漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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7章 王国 七罪 ─Jaldabaoth─
7章 王国 七罪 ─Jaldabaoth─ 1


「なんだぁ──ありゃあ──」

 

 いつもと同じ天気。いつもと同じ早朝。いつものようにいつもの如く、リ・エスティーゼ王国の冒険者たちは冒険者ギルドへと足を運んでいた。

だが、気付く。いつもとは違う雰囲気が城下街を覆っていたことに。

早朝。そう。それは誰もが忙しそうにすれ違うはずの時間。だというのに皆が一堂に足を止めて、門の方へと視線を送っている。

 

「あの馬車についてる紋章──バハルス帝国の皇帝の奴じゃねえのか?」

「あっちのは多分、竜王国だぜ──」

 

 幾つもの色とりどりの豪奢な馬車が門を潜っていく。しかもその一つ一つについている紋章も同じものがない。見る人が見れば、各国を代表する馬車であることが分かったであろう。しかしそれを知る者は、今この場には多くはなかった。

 だが各国の紋章を付けた、見たこともないほど巨大な馬車が悠々と中央通りを通っていくという異様な姿は只事ではないと王国国民に知らしめるには十分すぎるのであった。

 

 

 

 

 

「陛下、早朝失礼します。バハルス帝国より皇帝ジルニクス・ルーン・ファーロード・エル=ニクス様、及び帝国主席宮廷魔導士フールーダ・パラダイン様。並びに帝国四騎士の方々が。スレイン法国より闇の神官長マクシミリアン・オライオ・ラギエ様、及び漆黒聖典番外次席絶死絶命様。続きまして竜王国より──」

 

 一体何があったというのか。我が国に巣食う阿呆どもを駆逐し、我が娘ラナーに王位を継がせなければならぬと身を粉にして動いているというのに。この重鎮共は一体何をしに来たというのか。

 そう半ば現実逃避しながら頭を抱えるも、理由は分かっている。とても簡単な理由だ。あのアンデッドを貴族にした我が国を笑いに来たのだろう。そしてアンデッドを貴族とする我が国を包囲するのが目的か。やはりあれを貴族としたのは間違いではなかったのか。しかし我が国に残された道は決して多くはなかった。私の最も信頼する男ガゼフですら一目置く存在なのだ。慧眼に長けるラナーも、奴の存在に圧倒されて服従する道を選んでいる。

 

「私は──」

 

 間違って居たのだろうか。間違っていたとしたらどこから間違って居たのか。その手がかりすら掴めていない。

 まるで歌の様に重鎮の名を列挙していく兵を見ながらそっと呟く。まだ終わらぬ。まだ続く。一体どれだけの重鎮がこの国を訪れているのか。それだけ奴が各国から注目されている証左なのだろう。

 

「大丈夫ですわ、お父様。それに、面白い方へと転がりそうなのですよ」

 

 隣に立つ我が娘がそっと私の手に手を重ねて来る。柔らかくひやりとした感触と共に笑顔を向けて来る我が娘には、私にはわからぬ未来が見えているのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

「まるで計ったかのように皆同時に来るとはね。ツァー、あんた何かしたのかい」

「それはまさかだよ」

 

 柔らかいソファーに背中を預けながら、友から外へと視線を移す。本来であれば玉座へと直行出来るであろう城の城門前から一向に進む気配がない。それほどにリ・エスティーゼ王国は異常な事態に見舞われていた。何しろ世界中の首脳陣がこの国に訪れているのだ。

 もし良からぬことを考えているものが居たら、その一瞬で世界中を大混乱に陥れることも出来るだろうほどの者たちが。しかし同時に、世界中から最強の存在が一堂に集まったともいえる。例え国を落すほどの力を持つ上位のモンスターたちが一気にこの国を責めたとしても、鼻歌交じりに撃退できる程の力が、だ。

 しかし、何故今日なのか。それが全く理解できなかった。国の距離も、国勢も、何もかも違うというのに。何故皆今日集まったのか。いや、集まってしまったのか。何者かの意図が絡んでいる気がしてならないのだ。

