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【社説】

日米関税交渉 粘り腰の協議続けよ

 日米は新たな通商協議入りで合意した。自動車への追加関税はひとまず回避したが、米国の圧力は続く。妥協点を探りながら米国を多国間協議に引き戻す粘り腰の通商戦略が求められている。

 日本は日米二国間の自由貿易協定(FTA)を避け、多国間交渉である環太平洋連携協定(TPP)への復帰を米国に求める戦略をとってきた。

 二国間交渉となる新通商交渉「日米物品貿易協定(TAG)」の開始は、貿易赤字削減を強く求めるトランプ大統領の圧力で方針転換を余儀なくされた結果といえる。

 それと引き換えに、交渉中は日本車を制裁関税の対象としないことで合意、日本の基幹産業である自動車への打撃をとりあえず回避した。牛肉や豚肉など農産品では、TPPで合意した水準までしか関税引き下げを認めない旨を共同声明に明記。日銀の金融政策を縛りかねない為替条項は触れられておらず、当面の時間稼ぎには成功したといえる。

 ただ、関税が対象の新通商交渉が、交渉分野の広い日米FTA交渉につながるのかどうかでは、早くも両首脳の見方が食い違っている。

 「FTAとは全く異なる」とする安倍晋三首相に対し、トランプ大統領は「われわれは今日、FTA交渉開始で合意した」と記者団に明言している。新交渉は、十一月の中間選挙、来年の参院選を控える両首脳がお互いに配慮し合った玉虫色の合意であることを示しており、年明けにも始まる交渉は難航が必至だろう。

 貿易立国である日本の経済は自由貿易体制を土台にしている。

 トランプ大統領は「グローバリズムを拒絶する」と国連で演説。米国第一主義を一段と鮮明にしているが、日本が目指すのはグローバリズムの否定ではなく、弱肉強食に陥りがちな自由貿易の欠点を修正しながら、多国間の協調体制を維持、発展させることにあることは言うまでもない。

 その要でありながら役割を果たしていない世界貿易機関(WTO)の改革で、日米欧は近く共同提案することで合意した。国家主導の経済体制が批判を浴びる中国が欧州連合(EU)とWTO改革で協議する動きもある。

 日本は米国との新通商協議に粘り強く取り組む一方で、WTO改革で主導的な力を発揮し、トランプ大統領をWTOにとどまらせる戦略的な経済外交が必要だ。

 

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