メルカリは、オンラインでフリーマーケットサービスを提供する急成長企業だ。企業規模も急速に拡大しつつあり、スタッフ数は海外拠点を含めたグループ全体で1000人ほど、メルカリ本体で650人を数える(仙台と福岡にあるカスタマーサポート部署も含む)。2年前は300人程度で、特にこの1~2年で急激に増えている。
一般的に、このように企業規模と人員を急速に拡大している企業にとって、充実した福利厚生制度は人材面で重要な役割を果たす。離職率を引き下げると同時に、採用応募者数を増やす効果があるからだ。
必要なのは働けなくなるリスクを減らす支援
ここで「福利厚生制度」と書いたが、実は同社では福利厚生という言葉は使っていない。住宅手当などの制度はないが、代わりに育児や介護、保育園費用、そして妊活(妊娠に関する様々な活動)など多様で独特の支援制度を設けている。同社では、こうした制度を総括して「merci box(メルシーボックス)」と呼んでいる。
こうした制度体系を用意し、「妊活支援」などユニークな内容を設けた理由は何か。同社コーポレートプランニンググループに所属し社会保険労務士の資格も持つ横井良典氏と、新卒採用担当の奥田綾乃氏、merci boxを利用した経験に関する利用者の声をPRグループの大塚早葉氏に、それぞれ聞いた。
横井氏は、メルカリにおいて支援制度が果たす役割について「“働けなくなる”リスクを減らすためにサポートする」と明快に語る。
もちろん、同社では各種社会保険や交通費の全額支給から、業務で利用するPCなどのハードウエアの貸与、ユニークなところでは海外から入社を希望する人のためのビザ取得サポートまで、幅広い制度を用意している。
その上でmerci boxでは、そのような制度ではカバーできない「ライフステージの変化で遭遇する事案」に対応できる制度を用意している。スタッフが働けなくなるリスクを減らすのに加えて、そうした事案に遭遇していないスタッフの「将来への不安」を減らすことを目的としている。
人事支援制度で往々にして議論になるのが「導入したことで発生するコストと成果の関係が分かりにくい」ことだ。成果が予想できないから導入しない、コストに見合っているか分からないから廃止する、という話は少なからずある。
横井氏は「個人的な意見だが」と断ったうえで、「社員が離職して新たな人材を採用する場合、採用コストはもちろん、求める人材を獲得できないかもしれない。このリスクは大きい」と述べる。加えて「育児や介護で働けなくなるのは一時的なもので、新たな人材を採用して育成するコストに比べて、その時期だけサポートするコストの方が少ないと考えている」と説明する。
また、大塚氏も広報としての立場から「メルカリとしては、コスト的な動機ではなく、スタッフが働ける環境を用意するためにmerci boxを導入しているので、費用対効果の視点でチェックをすることはない」と説明している。