時代の正体〈640〉日本第一党に街宣中止を求める
7日に川崎で開催
- 神奈川新聞|
- 公開:2018/10/06 08:00 更新:2018/10/06 09:34
党首の桜井誠氏は、存在しない「特権」が「在日コリアンにはある」というデマをインターネットで流布させ、数知れない人権侵害事件を引き起こしてきた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の創設者。在特会を離れて立ち上げた第一党だが、党員や支持者には在特会関係者、ヘイトデモ・街宣の主催者や常連参加者が連なる。政治団体とは名ばかりで、本質は看板を掛け替えただけの人種差別団体だと私が断じるゆえんだ。
今回街宣を主催する神奈川県本部の中村和弘部長はツイッターで「日本第一党が政権与党となり、桜井党首が内閣総理大臣になることが夢」と公言。私の取材に「在日特権はあると考える」と答え、桜井氏の差別言動について「過激な発言で日本を変えなければいけない部分がある」と人権侵害行為を肯定している。
その口から語られる「自分たちはヘイト団体ではない」「政策周知の街宣でテーマは言論の自由」という抗弁がいかに無意味で欺瞞(ぎまん)に満ちたものか。8月14日、JR川崎駅東口で県本部が主催した街宣で掲げられたのは「暴れるな朝鮮人」の横断幕だった。在日コリアンが暴力的な人々であるかのように示し、「敵」に仕立てて差別と暴力をあおる。差別扇動の典型的な手口だ。横断幕を手にしていたのは来春の大阪府八尾市議選の第一党の公認候補予定者、村上利一氏。関西でヘイトデモ・街宣を繰り返している人物だ。
乗用車に取り付けたスピーカーから「反日朝鮮人」「殺すぞ」と大音量で連呼していたのは荒巻靖彦、西村斉の両氏。2009、10年に拡声器で「スパイの子ども」「保健所で処分しろ」と人間否定の悪罵を投げつけ、機材を壊すなどした京都朝鮮学校襲撃事件をはじめ、差別事件を繰り返し、刑事、民事の裁判で有罪判決、不法行為責任を認定される判決を受けている。荒巻氏は8月14日も、抗議に駆け付けた市民を路上に組み伏せ、首を絞める暴行をし、その動画をネット上に投稿、暴力の扇動をまき散らした。被害者は県警に被害届を提出、県警が捜査している。
盾となる市民
この街宣について福田市長は「不適切で残念」「通り掛かった人は驚き、不快な思いをしただろう」と述べた。やはり補足が必要だ。駅前が騒然としたから「不適切」なのではない。差別が公然と行われ、市民の人権が踏みにじられ、差別感情を動機としてヘイトクライムが起きたのだ。「残念」の一言では到底足りない。
ヘイトの現場には多くの市民が抗議に駆け付ける。起きているのは「もめごと」ではない。差別という不正義と地域社会が破壊されるのを許さない市民による、差別を阻止する行動だ。発せられるヘイトスピーチを抗議の声でかき消す。罵倒に値する卑劣な行為と示す。第一党が差別扇動団体だと周知するちらしを配り、その活動を無効化させている。
市はヘイト対策で公的施設での差別的言動を予防するガイドラインを設けた。だが、駅前の街宣は届け出なく行える。防ぐ手だてがない。だから市民が盾となっている。行政は対策の不備を見つめ、市民の営為に感謝しこそすれ、眉をひそめることがあってはならない。
意見の対立ではない。ヘイトスピーチは言論ではない。差別であり、暴力だ。第一党が強弁する「言論の自由」とは差別する自由であり、「差別をさせろ」が「差別はやめろ」と同列であるはずがない。一方的に非難され、否定され、断罪されるべきものだ。
福田市長は「誰でも、いつでもヘイトは許されない」と言う。付言すれば、候補者を含む政治家ら公人は差別根絶の先頭に立たねばならず、とりわけ差別をしてはならない。公的な肩書が持つ影響力が扇動効果を増幅させるからだ。
