このところ、メディアで「米中貿易戦争」の話題を目にしない日はない。この「米中貿易戦争」に関する議論は論者によって色々な切り口があって面白いが、ほとんどが、「反トランプ・中国擁護論」、もしくは「中国経済崩壊論」という極論に二分される。
この問題に限らず、確かに勇ましい極論が好まれるのが最近のメディアの風潮である。そして、極論を支持する層が敵対する層に対し、SNSなどを通じて罵声を浴びせ炎上するような状況はさながら宗教戦争のようである。
このように極論を「消費」して日頃の鬱憤を晴らすというのも確かにメディアの「ニーズ」であろう。だが、会社の経営や株式投資などの意思決定をする立場の人がこれらの極論を信じるのはあまりに危険である。とりかえしのつかない損失を被るリスクも出てくる。
そこで、今回の当コラムでは、米中貿易戦争の推移をデータで確認しながら今後の状況を考えてみたい。
筆者の立場もどちらかというと「トランプ有利」派である。だが、中国経済が崩壊のリスクに直面しているとは考えない。中国経済は停滞に向かって着実に歩んでおり、この米中貿易戦争はその歩調を幾分早めているような印象を持っている。また、余談だが、「不良債権問題で崩壊する」というような陳腐なシナリオは全く想定していない。
さて、米中貿易戦争が世界経済に与える影響については様々な予想が提示されている。多くが悲観的なものであるが、悲観論は、中国側に対してというよりも米中貿易戦争を仕掛けたトランプ大統領に対する非難の意味が込められているような気がする。
だが、実際は米中両国ともそれほど大きなダメージを受けていない。
図表1、2は米中貿易の状況を示したものである。図表1は米国側からみた米中貿易だが、ドルベースでは輸出入いずれも順調に拡大している。図表2は中国側からみた米中貿易だが、2018年に入って、やや拡大ペースが鈍化している。ただ、急減というような感じではない。
この両者の違いは為替レートである。2018年に入ってから急激にドル高・人民元安が進行している。この結果、ドル建てでみた貿易金額は拡大し、人民元建てでみた貿易金額は鈍化している。
この為替レート、及び輸出入物価の変動を考慮した「実質」ベースの輸出入はいずれも拡大トレンドを維持している。「米中貿易戦争」というが、これまでのところ、実際には貿易面での影響は意外と軽微である。