シャルティアが精神支配されたので星に願ったら、うぇぶ版シャルティアになったでござる 作:須達龍也
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勢いがなくなると、きついです。
「わかった。ブレイン・アングラウス。覚えといて上げるわ」
何かおかしなことを言われた気がした。
「それなりに楽しめたわ。見逃してあげるから、どっかに行きなさい」
しっしっと、追い払うようにシャルティアが手を振った。
「ははっ、そいつはどうも。ありがたく、とっとと逃げさせてもらう」
ああ、お前の言う通りだ。もう戦いにはならない。
…いや、奴と戦いにならないのは最初からだが…
腹の奥から溢れ出して来る様な喜びに、こちらの態勢が整わない。
チラリと後ろを伺うが、シャルティアはこちらを向いておず、見逃すという言葉に嘘はなさそうだった。
…いや、あそこまで言って嘘だったなどと、奴の矜持が許さないだろう。
「ははっ…はははははっ!」
逃げ場なく体の中を暴れていた喜びを、口から少しだけ逃がしてやる。
奴の、あのシャルティア・ブラッドフォールンの爪を切った!
俺の剣は……人生は決して無駄ではなかった。
更には…
…わかった。ブレイン・アングラウス。覚えといて上げるわ…
名前どころか、俺そのものすら記憶していなかった奴が…あのシャルティア・ブラッドフォールンが、俺の名前を覚えておくと言った。
蟻程度だったのが、カブトムシくらいにはレベルアップしたのだろうか、くくく…
「勝ってくれよ、モモンさんよ。今夜は是非祝杯をあげたい気分なんだよ!」
「まずは長期に渡る情報収集ご苦労だった。セバス、そしてソリュシャンよ。よくやってくれた」
イベント明けには信賞必罰…もとい、反省会。これはユグドラシル時代から変わらない。
…もっとも、向こうでは基本的に議事進行はぷにっと萌えさんに任せてれば良かったのだが…
アインズがセバスの望みを聞き、ついでにデートでもしたらどうかとからかい。
またソリュシャンの望みを聞き、人間は死ぬほどいるからいいけど、無垢な人間は駄目だよと答える。
「さて、他に何かあるか?」
そう言って、アインズが守護者達を見回す。デミウルゴスも首を横に振って特にないと示しているので、特にはないかと思ったら、シャルティアが手を挙げた。
「シャルティア、何かあるか?」
「はい。ご報告と希望がございます」
落ち着いた雰囲気でそう言うシャルティアの様子に、こちらのシャルティアよりも向こうのシャルティアの方が優秀そうに見えるなあと思いつつ…いやいや、そんなことないよ、気のせいだよと思い直す。
「麻薬部門の長の家の庭で交戦した、蒼の薔薇のイビルアイなのでありんすが…」
「ああ、あいつか」
妙にモモンに纏わりついて来た仮面を被った小柄な娘を思い出す。
「…吸血鬼でございました」
「なに? …間違いないのか?」
「間違いございません。妾が奴の仮面を取り、直接確認致しました」
証拠も十分。それ以前に、シャルティアには確信があるように伺えた。
「なるほど、そうか」
「確かに、あの小娘は人間にしてはかなり強かったですからね。むしろ納得です」
イビルアイのことを見知っている者達が、納得の表情で頷いている。
「ふむ、それで希望とは?」
「あ奴の肉体を頂きたく存じます」
「ふむ。何に使うつもりか?」
「はい。妾のこの肉体は、いずれこちらの妾に返すことになります。その際、今の妾はどうなるのかと考えまして」
シャルティアの言葉に、後回しにしてあまり考えていなかったアインズは恥ずかしく思った。
「向こうの世界に戻れるならば、それに越したことはございません。ただ、あちらにも戻れず、さりとて、こちらには居場所がないと言うのも困りますので…」
「…その為に、イビルアイの身体がいると言うことか?」
「左様にございます」
アインズは勝手にまだまだ先だと思っていたが、実際には今この瞬間に支配が解ける可能性もなきにしもあらずなのだ。
自分のこと故、自分で考えましたといわんばかりのシャルティアの様子ではあるが、本来ならばアインズが考えるべきことだと言えた。
