ゲームにおける敵キャラクターの作り方
はじめに
アクションやRPGゲームの制作において、重要な要素を大きく分けると、マップ、プレイヤー、敵(エネミー)の3種類に分けることが出来ます。
集団でゲームを作るのであれば、作業量の関係上どれか一つを担当することになります。二つ以上を真面目に担当したければ、人間をやめる必要があります。
本稿では、そのうちの一つである「敵」を取り上げ、敵をコンセプトから作る上で、どの様に考えるべきかについて私自身の考えを記載します。
私的意見を含むため、「いいや、この考えのほうが良いのでは」という意見は大いにあると思います。その場合、自身のアイディアの良さはココだ!と考えを深めるのに便利なたたき台としてご利用ください。
※本稿における「敵」はプレイヤーが操作していないNPCを指します。
※サムネイル画像はDarkestDungeonより戦闘画面
敵とは何か
ゲームにおける敵とは「気持ちよい勝利が得られる」のが目的の存在です。
気持ちよくさせるための過程は敵のコンセプトに基づいて、適正に調整する必要はありますが、目指す場所は同じです。
この認識がずれていると、敵を意味のない、ゲームをつまらなくする存在として生み出してしまいます。ユーザーが敵との戦闘を拒み始めたら、敵を考える企画としては失敗です。
敵を倒すことで、気持ちよさが得られるようにデザインしてください。あなたが気持ちよさを感じない敵は、誰の心にも響きません。
気持ちよい勝利がなぜ重要か?
League of Legend より、ユーザーが勝利により、高みを目指す動画
ゲームを作る以上、ターゲットとなるユーザーが求めているニーズには正しく返す必要があります。彼らが敵に求めているものは非常にシンプルです。
それは「闘争」です。
それは「勝利」です。
理由は単純です。勝つことが楽しいのは誰もが知っています。敵に出会えば、その敵が良くできているかはともかく、勝ったら楽しいだろうなとは思うのです。僕がこのことを強く実感した例を紹介します。
先に進む道が二つに分かれています。シチュエーションの都合、片方のルートは危険、片方のルートは安全にしたいです。片方には明らかに強そうな敵を配置することにしました。プレイヤーは危険を避けて、敵のいないルートに行こうと考えるでしょうか?
「敵のいるルートに行きます」
僕が見ていたユーザーの多くは嬉々として危険な敵に向かって走り出しました。仕方がありません。最後の手段です。UIなり、メッセージで彼らに起こる悲劇を暗示し、危険という事実を教えましょう。
彼らは退くでしょうか?
動画は映画 「300」よりプランナーがユーザーに危険を教えるシーン
「退きません、むしろやる気が出ます」
彼らは死んでも勝利の為に蘇る不死の勇者です。敵から逃げるよりも勝利した方が当然楽しいのです。後回しにしたいとは思いません。
この時、過ちを悟りました。面白そうな敵を見つければ、そちらに行くのは当然です。ユーザーは敵を倒して気持ちよくなりたいだけなのですから。
「敵を見つけたら倒したい」
これは良いことです。敵との戦いが面白い or 面白そうに感じるゲームになっている証拠です。敵を見つけても倒したくないと思うようなゲームはシンプルに面白くないです。
「敵を見つけたら倒したい」
ユーザーがアクティブに建てた目標です。プランナーが目的を与えずに、自発的に動いてくれることはとても良いことです。この状況は歓迎すべきです。間違っても、意地悪をして彼らの志を折ってはいけません。この指とまれに誰も集まらないのではゲームは始まりません。
難しいから一回ではクリアできないはアリですが、倒せないを作ってはいけないのです。むしろ彼らがもっと敵に食らいつくように、勝利を気持ちよくする必要があります。
なので、敵を倒すことで気持ちよい勝利が得られるのは大前提となります。
※本ケースでは、今は倒せない敵を撤去し、行かせたいルートには遠目で宝箱が見えるようにしました。
敵は一芸に特化させる

League of Legend よりCharactor Akali
個々のキャラクターに最初に設定すべきは、「一芸」です。一芸に秀でたキャラクターには次のメリットがあります。
・イメージを連想しやすく、遊びを考えるのが容易になります。
・プレイヤーが攻略手段を“発見”により”気づき”やすくなります。
・他の敵との役割被りがなくなります。