 

「じゃあ、誰が望んだんだい。こんな状況をさ」

「無論、奴さ」

 

 奴とは誰なのか。アインズ・ウール・ゴウンなのか、違うのか。空虚な鎧を睨みつけるも、表情が分かるわけでもない。きっと聞いたところで『今にわかる』などと言ってはぐらかすに違いない。こいつはそういう男なのだ。

 小さくため息を付きながらこの阿呆を見る。見た所で居るわけではないというのに、脳裏に昔の事が浮かんできた。あの楽しかった日々が。

 

「相変わらずこの姿が好きなんだね、君は」

「嫌いなわけがないだろう。ずっと一緒に戦ってきたんだからね」

 

 ふと気づく、無意識のうちに頬が緩んでいた。まだまだ昔を懐かしむような年ではないというのに。だというのに、この阿呆が、ツアーがこの鎧をまた動かしているというということを喜んでいる自分が居ることを認めなくてはいけないのか。

 

「フン──ん?」

 

 どことなく気恥しくなって外に視線を向けた。馬車は進まず窓から見える景色はいつまでも変わらない。そう思って居たが、どうやら違うようだ。

 急に外が騒がしくなっている。神人の小娘が我慢できなくなって暴れだしたのか。などと冗談を考えていたがどうやらそうではないらしい。

 

「そこの。なにがあったんだい」

「こ、これは──英雄リグリット・ベルスー・カウラウ様!」

 

 何事かと馬車の小窓を開けて城へと走っていく兵士の一人を呼び止める。振り向いた時にすぐにわしが誰だか分かったのだろう、仰々しく敬礼をしてくる。

 何とも、わしの事を知っている男だったのか。しかし未だに英雄などと呼ばれているのか。一体『あれ』からどれだけの時がながれているというのか。逆を返すならば、それだけの間に英雄と呼ばれる者が出てこなかったということ。そして、それだけ平和であったということになるのだが。

 

「せっ──国が──」

「もう少し落ち着いて喋んな。ほら、腹に力を入れて!」

 

 兜の隙間から見える顔は明らかに青くなっている。埒が明かないとドアを開けて降り、軽く背中を叩いてやった。予想以上の大きな音が鳴ったせいなのか男はたたらを踏んでしまうが、倒れることは無かった。それなりに身体を鍛えているのだろう。

 

「も、申し訳ありません──聖王国が──ローブル聖王国が──」

 

 

 

 

 

「なに?ローブル聖王国が、我がリ・エスティーゼ王国に宣戦布告だと!?」

 

 あまりに驚きに私は玉座から立ち上がった。あまりの大声であったためか色々と準備で騒がしかった謁見の間が、まるで水を打ったようにしんと静まり返ってしまう。

 青天の霹靂。寝耳に水。などという言葉がある。では嵐吹き荒ぶ中に巨大な嵐が来た場合は何というのか。

 がくりと肩を落とし、大きくため息を付く。国王としてあるまじき姿ではあるが、流石にここまで来ると国王であったとしてもため息の一つでも付きたくなってしまうのは仕方のないことだと言っても誰も責めないのではないだろうか。

 

「は、はい!ローブル聖王国より『アンデッドを貴族に添える国を断じて許すわけにはいかない。我が国はアンデッドであるアインズ・ウール・ゴウン並びに、それを擁するリ・エスティーゼ王国に対して宣戦布告をするものとする。ただし、これは侵略戦争ではない。悪を断ずる聖戦である』という文が送られてきました。同日、ローブル聖王国兵は出立を開始。斥候兵の情報によりますと──現在、アベリオン丘陵を縦断しているとのことです」

「あ、亜人たちは何をしている!奴らは聖王国と敵対しているのではなかったのか!!」

「それが──信じられないことに──」

 

 ──兵の先陣が、その亜人なのです。

 

「なん──だと──」

 

 まるで全身の血の気が引いた気分だ。くらりと視界が揺れて力が抜け、そのまま玉座に座った。

 聖王国は一体どんなトリックを使ったというのか。亜人との抗争は一朝一夕ではどうにもならなかったはずだ。一体誰が、何をしたというのか。

 

