JAXA宇宙科学研究本部の内之浦宇宙空間観測所。
観測所という名称で呼ばれているが、その実態は世界最大の固体燃料ロケットや各種観測ロケットを打ち上げる「ロケット発射基地」である。
昭和45年に打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」以来、日本の宇宙探査の歴史を築き上げてきたロケット基地の年に1日だけの一般公開を、10月14日に見に行きました。
内之浦に行くのは、先月23日の衛星「ひので」打ち上げ以来3週間ぶりだ。
あの時は夜中に高速道路と国道をノンストップで突っ走っても所要時間が4時間近くかかった。
今回の一般公開は朝9時からなので、朝一番で乗り付けるには自宅を午前4時頃には出ないといけない。
という訳で、前日は仕事を終えて帰宅後すぐに就寝して午前3時には起き出して出発の準備をする。夜明け前の高速道路を都城インターまで走り、そこから一般国道の269号線で鹿屋市経由で内之浦へ。
鹿屋から内之浦までは道路標識が非常に解り難くて迷った事もあるが、今回はさすがに3回目なのでスムーズに内之浦に到着。
スムーズすぎて予定より大幅に早く、午前7時過ぎには到着してしまった。
内之浦宇宙空間観測所の一般公開当日は事故防止のため観測所周辺の駐車は一切禁止で、見学客は町営グラウンドにクルマを置いてそこからはシャトルバスで送迎してもらうことになる。
送迎バスは午前9時からなのでまだだいぶ時間があるが、観測所まで1キロほどしか離れていないので山道を歩いて行くことにする。
山の中にあるグラウンドから隣の山にある観測所まで、朝の山歩きは気持ちがいい。
観測所に到着後、まずは一旦ゲートを出て「M台地」へと向かう。
Mロケットを打ち上げるための施設があるM台地、前回観測所に訪れた時は衛星「ひので」発射準備中で立ち入りできなかった。
初めて足を踏み入れるM台地へはゲート脇の「五運橋」(M5ロケットを運び込み為に架けた橋だから5運橋!らしいぞ)を渡って、坂道を下っていった所にある。
なんかまだ時間が早いので、あちこちで展示物の準備をしたりしているが、「あの~もう入っていいですか?」と聞くと「どうぞ御自由に」との事だったのでロケット格納庫に勝手に入っていく。
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格納庫内の展示は7月の宇宙科学研究本部相模原キャンパス一般公開の時のものをそのまま持ってきたようで、見覚えのある展示がいくつもある。
あの時来場者に配られた記念品の「宇宙わ(うちわ)」もあったぞ。
上写真は御馴染の日本のロケットの始祖、ペンシルロケット。
ペンシルロケットの生みの親、糸川先生によって設立されて以来、日本のロケットの歴史と共に歩んだここ内之浦で見るとまた趣があるねぇ。
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続いて「ポリイミド熱保護膜」。人工衛星や探査機の表面を覆っている金ピカの断熱材だが、これも相模原で見たなあ、懐かしい。。。
とか思ってると解説してくれてる研究者のお兄さんもあの時と同じ人のような。
「これってマジックテープで衛星に張り付けるんですよ~」「剥がれないんですか?」「大丈夫!」って、なんか身に憶えのある会話を交わす。
ちなみにこのポリイミド、一般の人でも発注すれば買えるそうな。
「どんな人が買うんですかね。宇宙機マニアとかかな?」
「いや、うちの研究所の何某さんって先生が買ってね、帽子を作ったんですよ。2重構造にしてね、夏は中に氷を入れて」
「アハハ、本当!?じゃあ夏に相模原キャンパスに行けば金ピカの帽子かぶった科学者がウロウロしてるんですね」
「ええ、いつもこれかぶって自転車に乗って出勤してますよ」
流石宇宙研、凄い科学者には事欠かないようだ…って、いいのか?
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ロケット格納庫内では他にもランドサット画像を基に「さつまいもの生育管理と適正なイモ焼酎の生産・供給計画(だったかな?)」の研究をしている鹿児島大の院生さんの熱血解説コーナーや種子島のロケット基地から応援に来てパンフを配ってるロケット技師さんとか面白い人たちがたくさんいて、そういった人たちと話をしているだけで楽しかった。
そうこうしているうちに格納庫内にベル音が鳴り響く。尋ねると「もうすぐロケット整備塔の大扉を開いて、ロケットランチャを出します」とのこと。
これは絶対に見逃せない!