(勝手に呼び出しておいて、支配が解けたら知りませんよって、無責任にも程があるだろう)
「…シャルティアよ、それには及ばない」
「…と言いますと?」
「こちらのシャルティアの支配が解かれたら、この私が責任を持って、お前を向こうの世界に送り返そう」
この言葉も、本来はあの時に言うべきであったと、アインズは後悔していた。
「わたし如きの為に、もったいないお言葉です」
「何を言う。それこそが私の責任だ」
…と、口では格好いい事を言っているが、シューティングスターはもったいないなあ、”強欲と無欲”でどっかで経験値を奪える機会がないかな…とか内心で思っていることは、顔には出さなかった。
「それでしたら、妾からの希望は特にございません」
「それでデミウルゴス、シャルティアを洗脳した一団の情報は、王国では得られたか?」
「王国の表と裏の戦力は、今回で洗い出しが済んだと考えて宜しいでしょう。
検分するに、世界級アイテムどころか、伝説級(レジェンド)すら怪しいですね。結論としては、王国はありえないでしょう」
「となると、帝国か法国」
「法国の確率が高いですね」
「今となっては、カルネ村で捕らえた法国の特殊部隊の尋問があまりできなかったのが痛いですね」
法国が怪しいが、それはあくまでも怪しいレベルであり、確固たる証拠はなかった。
「ふむ。では、今後のナザリックの方針を決める。デミウルゴス、我が横に」
確証の得られないものをどれだけ話したところで無駄でしかない。当初の予定通りの話に戻す。
前にシャルティアの話を聞いていた時に、ある程度覚悟ができていた為、デミウルゴスが世界征服を言い出しても、動揺することはなかった。
ただ、そんな話をいつしたかについては、さっぱりわからなかった。
デミウルゴス、そしてアルベドと、ナザリックが誇る知恵者二人の意見は、ナザリックを表に出すべきだということだった。
暗躍する…おそらく法国の…特殊部隊が裏にいる以上、表立った方が対処しやすいのは、まあ事実だ。
ナザリックを表に出す方法…それは向こうのシャルティアの話とは大きく異なり…建国するということだった。
「一つ、宜しいでしょうか」
パンドラズ・アクターが綺麗な挙手をする。
「何だ?」
「ナザリックを表に出す…建国するというのは宜しいのですが、いざそうなると、いささか手が足りなくなるのではないでしょうか?」
「様々なことに対応する必要があるから、非常に忙しくなるのは間違いないわ。もちろん、あなたにも手伝ってもらうつもりよ」
パンドラズ・アクターの問いに、アルベドが答えた。
「…となると、法国にちょっかいをかけるのは、だいぶ先になりそうですね」
「……そうね。王国と帝国の対処が終わってからになるのは、間違いないわね」
それはそのまま、シャルティアの現状維持期間の長さとなる。
「…アインズ様、私が法国に潜り込んでも宜しいでしょうか?」
「何か伝手でもあるのか?」
王国や帝国と違い、あまりに法国の情報は少ない。実力では抜きん出ていても、情報と言う面でいくらでも足をすくわれることになるだろう。
「例のエ・ランテルの事件での首謀者の一人、クレマンティーヌの足取りを追っていた際に、少し面白そうな面々を見つけました」
「ほう…」
「風花聖典という、法国の特殊部隊…六色聖典の一つのようです」
「あのカルネ村を襲った連中のように、質問三回で死ぬということはなかったのか?」
「質問をしてませんからね。こっそりとついていって、見聞きしました」
「逆に掴まされている情報ではないだろうな」
「ふっ、もどきとは言え、弐式炎雷様の姿を取っていた私に気付いていたというのはありえません」
「ふっ、良かろう。世界級アイテムを貸し出す。せいぜい掻き回して、釣り上げて見せろ」
アインズのその言葉に対し、優雅に一礼をする。
「Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)」
次回は、もっと早くお届けできるように頑張ります。