此処を乗り越えれば、ブラック企業をバイバイしてホワイト組織ナザリックに就職できるんだから!!
次回「ヘロヘロ死す!」
DMMORPGユグドラシル
その歴史は実に12年もの長きにわたる。
サービス開始当初その圧倒的なクオリティでプレイヤー達を魅了し続けたRPG。
同時にその変質的なまでの自由度と所々に配置された
チートチートと呼ばれて長いが、これらの要素もユグドラシルを彩り12年に渡り栄えさせた理由の一つだろう。
しかし、そんなビッグタイトルも時代の流れには敵わない、日進月歩の技術はより高いクオリティを作り出し、よりプレイヤーにとって居心地の良いゲームを生み出していく。
難易度ベリーハードよりもイージーな方が良いというプレイヤーは多い、プレイヤーの多くはライトユーザーなので必然でもある。
大きな喜びよりも、失敗の屈辱の少ない、小さな幾つもの成功の喜びを選ぶ人が多かったのかもしれません。
それもまた真理、私としては高い難易度でも、幾つもの挫折の後に、試行錯誤を繰り返して、それを乗り越えた時の達成感がひとしおだと思うのですが。
つまり、そう、ユグドラシルは本日サービス終了なのです。
告知された当初のモモンガさんの動揺は見るも気の毒なほどでした。
正直わかっていた私でも結構気持ちが沈んでいます。気が重いです。それを踏まえるとモモンガさんの心境はいかばかりでしょうか。
ですが、沈んでばかりもいられません、なんとか空元気でも気分を盛り上げて、モモンガさんを連れまわしました。
「モモンガさん!冒険しましょう!」
「うぇ!?藪から棒に何を!?」
「任せてください、モモンガさん未経験のイベント情報とかは既に入手済みですから!」
「まどかさん、まどかさん、主語がありません」
「待ってられない未来があるんです!!」
「えーーーーっ!?」
どうせなら、全力で、今まで行けなかった場所全部を回りましょうと、ギルドを維持する為、守る為、ここ数年モモンガさんはあまり積極的に冒険できていません。
セフィロト攻略は割と希少な冒険イベントだったのです。
なので、大型アップデート、ヴァルキュリアの失墜以降の、幾つかの新要素、新しいフィールドとかは攻略WIKIで知れる程度で、実際には未体験の物も多かったのです。
それにまだユグドラシルに活力が残ってる時期は異形狩りも健在でしたからね。
ともあれ人間、やる事が少なくて嫌な事があると陰隠滅滅としてしまうものです。ネガティブな思考が出来なくなる位に振り回せば気もまぎれるというものです。
時には理屈よりも勢いが必要、私はAOGの皆さんのフリーダムで好き勝手を見てそう覚えました。
その甲斐あってか、表面上はモモンガさんも落ち着いています。力技でしたが結果オーライです。
もっとも、思い返してみると実は私の方が気を使われてしまっただけなのかもしれません。モモンガさんのエアリード能力はちょっとした超能力みたいなレベルですからね。
まぁ、あまり考えすぎると動けなくなりますから、モモンガさんを引っ張り出したみたいに勢いとか感情を優先するのもありだと思います。
―――さて、今日はユグドラシル最終日です、モモンガさんは大墳墓でギルドメンバーの皆さんがを待って待機中ですが、私は九世界の主要都市を回っています。
目的は、主にフレンドの皆さんへのあいさつ回りとプレイヤー市場へのウィンドショッピング。
最終日は捨て値で神器級や伝説級、課金アイテムが売られてたりします。平時ではありえない事ですが、当然と言えば当然かもしれません、今日一杯で全てがデータの海の藻屑になってしまうのですから。
しかし、転移現象を知る身としては、これはもう、買わなければならないと思います。
ふぇ!?こんな超貴重なデータクリスタルまで!?
数をそろえないと意味が無いとはいえ、結構な数が捨て値でそんなに!?
