/INまどっち
パチリと目が覚めた。
……ううん、目覚めたというのは少し変、眠っていたというよりも意識が戻ったという感じで。
考えて見て欲しい、そういう人もいるだろうけれど、目を開けたまま座ってまま寝るというのはやっぱり何か変だと思うでしょ?
殺風景な白い部屋にシンプルなテーブルが見える。
この実利一辺倒な場所は私が利用した閲覧室の光景だ。
それらを視界に収めながら、前後の記憶の断絶しているその事実に混乱する。
そして、戸惑いながらも、ゆっくりと記憶の糸を手繰り寄せる。
私は、此処にユグドラシルの真相を知るために来て、そして……非現実を見た。
思わず部屋を見回したけれど、確かに見た筈のその奇怪な姿は何処にも無い。
幻覚を見たのだろうか、恐ろしく生々しい質感を思い出すと、どうにもそれが信じられない。
……そう、あれはユグドラシルで時に第三位階魔法で召喚され、時に悪の領域に自然発生する悪魔だった。
現実に存在する筈が無い生き物、
ユグドラシルでは30レベル程度のモンスターで
5位階以下の魔法なので基本ユグドラシル後期の高レベルプレイヤーには通用しなくなる魔法ではあるけれど初期頃のイベントやPK等で猛威を振るった魔法でもある。
転移後ならいざ知らず、現実であの悪魔に出会う事になるとは想像の埒外。
ゲームにのめり込み過ぎた私の妄想や幻覚と断言するには少しばかり首を傾げる。
流石にマイナーなモンスター過ぎるのだ、もし妄想なら、もっと記憶に残るエネミーが出るんじゃないかと思う。
総括して考えると、恐らく私はユグドラシルの運営にとって触れて欲しくない所に触れかけていたのだろう。
秘密は守られてこそ意味があるのだから、だからこそ私もセキュリティの高い場所から細心の注意を払ったつもりだったのに、それらがまったく意味をなさない
悪魔の性質から考えて、変わりに何か記憶が欠落している可能性は高いかもしれない。
ふと、視線を落とす、手元に確かに持って居た筈の資料は跡形もなく消え去っていた。
在った筈のモノが無いと言う事が逆説的に、あれが実際に在った事なのだと……。
胸元に手を添えて、持ち込んでいた御守りをせわしなく撫でて気持ちを落ち着けようと努力する。
大丈夫、ゲームなら30レベルの悪魔など脅威にならないかもしれないが、私たち現代人にとっては成す術のない存在で、もし戦うなら軍隊が必要になる
そんなものを持ち出した相手がその気なら、私は殺されていても可笑しくなくて、記憶をまっさらにされていても可笑しくなかった。
もしかしたら、背後関係を洗うために泳がされているのかもしれないと思いもするけれど、私に背後等ない。
探られて困る事は無いけれど、代わりに庇護者も居ない、証拠は消え、記憶は何が消えたのかも分からない、無い々い尽くしの事実が心もとなくて泣けてくる。
敗北感や危機感、誰かに見られているような強迫観念に駆られながら足早に施設を後にする。
もう一度、御守りを握りしめる、幼い頃に父母から貰った変哲の無い御守りだけれど、それでも仄かに暖かい気がして、少しだけ私の心を慰めてくれた。
/それからそれから
そんな事があってからそれなりに時間が流れました。
あれから特に何もありません、窓に何か居たりとか身辺に不審人物が……と言う事も無かったり。
しばらく、ピリピリしていた所為でモモンガさんに
「……あの、もしかして、まどかさんの気に障る事、何かやってしましましたかね」
「え!?いえいえ!!何もモンガさんは悪くないんです、ちょっと私生活で心配事があって」
「やっぱり、副ギルド長の件……。」
「ちがいます!それはむしろ嬉しい事ですから!」
「本当に?」(;w;)
「本当ですぅ!」Σ(=□=)
「なら今日からまどかさんは副ギルド長ですね。」
「ふぁっ!?」
とか言われたくらいです。
シリアスに悩んでたのに何もないとかなんだか肩透かしです。
いえ、何もない方が良いんですけれどね……でも何もないと、あれが現実だったのか自信がなくなっていくのです。