複数の芸を持たせると上記と反対のことが発生します。一つで十分です。一つのことを大切に練り上げてください。
キャラの見た目に沿わない一芸を持たせてはいけません。キャラクターを見た際に、一芸の内容が納得できることは不可欠です。
あなたが作りたい敵にどういった一芸を持たせるのが良いかは、作りたい敵の種類に依存します。ザコ敵、強敵、ボスのどれに当てはまるかを明確化していきましょう。
ザコ敵の一芸の持たせ方
ザコ敵は、明らかにプレイヤーキャラクターの能力に比べて劣る存在です。個体ではもちろん弱いですが、彼らは群れを組むことや尖った一芸でプレイヤーに対抗します。たとえ死ぬだけしか能がなくても、彼らの死にはプレイヤーを喜ばせる何かが必要です。
ザコ敵の種類を大きく分けると次の3種類に分かれます。
●プレイヤーの遊びを増やす
●多対一の遊びを作る
●ゲームの緩急(テンポ)を変える
このタイプの敵の比率が高いほどライト層向けのゲームになります。複合も可能ですが、お互いの長所を潰す可能性もあり、主軸がどれなのかは明確にしましょう。
プレイヤーの遊びを増やす
このタイプの敵を作るのが一番うまい企業の代表的なゲーム スーパーマリオオデッセイ
このタイプの敵を考える場合、攻防を楽しむというよりも、プレイヤーが利用できて楽しいと思える一芸を身に着けさせなくてはいけません。
プレイヤー視点から出来る要素を膨らませましょう。プレイヤーと絡ませる必要があるため、単体では完結しない点も含め難度は高めです。
マリオの敵はほぼこのタイプに当てはまります。私自身の推測でマリオの敵キャラクターの一芸をあげてみます。
クリボーの一芸は ”踏む” 踏んで倒すことが気持ちいいを目指す必要があります。実際に使われている要素の一部を上げると――
・踏むことでプレイヤーは高く飛ぶことが出来る。(利用できる要素)
・踏むことで有効なリソースを獲得できます。(利用できる要素)
・踏んだ際のSE、SFX、リアクションが気持ちよい。(爽快感を与える要素)
ノコノコの一芸は ”蹴る” 蹴ることが楽しいを目指す必要があります。実際に使われている要素の一部を上げると――
・甲羅を蹴ることで、ほかの敵やオブジェを倒したり壊したり出来ます(利用できる要素)
・蹴った甲羅の上に乗ることで、普段と異なる優れた移動が可能になります(利用できる要素)
・蹴った際のSE、SFX、リアクションが気持ちよい。(爽快感を与える要素)
多対一の遊びを作る
敵の特性を読んだ主人公の勇敢な行動例 映画「ジュラシックワールド」
このタイプの敵を考える場合、その敵の特性とは何かを考える必要があります。特性を攻略する手段を発見できたが気持ちいいにつながります。
個体では明らかに弱いですが、集団で戦うことで普段とは異なる画作り、体験が可能になります。
メジャーなキャラクターの一例と一芸を挙げます。
ゴブリンであれば、一芸は”群れとリーダー”が使えます。
・リーダーがいる間は、手ごわい集団戦を行いますが、リーダーがいなくなると途端に弱くなります。リーダーを探して倒す遊びが一番シンプルな遊びになります。
・リーダーはかくれんぼしているか、見た目での差異が少ないが行動によって気づけるなどの工夫が必要でしょう。
スライムであれば、一芸は”液体”が使えます。
・大量に沸く画作りと、液体のため炎や雷による伝播で一掃できる爽快感が作れます。
・壁からしみ込んで現れる奇襲や、大量のスライムがパイプから流れてくるスライム部屋のようなものがあっても面白そうです。
・ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドでは斬ることで属性のついた液体が飛び散るというプレイヤーが利用できる要素を使用していました。この場合はプレイヤーの遊びを増やすが主軸の敵になります。
ゲームの緩急(テンポ)を変える
このタイプの敵は作りたいシチュエーションを作成するのに必要になります。代表敵で言えば、メタルスライムやテレサやミミックを上げることが出来ます。
このタイプの敵の一芸を考えるのに必要なのは、プレイヤーの心にどう響かせたいかです。彼らの滞在時間を延ばしたいのか、早く追い出したいのか、歩かせたいのか、走らせたいのかなど心情に直接訴える必要があります。
メタルスライムであれば、一芸は”当たり”が使えます。
・その周囲をもっと探索したいと思わせることが可能になります。
・何もせずに報酬が得られては、面白くないので、可能な限り、頑張って倒そうと思わせる内容にする必要があります。
