オバロ☆マギカ   作:神坂真之介
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2、それはとっても楽しい思い出

私がモモンガさんに出会ったのはユグドラシルを初めて3ヶ月位の頃の事だ。

興味本位で始めたゲームだったけれど、少し考えてみて、記憶の作品の人達と会えるとはあまり思えなかった。

まず、サービス開始時期は物凄く人が多くて、黎明期には100万人が一度にログインしていたというのだ。

その中から、異形種だから目立つとはいえ、モモンガさんとかウルベルトさんとかたっちみーさんを探すとか普通に無理。

 

まず、どのサーバーに入るか分からない、ゲームを始めた時期もわからない。どのワールドをメインにしてるかもわからないとなると、狙って探すのは難しいなんてものじゃないと判ってもらえると思う。

ナインズオウルゴールが結成されるか、アインズウールゴウンが有名になってからじゃないと頑張って探しても、かすりもしない、普通に考えても、難しく考えても。

一応、ナザリック大墳墓の位置はヘルヘイムで、その中のグレンベラ沼地と言う所にあるそうなのだけど、ユグドラシルは全てが手探り

ワールドマップだって9分9割が未知の領域なので固有名詞は判っても、そのグレンベラ沼地がいまだ見つかって無い、ほとんど何もわからないのと変わらない、追々調査しよう、そう心の棚の上に置いた。

 

なので、いずれ何年か後にと思いながらレベルを上げたり、異形種の人と交流したりしながら過ごして居た所で彼と出会ったのだ。

当時の私は初期クラスである信仰系魔力詠唱者のクラスのレベルが14を超えて第三位階まで習得できたので、サブクラスとしてのアーチャーを取得するためにNPCからお使いクエストを受けて居た。

必要な採取アイテムと討伐対象のモンスターを探しに町の外に出た私だったけれど、その時期はレベル上げ中のプレイヤーが近隣にひしめいており、対象のモンスターも採取場所も近場は大抵占有されていた。

なかなか、見つからないと探して気が付けばかなりの遠くの森の中にまで来ていた私は、一人で魔法の練習をしている異形種の魔法使いに遭遇したのだ。

最初はポップしたスケルトン系モンスターかと思い、とっさに近くの草むらに隠れたのだけれど、何かドイツ語で魔法を使ったり、ポーズをきめたりしているのを見て、あ、この人プレイヤーだ。と、気が付いた。

 

そして、モモンガさんの名前を確認して思わず二度見した。

 

それは千載一遇のチャンスだった、原作通りに進むならユグドラシルの最終日、ナザリック大墳墓は異世界に丸ごと転移する事が分かっている。

逆を言うと他のプレイヤー達の転移したシチュエーションは不明瞭なまま判って居ない。

ミノタウロスの賢者、六大神、十三英雄のリーダー、八欲王、ゴブリンの王様。

プレイヤーの痕跡は数あれど、彼らがいつどの時点でユグドラシルから転移したのかは原作では明記されていないのだから当然だった。

モモンガさんと同じく、ユグドラシルの最終日だったのかもしれないし、まったく別の時だったのかもしれないのだ。

十三英雄のリーダーは最初、異世界の人々から見てもとても弱かったそうだ、それはもしかするとユグドラシルを初めて直ぐに転移した可能性を表している。

六大神はあれど、十位階の魔法については八欲王のワールドアイテムが情報源らしいので、六大神は8位階以上の魔法を使えなかった可能性もあり、それも、彼らが100レベルに到達できていなかった可能性を示唆している。

六大神に魔法使いが居なかった可能性もあるし、十三英雄のリーダーは育成途中のや観賞用のセカンドキャラでログイン中だった可能性もうあるけれど、最終日にユグドラシルにログインしていたからと言って、転移するとは限らないのだ。

 

此処でモモンガさんと友誼を結び、41人の一人、または42人目に入る事が出来れば、異世界転移へのフラグを一つ立てられるだろう。

ダメなときは最終日にナザリックを攻略に行くという強硬策もあるけれど、下手すると転移直後に殺されるか、生き延びてもNPCの好感度がとても低い上に、アルべドさんの暗躍を見ると、何かあると暗殺されそうなのでそれは避けたかった。

 

そんな打算を考えていたのが悪かったのか良かったのか、気づけばモモンガさんに神聖系魔法の光が炸裂し、続いて3,4本の矢が刺さり、倒れ伏した所であれよあれよと現れた複数のプレイヤーに取り囲まれていた。

彼等は現在のユグドラシルから見て、一線級の装備である遺産(レガシー)級の装備に包み、対するモモンガさんは初期装備のローブと魔法の杖のままだ。

あんまりと言えばあんまりの、あっと言う間の出来事に私は思考が停止し言葉を失った。それは噂には聞いていた、昨今のユグドラシルに流行るPK、異形種狩りの情景である。

 

何時からこの世紀末極まりないモラルの低い行いが始まったのかは正確には判らない。

ただ、本当の最初の頃のユグドラシルはまだ異形種への風当たりはそんなに酷くなかったと思う。

異形種のクラスが他の優良職業クラスを習得できない問題が表面化するのは攻略サイトの検証がある程度進むまでの話だったし、当時はまだ、異形種は強クラスと言われていた。

日本人はこんな世の中でもまだ和を重んじる人種だったし、プレイヤーにちょっとモラルの低い人が出てくるのがDMMOの常とは言え、いずれ不遇職と言う認識が広がるにしても、それが異形種迫害にすぐに繋がる訳でもない。