急いで整備塔の方へ向かう。格納庫と整備塔の間には、組み上がったミューロケットを運ぶための巨大クレーンが鎮座まします。
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ロケット整備塔の周辺に三三五五と人が集まり始めた。
さらに場内スピーカーからは先月M-V-7ロケットが「ひので」を打ち上げた際の構内アナウンスの録音が流される。実際に打ち上げカウントダウンを放送し、それと同時にロケットランチャを引き出す趣向らしい。実に「マニア心」のツボを押さえた憎い演出だ。
あの日、秋の夜明けの空に最後のMロケットが飛翔した日と同じカウントダウンがM台地に流れる。
あの時、僕はここから2キロ離れた一般見学席でこのM台地を凝視していたなぁ…
カウントゼロと同時に、整備塔の大扉がゆっくりと開いた。「鹿児島県で県庁の次に高い(ランチャ班スタッフ氏談)」建物の側面が、唸りをあげてこじ開けられていく。
やがてすっかり露わになった整備塔内部には、背骨のように巨大なロケットランチャが貫かれている。
ランチャの傍らは現在空洞だが、3週間前まではここにミューロケット7号機がいたのだ。
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大扉が完全に開ききると、いよいよロケットランチャが旋回されその姿を外界に晒す。
唸りを上げ、巨大な背骨が整備塔から牽き出される。
世界最大の固体燃料ロケットの、打ち上げの瞬間。
想像を絶する巨大で凶暴なエネルギーの大爆発を受け止め、人類にはそれを止めるすべのない暴れ猛り狂う噴射を寸分違わず適正な方位に向けて送り出す「偉大なる背骨」がその全身を現す。
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ロケットランチャはM-V-7打ち上げ時と同じ方位角にセットされた。
ロケットランチャにはM-V-7打ち上げの際の煤がそのまま残っていた。
固体燃料ロケットの爆炎に炙られてもよくぞ耐えた、偉いぞ!と思わず褒めてやりたくなる、けなげなロケットランチャ。
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ランチャの基部。リング状の台座の下にロケット噴射の跡がそのまま残っているのが分かる。
ランチャ下部のコンクリート製のデフレクターの表面はまるで火に晒されたプラスチックのようにドロドロに溶解していた。
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M台地には他にもM-V-7打ち上げ時の壮絶なエネルギー大爆発の痕跡が残っていた。
整備塔から数十メートルしか離れていないフェンスはこの通り、爆風でねじ曲げられている。
今は応急処置でかろうじて立て直されているが、打ち上げ直後には完全に吹き飛ばされていたのは言うまでもない。
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Mロケット発射の度に吹き飛ばされる可哀想なフェンスの向こうに横たわるのは、M-Vロケット1号機。
もちろん本物ではない(本物は宇宙に行ってしまいました)が、固体燃料が入っていない以外は本物と寸分違わず造られた試作品だ。
内之浦基地にはこのM-V以外にもあちこちに各種のロケット試作機が展示されている。
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M台地の地下にある管制室も特別に公開されていたので早速入ってみる。
上部をコンクリートで覆われたシェルターの中に、何故か入り口で靴を脱いで上履きに履き替えて入っていくと、まさにSF映画に出てきそうなロケット打ち上げの管制を司る中枢部がある。
「うおー!カッコいい!!」
でもよく見ると壁に弁当屋のメニュー表が貼ってあったり、打ち上げ主任の定位置の机が折りたたみ式の長机だったりするんだよなぁこれが。
見学者を出迎えてくれたスタッフの人は、なんかどこかで会ったような気がするなと思ったら「打ち上げカウントダウンの秒読みは私がやってます」とのこと。
機械のように冷静に打ち上げ時刻を読み上げていたのは、あなたでしたかぁ!
「打ち上げの瞬間もここにいますが、恐いというよりワクワクします。衝撃波が管制室の上をゴロゴロ転がっていくのが分かるんですよ」とのこと。
うーーーん、羨ましい!!!体感してみたいぞ、頭上を転がる衝撃波!
