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【社説】

ドイツのヘイト 戒めるわけ思い出せ

 ドイツのメルケル首相が寛容政策を表明して三年。増える難民移民に対し、これまで、厳しく戒めてきたはずのヘイトスピーチがやまない。社会のたがが緩んでしまったのだろうか。心配だ。

 東部の工業都市ケムニッツ。八月末以来、極右らによる反難民移民デモが続き、「ドイツ人のためのドイツ」「外国人は出て行け」などの叫び声が上がる。法律で禁じられている、右手を挙げるナチス式敬礼をする者までいた。

 きっかけは難民申請者らにドイツ人男性が刺殺された事件。「被害者は女性を暴行から守ろうとしていた」との根拠のないうわさとともに、ネットでデモが呼び掛けられ、数千人規模に拡大した。

 ケムニッツは東独時代、共産主義の祖の名を取り、カールマルクスシュタットと命名されていた。

 当時、外国人といえば、ベトナムなど社会主義の友好国から招かれてきた人たちだった。市民との交流は乏しく、ねたみなど反感を生みやすい土壌もあった。

 しかし、ヘイトは旧東独地域に限らない。

 サッカーW杯ロシア大会一次リーグ敗退翌月の七月、主力のMFメスト・エジル選手(29)がドイツ代表引退を表明した。トルコ移民三世で、人種差別を理由に挙げた。大会前に、トルコのエルドアン大統領と写真に納まった。強権的なエルドアン氏へのドイツ国内の批判はエジル選手にも飛び火し、W杯敗退後に激化した。

 エジル選手は「(W杯の試合後)ドイツのファンから“消えろ、トルコのブタ”」とやじられ、「勝てばドイツ人、負ければ移民」扱いされたと訴えた。

 極右的政党「ドイツのための選択肢」が躍進し、票を奪われる既成政党のあせりも募る。

 ケムニッツの極右デモでは、取り締まる立場の憲法擁護庁長官が移民らが暴行されるネット動画を「でっち上げ」扱いした。メルケル政権は解任を決めたが、長官を擁護する連立与党への配慮から、内務次官へと昇格させ、世論の反発で「特別顧問」に改めるなど迷走している。

 ドイツは教育や法規制など社会を挙げヘイト根絶に取り組んできた。ナチ時代、ヘイトの果てに起きた暴虐を繰り返さないためだった。その決意を思い起こしたい。

 トランプ大統領の登場で、自国第一主義やポピュリズムが広がる中、寛容と協調を掲げるドイツの役割への期待は大きいのだから。

 

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