16年7月の東京都知事選にあしき前例がある。立候補した桜井氏は公職選挙法に選挙演説に関する縛りがないことを逆手に取り、街頭でヘイトスピーチを連発。へイトスピーチ解消法の施行で沈静化したヘイトデモが再び勢いづく悪影響をもたらした。桜井氏は11万4千票を獲得、約2千万円の寄付が集まった結果が極右政治団体結成の足がかりになった。
悪夢が現実味
第一党は来春の統一地方選で14人の公認候補を立てる方針だ。県内では中村県本部長ら相模原、横浜市で予定者4人が公表されている。選挙活動に名を借りたヘイトをどう防ぐか。神奈川はその最前線にある。9月23日には小田急線相模大野駅前で相模原市内では初となるカウンター行動が展開され、抗議の輪は広がりをみせる。
そして川崎市である。川崎区から無所属で立候補の意向を示す佐久間吾一氏は、集会で講師を引き受けるなど第一党と行動をともにしてきた。「第一党とは主張が異なるので自分から公認を求めることはないが、推薦してくれるなら受ける」という。都知事選で桜井氏が在日本大韓民国民団(民団)中央本部前や東京・新大久保のコリアンタウンに選挙カーで乗り付けたように、在日コリアン集住地区でレイシストが応援弁士として演説に立つ悪夢が現実味を帯びる。
想定される蛮行はすでに引き起こされている。佐久間氏は中村県本部長、荒巻氏、西村氏とともに臨海部の住宅街を徘徊(はいかい)。「コリア系が不法占拠で住み続けている」と中傷しながら町並みを動画で撮影、ネットにアップしている。佐久間氏は「問題がある動画とは思わない」と話す。
「ヘイトをやめろ」と非難され「ヘイトとは何かを教えてくれ」と居直る。そうした集団は存在自体が脅威を与える。ヘイトデモを繰り返してきた津崎尚道氏に対し、横浜地裁川崎支部は在日集住地区に立ち入ることまで禁じる仮処分決定を下している。
だから、街宣の告知自体がすでに被害を生じさせる。過去の卑劣な行為を思い起こさせ、標的となっている在日市民を恐怖させている。街宣には第一党最高顧問の瀬戸弘幸氏が参加する。ネオナチ団体を立ち上げた過去がある古参のレイシストで、市が進める差別をなくすための条例の制定の阻止を公言、ヘイトデモ・街宣を繰り返してきた。抗議を受けるたび、市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」を「極左暴力集団」などとデマで攻撃してきた。事実を捏造(ねつぞう)してまで差別をあおる卑怯(ひきょう)と愚劣が極まったのが8月14日だった。市民ネットワークの崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(44)が抗議の場にいなかったにもかかわらず、瀬戸氏は「姿を見かけたという情報が寄せられた」とうそをブログに記し、「在日朝鮮人広告塔」とおとしめた。
瀬戸氏は今回も「暴力集団」と吹聴しようとするだろう。対策が進む川崎で市民運動を分断し、反ヘイトの機運をそぐ目的なのはこれまでの行動からも明らかだ。
くぎを刺しておく。前回同様、市民ネットワークは7日、直接抗議する行動を取らない。対峙(たいじ)するのは県内外から集まるカウンター市民だ。市民ネットワークは距離を置いた場所で、早期の条例制定を市に求める署名を呼び掛ける。行政が施策として差別を根絶する。それが自治体の責務としてあるべき姿だからだ。
求められているのは継続する差別を終了させ、これ以上の被害を食い止める予防策だ。市が制定する条例はだから差別を明確に禁じ、実効性を持たせるため罰則を盛り込んだものにならなければならない。それは他自治体の範となり、差別に苦しみ抗議を続ける全国の人々に勇気を与えるものになる。国の法整備を後押しすることにもなる。
街宣が行われれば、また一つ立法事実が積み上げられることになる。