オバロ☆マギカ   作:神坂真之介
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1、プロローグ/生まれる前に見たような?

私には生まれた時からとある世界達の変な記憶がある、簡単に言うとアニメっぽい記憶だ。

その一つは何処までも冷たいエントロピーの物理法則と夢と希望と言う名の幻想の魔法がせめぎ合うおかしな世界の記憶。

一人の少女の記憶、どうしようもない絶望を、希望に変えようと命を賭して宇宙の法則すら変えてしまった少女の記録。

まぁ、結局は一番の友達の娘に否定されちゃうのだけど、過去現在未来、並行世界に遍在する彼女にとってそれは既知の事である筈で、なら知っていて、受容したのだろうと思う。

 

私は記憶の中の彼女『鹿目まどか』が割と好きだった。

そんな私の名前もまどかだ、親近感も増すというものだろう。

 

アニメっぽい記憶と言ったのには、それなりに訳がある、それ程、深い意味ではないけれど。

物心が付き、年齢も十を超え周囲の世界に触れる事が出来るころ、私は自宅のPCに触れて調べてみた事がある。

簡単に言うと、この記憶が物心つく前に見たテレビのものなのではないかと思ったからだ。

結果は、そんなアニメは140年遡っても存在しなかった、単純に記録から消えてしまっただけかもしれないけれど

代わりと言っては何だけれど、興味深いとあるゲームが確認できた。

 

DMMORPGユグドラシル

そう、私の記憶の中にはそれに関する記憶もまた在ったのだ。

それはダークファンタジーに分類される書籍作品『オーバーロード』その中で登場する物語の核をなすゲーム。

主人公モモンガはゲームユグドラシルの終了日に己のギルドとNPC達とともに異世界に謎の転移を遂げ、異世界を蹂躙していく物語

凄く酷い話の筈なのだけど、モモンガさんは酷薄ではあっても義理堅く、何気に人情深くて、NPC達も極悪だけど、身内や主であるモモンガさんの為に頑張っていて、悪い話なのになんだか応援したくなる不思議なお話。

ちなみに、元ネタがそれなゲームなのかと思ったが、こちらも書籍としては存在していなかった。

 

私の記憶の中に無数に存在する幾つもの物語と、現実に存在するユグドラシル、それが何を意味するのかと考えながら私は視線をPCから逸らした。

 

外を見れば、硬化ガラスの向こう側に淀んだ暗い空が見える。

私の記憶のどれとも違うけれど、私が生まれてから一度として変わらない、汚染された空だ。

全てが先行きの見えない、ううん、見えている行き止まりに向かっていることを暗示する様な光景だと思う。

 

オーバーロードの世界が緩慢な滅びの世界であった様に私が生きる世界も同様の流れを見せている。

私は幸か不幸かモモンガさんの中の人、鈴木悟の様に天涯孤独では無く、上流家庭に生まれたので教育も生活水準もとても高いけれど、高いからこそ、この世界に後が無い事が良くわかる。

今後、私が勉強を重ねて、今の世界をより良くしようとしても、きっと、何もかもが間に合わないだろう。

そもそも、私はおかしな記憶を多く持って居るけれど、そこまで優れた人間ではない、世界を救えると思うほど自意識過剰でもない。

魔法が存在するなら、と思いもするが、鹿目まどかの居た世界の様にこの世界に魔法が存在するかは謎だ。少なくとも私は見た事は無い。

 

そんな事を思いながらも勉学に励み知識を収集したり、技術学部に進学したのはそれでも何とかしたいと思っていたからなのだと思う。

現状を知れば知るほど、私は自身の無力を感じる羽目になったのだけれど

現在、私がユグドラシルを知ってから10年の歳月が流れている、当時は10歳だった私も、もう20歳だった。

 

勤務時間は既に終了している、体調は悪くない、スッキリしないのは心だけだが、そもそもどうしようもない事なのだから仕方ないと、言い訳をして私は気分を変える事にした。

所謂現実逃避というものだ、思うに、この世界の人間の多くが、この病に侵されているのだと思う、そうでもしないとやって居られないのだろう。

ユグドラシルのノーマナーのプレイヤーもそう言ったストレスの結果ああなってしまったのかもしれない、それはとても悲しい事なのだろう。

 

接続機器を繋げて電源をスイッチ、そしてゲームを起動する。

現実逃避をしよう、せめて幻想の中ぐらいはそれは許されるのだと思いたい。

 