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M台地を後にする前に、もう一度整備塔の周りを歩いていたら外壁にプレートが貼ってあるのに気がついた。
ロケット整備塔は建物丸ごと「発射装置」だったのだ。
M-Vの後継機が完成後どこで打ち上げるかはまだ未定だが、再びこの装置が使われることになるといいのだが。
このまま朽ち果てさせるのはもったいない、素晴らしい装置だよ。
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M台地の次に、送迎バスに乗って山を登ってコントロールセンターを見に行く。
ここは打ちあがったロケットの管制を、M台地の地下管制室から引き継ぐセクションで、地上にあって窓がある分、地下管制室のような「秘密基地感」はないが各種管制装置が並ぶ中枢部であることには違いはない。
で、地上にあるので当然建屋の外観が見えるのだがこれが相当くたびれている。
くたびれ具合を例えて言うと、僕の通っていた大学の部室棟によく似ている(解り難い例えだ)。
何故かここも入り口で靴を脱いで上履きに履き替えて入るが、室内はどこかの高校の科学部の部室そのものの雰囲気である。
壁際には打ち上げ時刻をカウント表示する装置と、おお「宇宙へのパスポート」(笹本祐一さん著・ロケット打ち上げの取材記です)第2巻にも登場していた「機械式シーケンス表示機」があるぞ!
ということは、当然あるんですよね、自爆装置の起動スイッチが!
でも「いやー、最近はテロやらなんやらがあるからね」ということで、自爆装置ボタンそのものは見せてもらえませんでした。残念。
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コントロールセンターの奥は気象情報センターになっているが、ここで見つけた驚愕の秘密兵器がこれ(上写真)。
はい、Mロケットの打ち上げ時の気象情報はこの下駄の転がり具合で決められていたんですね。って、おい!!
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で、下駄がこの面を上にして立たない限り打ち上げは延期され続けていた訳ですね。
こりゃなかなか予定通りに打ち上げ出来ないはずだわ。
…もちろん、冗談であると信じたいが、下駄が妙に傷んでいて「転がされまくって使い込まれている」感じだったのが気になる。。。
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コントロールセンターで驚愕の光景を目にした後で、すこし山を降りてKSセンターを見に行く。
ここは小型の観測ロケットを打ち上げる台地で、実は日本初の人工衛星「おおすみ」もここから打ち上げられた「日本ロケット史跡」みたいな場所である。
ここではロケットをトレーラーに搭載された移動式ランチャに載せて発射ドーム室内に運び込み、そのまま室内から打ち上げるという面白い方法を用いている。
ちなみにM-Vロケットなき後も観測ロケットの打ち上げは継続されるそうで、次回は年末年始頃に打ち上げられるそうだ。
小型とはいえ「この前撃ったときは熊本県の人吉からも見えたんですよ」とのこと。
また、「観測ロケットはM-Vより近くで打ち上げ見学できるから、かえって迫力がありますよ」とのことだった。これは冬にはまた見に来なければ。
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あちこち見て周っているとあっという間に公開終了時刻の午後3時になってしまった。
駐車場行きの送迎バスの最終便が出てしまうので、後ろ髪を引かれつつ内之浦宇宙空間観測所を後にする。
学術研究に特化したロケット基地の各施設は、「科学部の部室」テイストを漂わせた文字通りの「科学の殿堂」だった。
聞くところによると、以前は一般公開日でなくても「せっかく見に来てくれたんだから」と施設の中に招き入れてくれていた時代もあったらしい。アメリカの同時多発テロや「JAXA統合」以降、「見せてあげたくても見せられない」状況になってしまったそうで残念な限り。
内之浦から帰宅する前に、ロケット打ち上げ一般観望所に立ち寄った。
