相変わらずの身勝手な主張である。トランプ米大統領の国連演説だ。大国が国際協調を放棄して利己的な行動に走れば、秩序は乱れる。看板の「米国第一主義」は米国の利益も損ねるだけだ。
 
 トランプ氏は「あなたたちの生き方や働き方に口を挟むつもりはない」と述べ、その代わりに米国の主権も尊重するよう求めた。
 
 ところが、その舌の根も乾かぬうちに、同盟国のドイツに向かって「ロシアにエネルギーを全面依存するようになってしまう」と、ロシアからの天然ガスパイプライン建設を批判した。そこには欧州へのガス供給を増やしたい米国の思惑もちらつく。
 
 他国の主権を尊重するのは、あくまで米国の利益を侵さない場合という条件が付いているようだ。
 
 大国の度量の広さも持ち合わせていない。トランプ氏は対外援助を見直す理由を「米国は世界一の援助国だが、われわれに何かを与えようという者はほとんどいない」と説明した。
 
 一番訴えたかったのは「グローバリズムの思想を拒絶し、愛国主義を信奉する」という一節。グローバル化の恩恵にあずかれなかった人々に後押しされる大統領が、米国が旗を振ってきたグローバル化への決別を宣言したのである。
 
 戦後の世界秩序を担った米国は国際機関や同盟関係、あるいは国際協定という公共財を主導して整備してきた。
 
 無論、米国の利益にかなうからでもあるが、トランプ氏はその破壊にいそしんでいる。
 
 国際機関や国際協定は、国際社会にルールを確立して各国のエゴをできるだけ抑え込む装置だ。それをないがしろにして己の利益追求に走れば、弱肉強食の世界に堕する。行き着く先は戦争である。
 
 英広報会社による主要国のソフトパワーの格付け「ソフトパワー30」で、オバマ時代の二〇一六年は首位だった米国は、三位に転落した昨年に続き今年は四位まで後退した。
 
 ソフトパワーは軍事力ではなく文化や外交力などが世界に及ぼす影響力を示す。
 
 そうした冷ややかなムードを物語る出来事が、トランプ氏の演説中に起きた。「この二年足らずで歴代のどの政権よりも多くの成果を上げた」という大げさな自画自賛に、聴衆は失笑で応えたのだ。
 
 「こんな反応は予想していなかったが、まあいいだろう」とトランプ氏は言ったが、失笑の意味をかみしめるべきだ。
 
 
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