 

 

私が現実逃避に使ったゲームはユグドラシルだった。それを選んだ強いて言う理由は無い、あえて言うなら一番興味があったゲームだったからだったけれど。

改めて考えてみると、私の記憶、前世とかそう言うものなのかもしれない記憶にある、オーバーロードの世界と

この歴史が正しく同じ道を歩むなら最終日にログインしていたプレイヤーは異世界に転移するという事になる筈だ。

そこは魔法がある世界だ、とても人間に厳しくて、原始の荒々しい弱肉強食の生命活動が行われる世界だけれど

この世界よりは余程、自由と平穏に満ちている。少なくとも、全ての生き物が死に絶えるよりも遥かに良い。

それは、希望を見出すには十分で、私はあの世界へ行く事を夢見て居るのかもしれない。

全ては私の妄想でしかないかもしれないのに。

 

光とともにログインした私はスタート地点に設定した拠点の豪奢な自室を見回し、そして自分のアバターを眺めた。

清らかさをイメージした白いドレスから温かみを感じさせる白魚の様な手が伸びて指先と手の平に視線が映る

現実的にはちょっとあり得ないピンク色の長い髪から変則的なツインテールが結ばれて後ろ髪が背後に流れ、背中には三対六枚の翼が生えている。

そう、翼、それが私が所持する異形種の一つ、天使の種族特徴といえるだろう。

高位の天使に昇格するほど天使は異形めいた姿になっていくので本来の私のアバターは百の翼の塊と言った外見なのだけど、アバターに手を加えた結果、翼の生えた人間の少女とでもいうべき姿を私は維持している。

 

大人と少女の境目、十代後半以上、二十代前半以下をイメージしたアバターは

私の記憶にあるもっとも好んだ少女、『鹿目まどか』の女神状態を再現したものだ。

そのビルドも記憶にある能力を再現する形で癒しと救済の女神をイメージしてビルドされている。

その為、祈祷系魔法詠唱者の支援職と魔法少女風の魔力系詠唱者の職、弓使い職とごった煮クラス構成だ、一応リビルドを繰り返してシェイプして居るけれど、その職業編成は浪漫ビルドも良い所、その性能は純粋な戦闘職には数段劣る。だけど私は満足している。

足りない部分はプレイヤースキルで補う形、教師についてくれた方々が所謂廃神と呼ばれるちょっと超人的すぎるガチの人達だったので、遠中近距離のどの間合いでも中の中位の腕前はあると思う、PVPの勝率は4:6で負け越してるけれど、本質はパーティプレイでの支援だからそのあたりで頑張って総合力で中の中の端っこにぎりぎり引っかかる感じにはなれると思う。たぶん、きっと、そのはず。

 

再確認するようにそんな事を考えながら部屋を後にする、転移アイテムがあるので何処でも一瞬に移動できるのだけれど、自分の足で歩くというイメージが私は好きなので、徒歩で移動する。

元の世界は移動するだけでも重装備になったり専用の乗り物が必要になる事も少なくないので、歩くというのは結構少ないのだ。

もちろん、部屋の中とかなら装備なんかいらないのだけど、狭いし。

 

通路の途上でNPCのメイドさんとすれ違う、一旦、足を止めて壁際によってお辞儀をしてくる。細かな動作に、手を振って笑顔でご苦労様と応える。

NPCなので意味は無いのだけど、こういうロールプレイは嫌いじゃないし、もしも、転移が起きたのならこういう行動も意味がありそうな気がするからだ。

ただ少しだけ寂しくなる、どんなに隆盛を誇ったゲームでも長く続けば、衰退している。

プレイヤーの減少は当然起きる出来事な訳で、私はその未来を知っていたし、誰でもこうなる事は予想できた。

それでも親しくなったゲームの友達が姿を見せなくなったり、引退して行った事を思い出すと、どうしても寂寥感を感じるのだ。

主人公の彼もこんな気持ちだったのだろうか、家族の居ない天涯孤独の彼なら私よりもその気持ちはずっと重いのかもしれない。

 

とことこと歩いて目的地に辿りつく、フレンドリストで確認した所、ログイン中なので多分此処に居るだろうと辺りを付けてやって来た場所だ。

 

 

―――モモンガさん、いるかなぁ?

 

 

 

 




とりあえず、初投稿?
恥をかきに来たぜ!!







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