実現してあげられるなら、本当に素晴らしいことだ」
同氏はこの制度が、仕事は優秀でも交渉力の弱い人に利益をもたらすと考えている。また「ごますりをしたり、社内政治に力を入れるインセンティブが減る」と言う。「皆が他人の給料を知っていると、甘い言葉でだますのは難しくなる」
だが、制度の導入は簡単ではなかった。
「ここまでの透明性を持ち込むことは本当に怖かった。皆が怖がった」とトロスト氏。「皆、同僚がいくらもらっているか、知りたくない。自分よりも稼いでいると知りたくないからだ。管理職もやりたくなかった。自分の力が失われるように感じたからだ」
この制度が給与交渉の未来の姿になるのだろうか? トロスト氏はその可能性はあると考えている。
「人類にとって、こうした社会システムを改善し続けることは重要だ」
トロスト氏は言う。
「この制度をやっているのは、いいアイデアだと思っているからだけではない —— スマーケッツを企業のモデルにしたいからだ」
スマーケッツの給与制度を他の企業にも勧めるかと尋ねると、トロスト氏はそれは企業によると答えた。規模が小さく、制度のまだ整っていないスタートアップなら機能するかもしれないが、安定した大企業には難しいかもしれない。
「経営陣が混乱に直面する勇気があるなら、その価値はあるだろう」「だが、マイナス面もあるかもしれない」
(翻訳:R. Yamaguchi、編集:山口佳美)