もう一度、調査をするのは流石に怖いです、回数を重ねれば何か他に情報がはいるかもしれませんが同時に危険度も幾何級数的に拡大していく訳で正直、良手とは言えないでしょう、エージェントを雇う時、最初から一度だけだと決めていました。
深みにはまって良い事は無いでしょう、多分、
そんなこんなでユグドラシルの日々は過ぎていきます。
背後から迫るリアルの不安はともあれ、いまは目の前の事に頭を悩ませましょう。
現実逃避です、いつもの事ですね、ごめんなさい。
ともあれ将来的な転移に向けて、準備は考える程、後から後から必要な物が出て来ます。
生産拠点としてセフィロトの複数のエリア改装準備です。
まずスクロールの補給を確保する為に
このモンスター課金でしか入手できませんが、
ポーション作成の為の下位から上位薬草園設置(課金)
直接ポーションを自動生産してくれるポーション工房という施設もあるのですが、そちらはただの課金ではなく課金ガチャで当てるものなので、こちらは未入手、何か物欲センサーの感度が高いみたいです。
中には複数種の薬草を定期的に生産するモンスター(課金)の入手とか、生産力、防衛力を上げるために各種成長可能な傭兵モンスターのレベリングに装備のグレードアップとか、さらに課金モンスターの設定可能なフリーワードはとりあえず、私やモモンガさんに好意的なもので埋めておく。
ワールドアイテムに代表されるようなレアアイテムの探索は情報が入らないので遅々として進みません。
とりあえず、ウロボロスは入手方法は取得できているのでタイミングが合えば虎視眈々といつも狙っています。
データクリスタルは収集がいつまでも終わりません、臨機応変に対応する為に出来れば備蓄して置きたいのですが、使い道が多すぎるし高位のレア物程、必要量も希少性も凄い事になってるし、
一応、自作でないなら、あてはありますが、欲しいものが手に入るかはその時になって見ないと判りませんね。
そういえば、データクリスタルといえば、レベル限界突破に必要なクリスタルですが、ある程度法則性がある様で、同種のクリスタルを消費するよりも多種類のものを使用する方が限界解除の効率は良い様でした。
モモンガさんの場合と私の場合でそれぞれ検証してみた所、同種のクリスタルを10消費した場合よりも上りが良いとの事です。
データを細かく残していたモモンガさんに脱帽です、さすモモです、モモンガさん。
まぁ、検証の対象が私達だけなので、どうなるか分かりませんので、許可をもらってこの情報をギルド内だけの部外秘という対価でワールドサーチャーズさんに流した所、賢者さんが出張してこられまして、彼とメンバーさんの監修の下に細かい検証と数値計算を逆算した情報が手に入りました。
こちらの対価は情報を渡す事であちらはその情報を手に入れられる、ですね、ウィンウィンです。
やる事はレア物の収集だけではありません。
個人的に友誼を結んだフレンドさん達との交流も重要です。
転移後に誰が転移してくるかも分かりません、法則性を検証するにもモモンガさんの場合しか情報が無いのですから比較しようがなくわかりませんし、無駄に終わる可能性もありますが。
例えゲームの間だけでも友好的な相手がいると色々助かります。この手の草の根活動でAOGは実はそんなに非道なギルドじゃないと広まってくれれば、ゲーム内も楽になりますしね。
人間性的に、これはという人にはモモンガさんを紹介したりもします。
ギルドメンバーに物凄い執着心を持ってるモモンガさんですが、今はアンデッドではなく普通の人間なので新しい人間関係を築くことで、心の慰めにもなると良いと思っています。
他にも、いまは反応が無いNPC達の好感度も稼ぐために積極的に話しましょう。
各NPCの造物主の皆さんを褒めたり、私の知っているカッコいいエピソードを少し盛りつつ話したり。
アインズウールゴウン設立の理由とか最初の理念、PKされている人を助けるためのPKKや、弱い頃の苦労話もします。
