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【社説】

<安倍政権に注文する>将来の不安に向き合え

 年金、医療、介護、子育て支援など暮らしを支える制度の課題は将来に安心感を持てないことだ。

 厚生労働省が二十歳以上を対象に実施した社会保障に関する意識調査でも、年金への不安が八割超、医療・介護の負担増への不安が五割を超えた(複数回答)。自民党総裁選の世論調査で期待する政策の上位に社会保障が入るのも不安の裏返しだろう。

 この不安の解消こそが社会保障改革の本丸のはずである。

 安倍晋三首相は総裁選で全世代型の社会保障制度に向けた改革を「三年で断行する」とは訴えた。だが、具体的な将来像は語らずじまいだった。

 今の社会保障は、現役世代が増え経済も右肩上がり、高齢者も少なかった時代のものだ。さまざまな給付も増やすことができた。

 だが、制度を支える現役世代や将来世代は減り、支えられる高齢者は増える時代だ。このままでいいわけはない。年金額の抑制、医療や介護の給付の削減などは避けて通れない。安倍政権は発足以来、それへの理解を得る努力が十分だったとは言い難い。

 例えば、高齢者に偏っている給付を子育て支援などに回し、全世代型に変えると言う。手薄な現役世代への支援は必要だが、全世代を厚くすることにはならない。

 財源が限られている以上、高齢者分の一部を回したり、借金で賄うしかないはずだが、その現実には頬かぶりを決め込んでいる。

 財源確保も同じだ。社会保険料だけでは限界で税財源の活用は不可欠になる。消費税率を10%へ引き上げ増税分を社会保障に充てる予定だが、十分とは言えまい。

 消費税は所得の低い人ほど負担が増す逆進性が指摘されている。所得税など税制全体で確保策を考え直す時機に来ている。誰にどれくらいの負担を求めるのか「負担の分配」の考え方を示すべきだ。

 総裁選で石破茂元幹事長は負担増も検討課題と表明、「主権者に不都合な情報も伝える」と述べた。安倍首相は三選におごらず敗者の弁も尊重する度量が要る。

 前出の意識調査では「給付水準を維持し少子高齢化による負担増はやむを得ない」「水準をある程度引き下げつつ、ある程度の負担増はやむを得ない」を合わせると男女とも四割を超えた。

 国民は負担の必要性に気付いている。どれくらいの負担を覚悟すれば将来の安心が得られるのか。それを知りたいはずだ。 

 

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