一店舗だけでは1つ,2つ程度でも全体から見ると、凄くないですか、私は凄いと思います。
「手に入れたのは良いけど、使う機会がなくてなー、下手にレアだから勿体なくて捨てれんかったし、最後まで倉庫の肥やしよ」
「まぁ、今となっては、時既にレイトって奴だ、まぁ、最終日だしな、在庫処分な大サービスって奴だよ。」
「全部ユグドラシル金貨1Gだ、もってけドロボー!」
最終日には安くなって、一級品から超一級品のアイテムを叩き売る人が全体の一%位は出て来ると予想はしていましたが。
データクリスタルは予想していませんでした、でもよく考えたら、そうする人が出ても可笑しくなかったですね。
でも、そうなると、素材が揃わずに製作の進行を妥協して止まっていた主力武器防具やレベル130で止まっている上限突破への消費アイテム入手の目途が今立つかも……。
思わず目先の欲に捕らわれた私はバリバリーっと買い貯めしてしまったのです、熱中し過ぎてモモンガさんからの【伝言/メッセージ】が来なければ来訪してくれたギルメンの皆さんに会えない所でした、私、ダメな子でしょうかモモンガさん……。
「えへへ、お久しぶりです皆さん」
「お、まどっちおひさー」
「('ω')ノ」
「おお、まどか殿か、久しぶりに組手でもするかね?」
「お、おふぅ!?なんという萌えキャラスタイル!!」
「おい、愚弟」
そんな風に、再来してくれたギルドメンバーの皆さんとの旧交を温めた時間はあっという間に過ぎ
気づけば時刻は22:00を過ぎ、大墳墓に居るプレイヤーはもう3人だけになってしましました。
私と、モモンガさん、そして遅れてやって来たヘロヘロさん。
「ほんと、ひさしぶりでしたね、ヘロヘロさん」
「いや、本当におひさーでした」
「ええと転職して以来でしたっけ?」
「それぐらいぶりですねー。実のところ今もデスマーチ中でして」
「うわー。大変だ。大丈夫なんですか?」
「体ですか? ちょーボロボロですよ」
「……え」
うねうね動く黒い粘体がどこかユーモラスな動きで、そんな、なんか救いが無さそうな事を口にして、モモンガさんと私は気づかわしげな声を上げる。
「あ、でも、なんかここ2,3日急に休暇が入ったんで大丈夫ですよー」
「ああ、そうなんですか、それは良かった」
「ユグドラシルにINする時間を作ろうと思ってたし丁度良かったですよ」
「本当に、タイミングがあってよかったですよ」
「まぁ、INに備えて早く寝たら、寝過ごしたんですけどね」
「あらら」
「たぶん、疲れが溜まってたんですね」
ヘロヘロさんのこの反応は好感触です。
本来の最終日とはやや違う状況と反応に、私のテンションもちょった上がってきました。
この日の為に色々あの手この手を使った甲斐がありますね。ブラック企業にこの点だけはグッジョブを送りたいです。
家族のいる皆さんは引き止めるのに躊躇するけれど、調べた限り家族が居なくてブラック企業でボロボロになって働くヘロヘロさんなら、なんて思うのは傲慢でしょうか。
「?どうしたんですかまどかさん」
「あはは、可愛いガッツポーズだね、何か良い事でもありましたかね?」
「え、えへへへ……」(*ノωノ)
いけないけない、不審がらせたかもしれません。
皆さんがログイン出来る様に、ちょっとお金とコネで上から圧力かけたとかあんまり印象良い話じゃないですよね。
そして、終了時刻は三人で玉座の間で迎えようという話になりました。
あと2時間なので余裕をもって階層を巡る事にします。セフィロトまで回るのは流石無理ですからここは除外、ヘロヘロさんも自分が知ってる所の方が良いでしょうしね。
モモンガさんにギルド武器スタッフオブアインズウールゴウンを持つように勧めて、ヘロヘロさんと一緒にモモンガさんをべた褒めしちゃいます。
照れるモモンガさんはやっぱり可愛いです。
そして、NPC達も連れて行こうと……。
「――あっ」
「どうかしましたか、まどかさん?」
「ちょっと忘れ物しちゃって……。」
「ええっ?此処でですか」
「ふふふ……デスマ終了間際にもよくありますね。忘れ物……。」
「直ぐ帰ってきますから先に行っててくださいねー」(`・ω・´)ゞ
「あと1時間位ですから、気を付けてください」
「ラジャーですっ!」(^^ゞ
◆ももんがーと人生の門出