「も、申し上げます!現在リ・エスティーゼ王国へと進行中のローブル聖王国の兵の規模は、先陣に亜人20万、後方に聖王国兵15万、さらに後方に聖騎士団と神官団数千に守られた──」

「聖──王女だと──正気なのかっ!?」

 

 新たな兵が謁見の間に入ってくる。新たな情報が。絶望的な情報が。

 ローブル聖王国は我が国と戦う事を聖戦だと言っていた。しかしそれは単なるブラフだと思って居た。しかし、聖王国で最も力を持つとされる聖女カルカ・ベサーレスまで来るとなると話は違う。ローブル聖王国は本気で聖戦だと思って居るという事なのか。

 これは只事ではない。ただの侵略戦争ではないと──聖戦なのだとするならば、そのどちらかが滅ぶまで戦は終わらないことを意味するのだから。

 

「どうしろというのだ──聖戦と謳う相手と戦うなど──」

「王よ、手を出す必要はない」

 

 突如聞こえてきた声に弾かれる様に視線を床から上げる。まるで吸い込まれそうなほどに禍々しい何かが正面に現れていた。一体周囲は何をしていたのか、と思ったが対応できるような事態ではなかったのだ。皆が一堂に驚きと恐怖で硬直していたのだから。

 いや、唯一動けるものが居た。

 

「これは──よくいらっしゃいました、アインズ様」

 

 その禍々しい空間へ向けて最上級のお辞儀で応対する我が娘ラナーだ。

 その声に反応するように、ずるりと、まるでその空間から染み出してくるかのように現れる。一目見ただけで、魂を抜かれてしまいそうなほどの圧倒的な存在が。

 

「あ、アインズ・ウール・ゴウン──伯爵」

 

 一瞬。その一瞬で競り勝った。負けて居れば私は頭を垂れていただろう。『アインズ・ウール・ゴウン様』と言っていただろう。しかし私の中にある国王としての矜持が一瞬だけ持ち応えてくれたのだ。伯爵という敬称があったからというのもあるのかもしれない。

 

「ローブル聖王国は私に用があって来るのだろう。であれば、私が応対するのが筋というものだ」

「し、しかし──アインズ・ウール・ゴウン伯爵、貴殿だけでは──」

 

 聖戦を掲げ、亜人まで集めて侵攻してきているというのに。まるで来客の応対でもするかのように振舞って居る。かの存在にとって何十万という軍勢は来客程度でしかないということなのだろうか。

 

「何も問題はない。折角だ。各国の重鎮達も来ているのだから、余興でも見ていくといいだろうな」

「余興──?」

 

 私の疑問などどこ吹く風か。それが何を意味しているのかを確認する暇もない。奴は指先をこめかみ辺りに当てて、独り言を始めた。いや、あれは恐らく《伝言/メッセージ》なのだろう。

 

「──私だ。セバスよ、今リ・エスティーゼ王国に集まっている重鎮たちに伝えよ」

 

 表情のないアンデッド。だというのに、なぜか私には奴が嗤って居るようにみえた。

 我が娘は奴の事を死の支配者<オーバーロード>であると言って居た。死を支配する者。奴は一体何者なのか。我が息子バルブロが言う様に神という存在なのか。それとも我が息子ザナックが言う様に悪魔という存在なのか。

 どちらにせよ、我が王国の命運は奴の手に委ねられたのは間違いないのだ。

 

「──この私、アインズ・ウール・ゴウンが皆にとても面白い余興をお見せしよう、とな」

 




色々と黒い話も多い初回です。
戦闘が始まれば結構ヒャッハー!してくれることでしょう。
多人数戦闘──上手く書けるかなぁ
構想もプロットもあっても文章化するのは一筋縄ではいかないものです

第二話投稿後より、今章終わりまでの間に再びお題目を募集いたします。
私のお気に入りに加入する一番簡単な方法ですので、限定作品を読みたい方は狙ってみてくださいねっ






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