オバロ☆マギカ   作:神坂真之介
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みじかいよ!


10、ねくすととぅびーこんてぃにゅー

 /とある終了日、運営の会話。

 

 ―――試作箱庭世界運転……正常。

 ―――九大機構運転……正常。

 ―――魔力循環の稼働確認……正常。

 ―――大儀式参加者からの無意識提供力素の魔力変換開始……正常。

 ―――第六基盤への接続開始、触媒結晶稼働……成功。

 ―――所定対象の存在書き換え(イグジステンス・コンバート)実行……成功。

 ―――並行次元界TTYK564330632161号座標への次元間時空転送(プレーンレイシフト)実施……成功。

 

 ダウンロード……9%……16%……36%……………………………100%完了。

 

 ―――各機構の正常稼働を確認、Project Carneades Phase Yggdrasill状況を終了します。

 

 

 

 電子機器に表示されていた無数の数式が停止し演算終了がAIから宣言される。

 各パラメータを目を皿にして見ていた作業員達から溜息の様な歓声った。

 張り詰めていた空気が弛緩し達成感と心地よい疲労感と共に各々が手を叩き合い。時にはハンドサインで健闘を称え合う。

 

 ユグドラシル運営の裏舞台、その光景を眺めながら主任である男が佇んでいる。

 シュッと音を立て、今では高級品である紙煙草に火を灯す姿が様になって居た。

 

 

 「部長、お疲れ様です。」

 「ああ、お疲れさまだ。」

 

 「やー、しばらく電子画面は見たくないっすね。」

 「それは残念だったな、次のデータ取りは一週間後だ。」

 

 「うぇぇぇ、もう少し休みくださいよ。」

 「今時、一週間も休みが出るだけで随分有情だと思うがな。」

 

 「……そりゃ、人類史に時間が無いのは判りますけどね。」

 「失敗は許されん、可能な限り乱数の振れ幅は減らさねばならない。」

 

 「あっちの世界への干渉はどうするんです?」

 「あとは観測位だな、想定以上に向こうの抑止力が強い。」

 

 「そりゃまぁ、規模が違いますし」

 「無防備だと思っていたが、存外早く抗体を作って来たな」

 

 「所定対象の皆さんはどうするんです?」

 「此方の座標は消去済みだ。放っておいて問題ない……夢の続きが見れるんだ。喜んでくれるだろうさ」

 

 

 

 

 

 /-262

 気付けば彼女は廃墟のただ中に居た。

 本当に気付けばだった、それ以前の記憶も地続きで存在している。

 沼地に移動した事、渡されていたボタンを押した事、打ち出される白い光の柱と、大きな大輪の花。

 

 閃光が全てを飲み込み、それが終わると目の前にあったのは廃墟だった。

 彼女は空を飛んでいた、もともと、少し前まで飛行(フライ)の魔法で空を飛んでいたのだから当然だ。

 

 しかし、眼下に広がるのは先程まで居た沼地ではなく、広い面積を持つ構造物群、廃墟の街並み。

 持ち出していた……持たされた懐中時計を開くと時針は時刻は24時を少し回り分針は数分の時が過ぎ去っていることを示している。

 

 もう一度周囲を見渡す、空は厚い雲に覆われ濃い闇が広がっていた。暗視のマジックアイテムが無ければ何も見る事が出来ない明度だ。多分、夜なのだろう。

 眼下の光景を合わせると実に物語的な滅びた廃墟の情景だった。

 急激な変化に対して混乱の様子も見せず彼女は伝言(メッセージ)を相方やもう一人の自身に飛ばす。返答はどうやら無いようだった。

 コンソールを確認する、反応は無い、本来存在するシステムを一つ一つ試すが、それも反応は無い。

 次にアイテムを探す、アイテムボックスの使用は可能。伝説級(レジェンド)を中心とした九つの装備は健在、消費アイテムの在庫を数えて最後に最も重要なものの存在を認める。