3週間前、最後のM-Vロケットの飛翔を1万人で見送ったあの場所からは、ロケットのいなくなったM台地が見えた。
ここから再びロケットの旅立ちを見送る日が、早く来て欲しい…
そう思いながら、秋の夕陽のさす内之浦を後にした。
観測所という名称で呼ばれているが、その実態は世界最大の固体燃料ロケットや各種観測ロケットを打ち上げる「ロケット発射基地」である。
昭和45年に打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」以来、日本の宇宙探査の歴史を築き上げてきたロケット基地の年に1日だけの一般公開を、10月14日に見に行きました。
内之浦に行くのは、先月23日の衛星「ひので」打ち上げ以来3週間ぶりだ。
あの時は夜中に高速道路と国道をノンストップで突っ走っても所要時間が4時間近くかかった。
今回の一般公開は朝9時からなので、朝一番で乗り付けるには自宅を午前4時頃には出ないといけない。
という訳で、前日は仕事を終えて帰宅後すぐに就寝して午前3時には起き出して出発の準備をする。夜明け前の高速道路を都城インターまで走り、そこから一般国道の269号線で鹿屋市経由で内之浦へ。
鹿屋から内之浦までは道路標識が非常に解り難くて迷った事もあるが、今回はさすがに3回目なのでスムーズに内之浦に到着。
スムーズすぎて予定より大幅に早く、午前7時過ぎには到着してしまった。
内之浦宇宙空間観測所の一般公開当日は事故防止のため観測所周辺の駐車は一切禁止で、見学客は町営グラウンドにクルマを置いてそこからはシャトルバスで送迎してもらうことになる。
送迎バスは午前9時からなのでまだだいぶ時間があるが、観測所まで1キロほどしか離れていないので山道を歩いて行くことにする。
山の中にあるグラウンドから隣の山にある観測所まで、朝の山歩きは気持ちがいい。
観測所に到着後、まずは一旦ゲートを出て「M台地」へと向かう。
Mロケットを打ち上げるための施設があるM台地、前回観測所に訪れた時は衛星「ひので」発射準備中で立ち入りできなかった。
初めて足を踏み入れるM台地へはゲート脇の「五運橋」(M5ロケットを運び込み為に架けた橋だから5運橋!らしいぞ)を渡って、坂道を下っていった所にある。
なんかまだ時間が早いので、あちこちで展示物の準備をしたりしているが、「あの~もう入っていいですか?」と聞くと「どうぞ御自由に」との事だったのでロケット格納庫に勝手に入っていく。
格納庫内の展示は7月の宇宙科学研究本部相模原キャンパス一般公開の時のものをそのまま持ってきたようで、見覚えのある展示がいくつもある。
あの時来場者に配られた記念品の「宇宙わ(うちわ)」もあったぞ。
上写真は御馴染の日本のロケットの始祖、ペンシルロケット。
ペンシルロケットの生みの親、糸川先生によって設立されて以来、日本のロケットの歴史と共に歩んだここ内之浦で見るとまた趣があるねぇ。
続いて「ポリイミド熱保護膜」。人工衛星や探査機の表面を覆っている金ピカの断熱材だが、これも相模原で見たなあ、懐かしい。。。
とか思ってると解説してくれてる研究者のお兄さんもあの時と同じ人のような。
「これってマジックテープで衛星に張り付けるんですよ~」「剥がれないんですか?」「大丈夫!」って、なんか身に憶えのある会話を交わす。
ちなみにこのポリイミド、一般の人でも発注すれば買えるそうな。
「どんな人が買うんですかね。宇宙機マニアとかかな?」
「いや、うちの研究所の何某さんって先生が買ってね、帽子を作ったんですよ。2重構造にしてね、夏は中に氷を入れて」
「アハハ、本当!?じゃあ夏に相模原キャンパスに行けば金ピカの帽子かぶった科学者がウロウロしてるんですね」
「ええ、いつもこれかぶって自転車に乗って出勤してますよ」
流石宇宙研、凄い科学者には事欠かないようだ…って、いいのか?
ロケット格納庫内では他にもランドサット画像を基に「さつまいもの生育管理と適正なイモ焼酎の生産・供給計画(だったかな?)」の研究をしている鹿児島大の院生さんの熱血解説コーナーや種子島のロケット基地から応援に来てパンフを配ってるロケット技師さんとか面白い人たちがたくさんいて、そういった人たちと話をしているだけで楽しかった。
そうこうしているうちに格納庫内にベル音が鳴り響く。尋ねると「もうすぐロケット整備塔の大扉を開いて、ロケットランチャを出します」とのこと。
これは絶対に見逃せない!