リングオブアインズウールゴウンで慌ただしく転移していく天使の姿を見送りながら何を忘れていたのだろうと素朴な疑問を抱くモモンガだが、どうせ玉座の間で待っていれば何を忘れたのかわかるだろう。
「ヘロヘロさん、とりあえず、私達も行きましょうか」
「……そうですね」
ヘロヘロの反応が鈍い、動きもどこかフラフラ、多分意識も朦朧しているのではないだろうか。
モモンガには心当たりがあった、仕事の進行がみっしりとある時期のデスマーチ中または以後等にそうなりやすい。
単純に疲れているのだろう、ヘロヘロは休日寝て過ごしたそうだが、年を取ると徹夜を繰り返した後に自宅のベッドに倒れ込んで休日中寝て過ごす程に睡眠をとっても後を引いた疲労と睡魔はなかなか取れない。
まだ休んで居たいだろうに、モモンガの呼びかけに応えて無理を推してユグドラシルの最終の今日に駆けつけてくれた事が嬉しくもあり申し訳なくもあった。
まどかの熱心な勧めにより、玉座の間でともに最後を迎える事になったが、意識が朦朧としているのか、反応が何度も遅れていた。
「ヘロヘロさん大丈夫ですか?、きついならログアウトして頂いても」
「……いえ、最後まで、ご一緒すると……約束しましたから」
何度かそんな会話をしながら、お供の執事とプレアデス達を連れてぞろぞろお供を連れて玉座の間に到着する。
プレアデスのメイド姿に地味にテンションが戻ったりして居た辺りヘロヘロのメイド好きも筋金入りである。あくまで一時的なものではあったが。
玉座に着いたモモンガとヘロヘロはおおすじの運命をなぞる、要約するとビッチはモモンガを愛したのである。
はずかしーばんばん、支配者ロールとしてちょっと台無しに悶える超越者。
今一つローテンションでヒューヒューと口笛を吹く漆黒の粘体。
最後の悪ふざけの中で玉座の間の門が勢いよく開いた。
「お二人とも、お待たせしました。」
「いえ、そんなにはまって……ま、せん?」
と勢い良くやってくる
理由は彼女の装いにある、まどっちの意匠はウェディングドレスだったのである。
「えーと、まどかさん?」
「モモンガさん結婚しましょう!」
「ふぁー!?けっこん!?なんでけっこん!?アイェェェェ」
「うぁ、たまげたなぁ」
「あ、忍殺あるんだ。」
結婚システムはユグドラシルにも存在してた(※1)
互いの同意の上で、必要アイテムをそろえる事により結婚システムは成立する。
そして結婚する事によりメリットが発生する、具体的に言うと、神器級に相当する強力なアーティファクト、エンゲージリングの装備、これによりすべての状態異常への耐性値追加上昇等の各種パラメータ強化。アイテムボックスに共有領域が発生し距離を越えて互い自由にやり取りが出来る。
お互いが同じフィールドに居る場合、多数のバフ効果が発生する。互いの子供としての拠点外まで連れまわせる100レベルまで上昇可能な初期1レベルの成長型NPC作成、等々である。
ちなみに、このシステムを利用しているAOGメンバーはたっちみーだけである。
リア充システムとして名高いこのシステムは男性メンバーにより、異端審問にかけられる風潮があったため、皆避けたのだ。
たっちみーだけは空気を読まず結婚していた。現実の嫁さんに作らせたPCだと実しやかに噂されていた。
一時期、ウルベルトの呪詛は天元突破し彼等の罵り合いは苛烈を極めたそうだがそれは今は関係ない。
「えへへ、このシステムだけ体験した事ないんで、最後ならしてみたいなって。」
「あ、そういう意味で……」
「あははは、変な意味にとらせちゃったですかね」
「いえいえいえいえいえいえ、そんなははは、はぁ……。」
「でも、これ専用アイテムのエンゲージリングを用意しなきゃいけないんじゃいけませんでしたかね?」
「あ、そっちは用意してます。」
「よ、用意良いですね」
「それほどでもありません」(えへん)
「あ、僕神父役やりますよ」
「へろへろさーん!?」
そんな会話の後に、互いにリングをもって向かい合うと謎のイベントテロップが副音声で出てくる。
ついでにBGMと空から神々しい光が降り注ぐエフェクト、無駄に豪華です。荘厳です。はーれるや。
汝、モモンガは鹿目まどかとアルべドを病める時も健やかなる時も愛し続ける事を誓いますか?的なボイス。
……ももんが、さん?
いえ、そのですね!?