 

 全ての確認が終わり、一つ溜息、それには深い安堵と少しの失望が籠っている。

 同じ使命をもって送り出された自身と相方、自身は残り、相方は消えた、その違いは一つだけしかない。

 

 見渡す場所に見覚えは無い、だけれどどういう場所かは何となく知っていた。おそらく、多分、と付くけれど。

 確認の為に善悪感知(ディテクト・イービル・アンド・グッド)の魔法を唱えると効果範囲一杯に夥しいアンデッドの反応が返って来る。尋常ではない数だ、それは恐らくこの廃墟のほとんどの住民のなれの果て。

 その多くが彼女に対して敵対的な反応を示している。同時にたった一つだけ、明確に敵対反応を持たないアンデッドも感知してた。

 空を飛んでその反応に向かって近づく、敵対的ではないが、それでも危険では無いという訳では無い。慎重を期すならもう少し警戒するべきだったが、彼女はそれ程、気にしてはいないようだった。

 それは眼下を徘徊するアンデッドが彼女にとって取るに足らない存在だったからかもしれない。

 

 目標地点に辿り着くと、緩やかに降下。

 こちらの追跡に少しも気づいていなかったのだろう、フード付きのマントを付けた小柄な姿がびくりと震え揺れる金の髪、丸く見開かれる赤い瞳。

 

 

 「こんばんわ、静かな、良い夜ですね」

 「ぃっ」

 

 

 返答は無くて短い言葉にならない息を飲む音。

 幼い瞳が不安に揺れている、どう見ても彼女よりも子供で、まず間違いなく中身も子供だ。

 

 

 「ああ、驚かせましたか?少し話が聞きたかったもので、ごめんなさい。」

 

 

 コクコクと頷く子供、それはうろ覚えではあったけれど、大体彼女の聞き、または知る通りの反応だ。

ただ、一つだけ予想外の事があったとすれば……

 

 

 「私の名前はカナメ、貴女のお名前を聞かせてもらえますか?」

 

 

 ……それは彼女、まどかが特殊技能(スキル)【分霊作成】で作り出した私が、ただの召喚NPCではなく、本当にその記憶を映した分身だったという事だろうか。

 

 長い長い旅が始まる、具体的に言うと260年程の……。

 

 

 

 

 

 /???

 電子機器が明々している。

 スクリーンに映し出された文字はユグドラシルのタイトルロゴ。

 

 大きな文字の下には簡潔にサービスの終了のエンドマークとプレイヤーに対するスペシャルサンクスの文字、時間表記は既に24時を回っているが、DMMOへのログインの為の寝台には女性の姿がいまだにある。

 

 眠っているのか、その体には何の力も感じられない。

 ログインの際、手を合わせて胸元に何かを大事そうに抱えていたが、それがいつの間にか弛緩し支えを失った手の平は寝台から零れ落ちて垂れ下がっている。

 

 ころりとその手の中から転げ落ちた物、それは彼女が大事にしていた御守りだった。何の変哲もない物、この現実が支配する何処までも即物的な世界では何の実利のあるものでは無いが、今では中々手に入らない物でもある。

 

 ……誰も見て居ない其処で、その御守りに不思議な事が起きていた。本来は閉じ合わされ結ばれた部分が解けていくのだ、もちろん誰かの手になるものでは無い。

 

 結び合わされた結び目が緩やかに解け、淡い色に光る『それ』がもろみ出る。

 何処か優しい明りは、まるで呼吸をする様に緩やかに明々しながら静かに、ゆっくりと、光の粒に変わっていく。

 それはとても非現実的で神秘的な光景だった。

 しばらくすると、最後の光を残滓に『それ』は何処かへと消えた―――『それ』は此処では無い世界でこう呼ばれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――魂の結晶(ソウルジェム)と。

 

 

 

 

 





 あい、後はまた書き為なのよ。お付き合いいただきありがとねー。








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