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経産省が目論むITエンジニア「年収倍増計画」は実現できるか

平均600万円→1200万円に?

「2025年の崖」が訪れたあと…

先月7日、経済産業省が次のような資料を発表した。

〈DXレポート~ITシステム《2025年の崖》の克服とDXの本格的な展開~〉

経産省が取り組む、伝票や書類による「20世紀型業務プロセス」をITで置き換える「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の現状と今後の課題をまとめたものだが、その中に興味深い一文がある。

「2017年(IT人材平均年収)約600万円」→「IT技術者の平均年収:2017年時点の2倍以上(米国並み)」――。

つまり経産省は、エンジニアの「年収倍増計画」を温めているということだ。

 

そこには、先の資料のタイトルにもある「2025年の崖」という問題が深くかかわっている。まずはその意味を解説する必要があるだろう。

Windows7、Windows Server 2008、SAP ERP(世界標準の業務基幹ソフトウェア)のサポート終了、日立製作所のコンピュータ事業撤退、PHSとPSNT(Public Switched Telephone Network:アナログ固定電話網)の廃止。

実はIT業界では、これらすべての「大地殻変動」が、2019年から2025年にかけて待ち受けている。

コンピュータやソフトウェアは代替品に入れ替えれば済む。しかしかつて、多くの日本企業はソフトやシステムの導入の際、膨大な数の「例外処理」を組み込んでいる。OSすらカスタマイズする例が珍しくないのは、完璧主義・個別最適を追求する日本人らしい(余談だが、日本企業のクラウド化が進まない一因もここに潜んでいる)。

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PHSやPSTNが廃止されても、その頃には5Gのスマートフォンが実用化されるはずだから支障はない、というのは大きな間違いだ。クレジット与信・決済システム、POSや自動販売機の簡易ネットワークは、再構築せざるを得ない。

またJCA(日本チェーンストア協会)手順の電子データ交換システム−―つまりスーパーやコンビニのPOSなど−―も動かなくなる。当然ながら端末も入れ替えになる。

サーバーもパソコンもネットワークも入れ替えるなら、DX化するチャンス、という見方もできる。しかし2025年に辺りを見回すと、1980年代後半に業界に入ったエンジニアは還暦にさしかかり、システム開発・運用の現場から姿を消し始めている。

1980〜90年代に構築された現行システムをDXに対応させようとしても、若いエンジニアには、どこから手を付けていいか分からない。というのも前述したように、日本のシステム開発は度重なる「例外処理」で都度つどにプログラムを追加し続けてきたので、あたかも増築に増築を重ねた旅館のようになっているからだ。

そうした状況でIoTだ、AIだ、RPA(Robotic Process Automation:単純作業の自動化)だ、と号令をかけても、どうにも身動きがとれない。それを経産省は「2025年の崖」と呼んで警鐘を鳴らしているのである。

ここでようやく本題に入るのだが、先述の「IT技術者の平均年収:2017年時点の2倍(1200万円)以上」という「エンジニアの年収倍増計画」は、どこまで実現可能なのか。