モモンガさん責任はとろうね。
システム外ではあったが嫁の名前にヘロヘロはアルべドを追加していた。ある種の爆弾大爆発である。
その時、モモンガはヘロヘロの何処にあるのか判らないスライムボディの瞳にリア充爆発せよの呪詛を見た。
「言い訳は良いですから今はさっさと誓ってくださいほら、ハリーハリー」
「ち、誓いましゅ」
「――誓います。」
お互い同時に応えた訳だが、どっちが舌を噛んだのかは、考えない事にしてください。
互いの薬指にエンゲージリングを嵌める二人、ちょっと、モモンガがしくじっていたが、此処も気づかなかったことにした。
誓いのkissは、ありません、ノータッチ主義のユグドラシルなので、こういう時くらいは特別に許可が出ても良いと思われたが、運営は運営であった。
ちなみに、アルべドの薬指にはリングオブアインズウールゴウンが代用で嵌められた。
ちょっとばかし尋常でないくらい緊張したモモンガだったが、何処か嬉しそうに薬指を撫でるまどかの姿に胸が暖かくなるのを感じるのだった。
「まぁ、こういうのも最後には悪くないか」
ひとりごちると、ぴぴぴと何かを操作しているまどか
「あ、子供設定してました。」
「えー、子供ですか、細かい設定を考える時間無いですからランダムですよ?」
「えへへ、良いですよ、子供はかすがいですから、自由に生まれる感じで」
ちなみに、子供NPCは設定から誕生までユグドラシル基準時間で半年程かかる、現実時間で言うと一週間ほどだ。
最終日である以上、生まれる前に世界が終わる、意味は無い、意味は無いけれど
「……見てみたかったな、俺達の子供」
「そうですね……」
そういう二人だが、ふと、ヘロヘロの反応が薄い事に気づく
「ヘロヘロ、さん?」
見るとヘロヘロの姿が薄れていた、淡い光がその全身を包み、明々し、そしてピシリとその体に罅が入る。
「し、あ、わ、せ、に、ね」
途切れ途切れに弱弱しくヘロヘロが言葉を紡ぐ
「ヘロヘロさん!」
光を伴い徐々に崩壊していくヘロヘロの体
声を荒げるまどかをモモンガが止める
「でも、ヘロヘロさんが」
「……まどかさん、ヘロヘロさんを、もう休ませてあげよう」
そう、それは―――
―――ヘロヘロさん自作の寝落ち専用エフェクト、別名『
遂にヘロヘロの睡眠欲求は限界を超えたのだ、基本ユグドラシルではシステム的な安全機構により寝落ちと同時に自動でログアウトされる、そこにそれ専用の寝落ちした事が判るエフェクトを組む人は一定数おり、ヘロヘロはその一人だった。
えらく感動的で神々しくも悲しげなエフェクトで仲間内でも結構な人気を誇っていた。ギルメンの何人かはこのエフェクトでよく寝落ちしたものだったが……。
前後不覚の寝落ちの瞬間に、空気を読んだのか渾身のロールプレイで寝落ちする当たり、彼もまた筋金入りのロールプレイヤーだった。
まどかは焦った、此処まで来てヘロヘロさんが脱落してしまう事に、同時に諦観もあった、今までアインズウールゴウンのメンバーが残ってくれる様に、幾つもの予防線を用意したがそのどれもが、正しく機能しなかったからだ。
細かな流れに変化はあっても、おおすじの流れはどうしても変わらない、あたかも定められた運命である様に、それは物語の修正力というべきものだったのかもしれない。
そして、同時にこの事実は此処からもう一つの可能性を示す、大きな流れの中で
もっとも、実行可能な準備は手を尽くして用意したのだ。彼女に出来る事はもうなく、後の全ては運を天に任せるしかない。
微かな不安を胸に、消えゆくヘロヘロを見送る二人。
結局モモンガとまどかは最後は二人に戻った。悲しくもあるが、モモンガとしてはデスマの疲労を抱えながらも力尽きて寝落ちするまで頑張ってくれた事に感謝もしていた。他の仲間達だって全員では無かったけれど、多くのものが顔を出してくれた。それに少なくとも、最後は一人ではないのだ、それ以上を望むのはきっと贅沢だろうと思えた。一人では無いというだけで余裕があった。
とりあえず、二人で示し合わせた様にアイコンを出す。
( ノД`)シクシク…
( ノД`)シクシク…
「まどかさん、一緒に居てくれてありがとうございます。」
「モモンガさんはさびしんぼですから、この世のが終わるまで一緒に居ますよ。」
―――こうして二人は
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かくて世界は変転する。
結婚システム※1:むろん捏造である。
ふぃー、力技だけど何とか転移させたったぜ。