急いで整備塔の方へ向かう。格納庫と整備塔の間には、組み上がったミューロケットを運ぶための巨大クレーンが鎮座まします。
ロケット整備塔の周辺に三三五五と人が集まり始めた。
さらに場内スピーカーからは先月M-V-7ロケットが「ひので」を打ち上げた際の構内アナウンスの録音が流される。実際に打ち上げカウントダウンを放送し、それと同時にロケットランチャを引き出す趣向らしい。実に「マニア心」のツボを押さえた憎い演出だ。
あの日、秋の夜明けの空に最後のMロケットが飛翔した日と同じカウントダウンがM台地に流れる。
あの時、僕はここから2キロ離れた一般見学席でこのM台地を凝視していたなぁ…
カウントゼロと同時に、整備塔の大扉がゆっくりと開いた。「鹿児島県で県庁の次に高い(ランチャ班スタッフ氏談)」建物の側面が、唸りをあげてこじ開けられていく。
やがてすっかり露わになった整備塔内部には、背骨のように巨大なロケットランチャが貫かれている。
ランチャの傍らは現在空洞だが、3週間前まではここにミューロケット7号機がいたのだ。
大扉が完全に開ききると、いよいよロケットランチャが旋回されその姿を外界に晒す。
唸りを上げ、巨大な背骨が整備塔から牽き出される。
世界最大の固体燃料ロケットの、打ち上げの瞬間。
想像を絶する巨大で凶暴なエネルギーの大爆発を受け止め、人類にはそれを止めるすべのない暴れ猛り狂う噴射を寸分違わず適正な方位に向けて送り出す「偉大なる背骨」がその全身を現す。
ロケットランチャはM-V-7打ち上げ時と同じ方位角にセットされた。
ロケットランチャにはM-V-7打ち上げの際の煤がそのまま残っていた。
固体燃料ロケットの爆炎に炙られてもよくぞ耐えた、偉いぞ!と思わず褒めてやりたくなる、けなげなロケットランチャ。
ランチャの基部。リング状の台座の下にロケット噴射の跡がそのまま残っているのが分かる。
ランチャ下部のコンクリート製のデフレクターの表面はまるで火に晒されたプラスチックのようにドロドロに溶解していた。
M台地には他にもM-V-7打ち上げ時の壮絶なエネルギー大爆発の痕跡が残っていた。
整備塔から数十メートルしか離れていないフェンスはこの通り、爆風でねじ曲げられている。
今は応急処置でかろうじて立て直されているが、打ち上げ直後には完全に吹き飛ばされていたのは言うまでもない。
Mロケット発射の度に吹き飛ばされる可哀想なフェンスの向こうに横たわるのは、M-Vロケット1号機。
もちろん本物ではない(本物は宇宙に行ってしまいました)が、固体燃料が入っていない以外は本物と寸分違わず造られた試作品だ。
内之浦基地にはこのM-V以外にもあちこちに各種のロケット試作機が展示されている。
M台地の地下にある管制室も特別に公開されていたので早速入ってみる。
上部をコンクリートで覆われたシェルターの中に、何故か入り口で靴を脱いで上履きに履き替えて入っていくと、まさにSF映画に出てきそうなロケット打ち上げの管制を司る中枢部がある。
「うおー!カッコいい!!」
でもよく見ると壁に弁当屋のメニュー表が貼ってあったり、打ち上げ主任の定位置の机が折りたたみ式の長机だったりするんだよなぁこれが。
見学者を出迎えてくれたスタッフの人は、なんかどこかで会ったような気がするなと思ったら「打ち上げカウントダウンの秒読みは私がやってます」とのこと。
機械のように冷静に打ち上げ時刻を読み上げていたのは、あなたでしたかぁ!
「打ち上げの瞬間もここにいますが、恐いというよりワクワクします。衝撃波が管制室の上をゴロゴロ転がっていくのが分かるんですよ」とのこと。
うーーーん、羨ましい!!!体感してみたいぞ、頭上を転がる衝撃波!
M台地を後にする前に、もう一度整備塔の周りを歩いていたら外壁にプレートが貼ってあるのに気がついた。
ロケット整備塔は建物丸ごと「発射装置」だったのだ。
M-Vの後継機が完成後どこで打ち上げるかはまだ未定だが、再びこの装置が使われることになるといいのだが。
このまま朽ち果てさせるのはもったいない、素晴らしい装置だよ。
M台地の次に、送迎バスに乗って山を登ってコントロールセンターを見に行く。
ここは打ちあがったロケットの管制を、M台地の地下管制室から引き継ぐセクションで、地上にあって窓がある分、地下管制室のような「秘密基地感」はないが各種管制装置が並ぶ中枢部であることには違いはない。
で、地上にあるので当然建屋の外観が見えるのだがこれが相当くたびれている。
くたびれ具合を例えて言うと、僕の通っていた大学の部室棟によく似ている(解り難い例えだ)。
何故かここも入り口で靴を脱いで上履きに履き替えて入るが、室内はどこかの高校の科学部の部室そのものの雰囲気である。
壁際には打ち上げ時刻をカウント表示する装置と、おお「宇宙へのパスポート」(笹本祐一さん著・ロケット打ち上げの取材記です)第2巻にも登場していた「機械式シーケンス表示機」があるぞ!