 

ただ、最初期に居た異形種プレイヤーに非常に困ったプレイヤーが数人おり、それが目についた覚えがある

そして、そのプレイヤーは黎明期のゲームにありがちなルールの隙をついて好き勝手に振る舞っていたのだ。

某掲示板にも何度も上がった名前だったが、散々暴れまわった後、彼等は異形種迫害が始まる少し前からぱたりとその姿を消していた。

 

私はそれらの流れ自体が、彼もしくは彼等の作った作戦だったのではないかと今では思っている。

異形種プレイヤーの多くは何方かと言うと善良か中庸なプレイヤーの方が多い

それでも、声が大きい人物がまるで代表であるかのように目立つのが世の常だ、彼等はそうやって異形種プレイヤー=悪というイメージを作ったのでは無いだろうか。

そして、散々育てた悪のイメージ後に、人間種としてキャラクターを作り直して、今は異形種迫害を煽っているのではないか。

穿ち過ぎかも知れないが、異形種迫害初動の裏に何がしか明確な方向性をもった悪意が見える気がしてならないのだ。

 

倒れ無力なモモンガさんに悪罵と嘲笑が飛び、蘇生エフェクトが奔る度に過剰過ぎるオーバーキルが降り注ぐ

死体にムチ打つその様子は、はっきり言って見るに堪えない、人間の醜さをまざまざと見せつけて来る。その時点で私は隠れるのを辞めた。

正直私はもっと自分が理性的な人間だと思っていた。目の前の出来事は物語で存在する予定調和の部分である。

 

知って居る展開なのだ、此処でモモンガさんは後のアインズウールゴウンの仲間となる、たっちみーさんに出会い救われる、ゲームプレイヤーとしてそして一人の人間としても。

そう、私が出なくても彼には救いの手が来るのだ、そんな事を知っていたはずなのに、その時の私はすっかり頭の中からそんな事前情報は抜け落ちていた。

 

勢い込んでモモンガさんとPKプレイヤーの間に立ち塞がった私は

あっと言う間にHPを0にされてモモンガさんと仲良く同じ地面に倒れ伏した。

ええ、初めてやっと第三位階に到達したばかりの私が、それなりに歴戦のプレイヤーに勝てるわけないですよね。

 

その後、颯爽と現れた純銀の騎士、たっちみーさんにかっこ良く助けられた私はちょっとカッコ悪い。

 

「な、何故、見も知らない俺を?」

 

「誰かが困って居たら「助けるのが当たり前です!」」

 

……当時は、オマージュ的に考えて、割とカッコいいつもりだったんですが。

カッコいいポーズをとる、たっちみーさんと同じ言葉を倒れたまま言う私、後から思い返すと、やっぱりカッコ悪いですね。

 

 

 

この出来事をきっかけにして、私は二人と交友関係を持ったのでした。

後に結成されたナインズオウンゴールにこそ参加は出来ませんでしたが、身内の端っこ位には思って貰えていたのか、クエストとかは一緒に行かせてもらいました。

 

その後幾度かのアップデートで昇天の羽を入手して何時でも天使に種族変更可能になりましたが当時十代で未成年だった私はギルド参加条件の年齢制限に引っかかり保留。

ただ、新しいギルドメンバーの方には紹介して貰えましたし、女性メンバーの三人の妹分としてちょこちょこ可愛がってもらったように思います。

 

アインズウールゴウン結成後も幾度か重要で無いクエストや催しには誘って貰えました。

その頃になると彼等は結構な頻度で連絡が取れなくなるので月に数える位の回数しか誘って貰えませんでしたが。

これは当時のユグドラシル的には当然だったのでしょう、情報戦がゲーム内で現実的に行われていたので、重要な事に外部の人は入れられなかったのだと思います。

何処でぽろっと漏らしちゃうか分からないし、私も漏らさない自信ないですから。

 

なので、その間は私は私なりに、ワールドサーチャーズさんの所に行ったり他のプレイヤーの皆さんと交友を深めたりレベルを上げたり、謎に挑んだりして過ごしました。

私は未成年だったので、他の人よりもゲーム時間だけなら長かったのではないでしょうか、楽しい事も楽しく無い事も辛い事もありましたが、それも良い経験だったと思います。

 

アインズウールゴウンに正式に加入出来たのはそんな事を続けて大体数年後の事。

教育課程を終えて、コネとは言え就職した事をモモンガさんに報告するとその場で勧誘を受けました。

申請のYES/NOのyesを選ぶ時は現実の体の指先が震えました。

 

加入と同時に、どこに潜んでいたのか、在住AOGメンバーの皆が表れて盛大にBGMと魔法で歓迎してくれたのはとても驚いて嬉しかったけれど。

でも、ウルベルトさんのアーマゲドン・イビルとるし☆ふぁーさんのレメゲドンのゴーレムでの内輪戦争はやり過ぎだったんじゃ……と、今でも思う。

ナザリックの内装とNPCの修復に少なくない費用が……と、モモンガさんの背中が煤けていましたし。

 

ほんの数年前の出来事、とても楽しい思い出でした。




むぎゃおー☆(悶えているようです)







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