テレサであれば、一芸は”止める”が使えます。
・プレイヤーの動きを止めさせて、見ることでどう攻略すべきかを考える時間を与えます。
・テレサの動きを任意のタイミングで止めることで、逆利用していけない場所に行くこともできます。
※テレサは作品によって倒せませんが、その場合、敵というよりもギミックに近いです。
ミミックであれば、一芸は”ビックリ”が使えます。
・驚かせることで、緊張感の緩みを一気に締めることができます。
・気づいているユーザーをビックリさせようとするのは不愉快なので、バレたら倒される必要があります。
強敵の一芸の持たせ方
カプコンより、全世界で売れた強敵かギミックボスしかほぼいない名作 モンスターハンターワールド
強敵とは、個体での戦闘を前提とするプレイヤーの技術で戦うことが楽しい敵です。何かすることで有利にはなれど、それだけでは勝つことはできません。プレイヤーが手ごたえを感じるバランス調整が売りになります。
彼らが持つべき一芸とは、彼ら自身の強みであり怖さです。プレイヤーはこの強さの解を発見により克服することで、自身が強くなったという手ごたえを獲得することが出来ます。彼らを強敵たらしめているものが何かを考えましょう。
このタイプの敵の比率が高いほどコア層向けのゲームになります。
※パラメータで強いだけの敵は強敵ではありません。尺稼ぎです。
※該当する敵の例
・スーパーマリオオデッセイ:いません
・ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド:ライネル、ガーディアン
・モンスターハンターワールド:一部除いてほぼ全員
・Left 4 Dead 2 :特殊感染者
一例として騎士、魔法使い、盗賊、僧侶といった
よくあるパーティで考えてみましょう。
騎士であれば、一芸は”構え”が使えます。
武器を普段と異なる姿勢で構えるだけで、武術をしっかりと学んだ達人感が見た目に出ますし、構えから飛び出すアクションが”ヤバい”のはすごくわかりやすいです。プレイヤーはこの構えからの攻撃を見切ることで、勝利することが出来ます。
魔法使いであれば、一芸は”ヤバい魔法”が使えます。
近づかれたら魔法使いは基本的に負けです。ただし、遠距離では非常に強いです。魔法の内容に応じてプレイヤーはどう避けるのが正解か考えて立ち振る舞う必要があります。
盗賊であれば、一芸は”アクロバット”が使えます。
回避に優れ、攻撃をあてるのが困難です。明確なスキを突かれたら死んでいただいて結構ですが、隙をしっかりと見切れなければ倒すことは難しいです。また、そういった敵に対して有効なアクションがあるとよいでしょう。
僧侶であれば、一芸は”狂信者”が使えます。
コンセプト段階でヤバい、怖いが成立していて良い一芸に感じます、あとは忠実に作りましょう。ネタとしては、信仰に当たるアクセサリが本体。自身の身を省みない。盲目などやりようはいくらでもあります。
ボスの一芸の持たせ方
ボス敵は従来の敵とは異なるゲーム性をもった敵である必要があります。他の敵と戦った印象が同じであればボスとしては成立しません。普段とは違う楽しさが必要になります。
そのための手段として、ボスだけに許された専用システムの導入が1つは必要です。解法もユーザーが発見により対策が取れるようにする必要があります。ボスごとに用意された専用システムが彼らの一芸となります。
特別なシステムの例
おにごっこ、かくれんぼ、弾幕展開、超巨大、ワープ、分身、潜る、飛ぶ、大集団、特定のオブジェが弱点、強制スクロール、時間制限、マップギミック、見た目変化
面白いボスを作りたければ、似たような敵は使えず、ゲームに合わせて特化構成を練る必要があります。これだ!という例はありません。
作成難易度もボス級です。作成者のセンスが完全に出るため、失敗する可能性も高いです。困難な場合は、強敵の出来の良いものをボスと言い張るのも一つの手です。失敗したボスは目も当てられませんし、最悪の費用対効果になります。
まとめ
・敵を作るときは、プレイヤーがその敵に勝利することは気持ちよいを目指しましょう
・敵キャラクターにはこれだという”一芸”を与えましょう 良い一芸さえ決まれば遊びを広げるのは容易です
・敵キャラクターをどういう役割として生みたいかをはっきりとさせましょう
ここまで読んでいただきありがとうございました。ゲーム作りの参考になれば幸いです。