ということは、当然あるんですよね、自爆装置の起動スイッチが!
でも「いやー、最近はテロやらなんやらがあるからね」ということで、自爆装置ボタンそのものは見せてもらえませんでした。残念。
コントロールセンターの奥は気象情報センターになっているが、ここで見つけた驚愕の秘密兵器がこれ(上写真)。
はい、Mロケットの打ち上げ時の気象情報はこの下駄の転がり具合で決められていたんですね。って、おい!!
で、下駄がこの面を上にして立たない限り打ち上げは延期され続けていた訳ですね。
こりゃなかなか予定通りに打ち上げ出来ないはずだわ。
…もちろん、冗談であると信じたいが、下駄が妙に傷んでいて「転がされまくって使い込まれている」感じだったのが気になる。。。
コントロールセンターで驚愕の光景を目にした後で、すこし山を降りてKSセンターを見に行く。
ここは小型の観測ロケットを打ち上げる台地で、実は日本初の人工衛星「おおすみ」もここから打ち上げられた「日本ロケット史跡」みたいな場所である。
ここではロケットをトレーラーに搭載された移動式ランチャに載せて発射ドーム室内に運び込み、そのまま室内から打ち上げるという面白い方法を用いている。
ちなみにM-Vロケットなき後も観測ロケットの打ち上げは継続されるそうで、次回は年末年始頃に打ち上げられるそうだ。
小型とはいえ「この前撃ったときは熊本県の人吉からも見えたんですよ」とのこと。
また、「観測ロケットはM-Vより近くで打ち上げ見学できるから、かえって迫力がありますよ」とのことだった。これは冬にはまた見に来なければ。
あちこち見て周っているとあっという間に公開終了時刻の午後3時になってしまった。
駐車場行きの送迎バスの最終便が出てしまうので、後ろ髪を引かれつつ内之浦宇宙空間観測所を後にする。
学術研究に特化したロケット基地の各施設は、「科学部の部室」テイストを漂わせた文字通りの「科学の殿堂」だった。
聞くところによると、以前は一般公開日でなくても「せっかく見に来てくれたんだから」と施設の中に招き入れてくれていた時代もあったらしい。アメリカの同時多発テロや「JAXA統合」以降、「見せてあげたくても見せられない」状況になってしまったそうで残念な限り。
内之浦から帰宅する前に、ロケット打ち上げ一般観望所に立ち寄った。
3週間前、最後のM-Vロケットの飛翔を1万人で見送ったあの場所からは、ロケットのいなくなったM台地が見えた。
ここから再びロケットの旅立ちを見送る日が、早く来て欲しい…
そう思いながら、秋の夕陽のさす内之浦を後にした。
この記事の最初の写真にしびれました!
わたしは上野の古いランチャーしか見たことないですよ。
http://blog.so-net.ne.jp/goto33/2006-05-04-2
焼け焦げた台座とか、現役をいちど見にいきたいなあ。
大型ロケットをランチャで「斜め撃ち」するのは宇宙研独特の世界的にも珍しい方法だそうです。
実際にはM-Vロケット程大きなロケットだとランチャ使わず垂直に撃っても殆ど効果は変わらないみたいですけど、やっぱりカッコいいですよねぇ!
この「焦げ跡付きランチャ」がギーコギーコと旋回して出てくる光景を見ていた人たち、特に男性はみんな「男の子」に戻って「うおーーー!!!」って歓声をあげてましたよ。モチロンかく言う僕も。。。(w
いつの日か、このランチャに次世代の新型ロケットがセットされた姿を見てみたいなぁ!
上野にあるランチャは造形がレトロだけど、銀地に赤の「正義の味方ウルトラマンカラー」がカッコいいですね。
ウルトラマンカラーですね、たしかに>上野
そういえばウルトラマン型ロケットで怪獣を宇宙に打ち上げる話もあったような気が…
>「斜めうち」はたしか発射場の建設条件(陸上に落ちないよう一応配慮)を満たすためでしたっけ?
そうらしいですね。
打ち上げに失敗した際はいち早くロケットを海に落として、発射設備に被害が及ぶのを防ぐ=壊れても予算がないからすぐに直せないから、って聞いたことがあります。
何だか涙ぐましい話ですよね。