最初から強く設定されているNPCはどうも弱者に厳しかったですからね、私達の苦労話を知っているなら、少しは、ですねマシになるかなと思いまして。
人間種と敵対しているというよりは敵対してくる相手が主に人間種で、此方はPK以外を積極的に襲ってないし、襲う気も無いとか。
え?ぷにっとさん?……ええと、あの人は軍師とか政治家とかそういう人なので、バレなければ攻撃でも襲撃でもないって本人も言ってました。
もしも、転移が起きなかった場合とかの用意もします。
その時は、モモンガさんやヘロヘロさんをなんとかブラック企業から私の所に引き抜けないかなとですね。
そんな余裕があるかと言われると、無い事もありません、ユグドラシルが爆発的な人気を誇るのは判って居たので、こっそり、株を買ったりしていたのです、あの頃は子供でしたが、それでも買えた辺り、裕福層でよかったと思う瞬間です。
他のメンバーも所在が分かっている方には声をかけようと思っています。
これはただのボランティアという訳では無く、なんだかんだで皆さん至高の41人と言われるだけあって、それぞれ何らかの分野のエキスパート、しかもすこぶる有能、正直ブラックな企業で使い潰すとか在り得ない人材。
ウルベルトさんは底辺出身の低学歴だと言っていましたが、その頭の回転もしくは狡猾さは正に悪魔の如しでした。ブラック業務に対応するために複数の思考を同時進行で処理できるようになってしまったとか、独学で思考のマルチタスクを習得するとかオカシイと思います。
たっちみーさんは小説の様な身体能力と実行力の持ち主で、実際に悪の秘密結社的な所からおんなのこをすくいだしてそのままお嫁さんにしたりしてたみたいですし。
ぷにっと萌えさんの合理性と作戦立案能力は正に軍師でした。
ヘロヘロさんはブラック企業のプログラマーを事実上一人で支える凄腕で
モモンガさんは、不測の事態にたいしての臨機応変の
ペロさんは変態さん力が凄かったですね。
皆さん、ただならない人達ばかりだったので、集められたら
…
……
…………判っている、それが単なる希望でしかないと。
現実はもっと複雑で、ギルドメンバー41人の中にはもう会えない方も多い事も、でも、いずれ来るユグドラシル最終日、転移が叶わなければ、否応も無く現実と戦わなければならないのだから、今くらいは、都合の良い希望を夢を見るくらいは許されると思いたいです。
そんな準備とモモンガさんとの冒険の日々を積み重ねて、時間はあっという間に過ぎ去っていきました。
そんな中にも異変は所々にありました、ゲームのフレンドが何の連絡もなくログインしなくなるという形で
引退する際に誰にも言わずに姿を消す人は少なくありませんが、それでも、気にしてみるとそれは結構な数にのぼります。
その中には、リアルが忙しくなると休止する時には必ず挨拶をしてくれるような律儀な方もおり、その事実に何者かの手(おそらくは運営に関わる)が、ひっそりとこのユグドラシルの中で伸びている事を想像せずにはいられませんでした。
そうしている内に、ユグドラシル開始から実に11年目のある日、一年後のサービス終了が告知されたのです。
・今作におけるモンスター、NPC分類。
/召喚モンスター:魔法、スキル、アイテム、超位魔法で一定時間呼ばれたり創造される連中、スキルやクラス構成は召喚した種別『
/傭兵モンスター、NPC:ゲーム内通貨であるユグドラシル金貨で召喚したり雇える連中、目玉が飛び出る位大枚使わないとユグドラシル的に強いのは雇えない、蘇生不可、長期雇用可、外装はランダム作成。
/課金モンスター:金貨や経験値の代わりにリアルマネーを代償に
/拠点NPC:拠点ポイントを消費して作成する連中、1~100レベルまで自由自在、クラスやスキル構成を自由に設定できるがその内容豊富さは、汎用クラス以外はギルドメンバーの習得クラスとスキルに影響を受ける。死亡してもユグドラシル金貨で蘇生可能、レベルダウンのペナルティを受けない。1レベルでもレベルアップはしない。基本的に拠点防衛用なので拠点外には出られない。外装はお好きにどうぞ。