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【社説】

「新潮45」休刊 老舗の名を泣かせるな

 性的少数者(LGBT)への差別的な表現が批判された月刊誌「新潮45」が休刊する。世間の批判への反論特集がさらなる批判を浴びた。新潮社は休刊で済ませず、問題の核心の検証が必要だ。

 ヘイト本は売れる-。そんな時代なのだろう。嫌韓・嫌中など特定の民族や国などへの差別や憎悪をあおる本や雑誌がひしめく。編集者にそんな思想がなくても、売り上げが目当てで、ヘイト市場に手を出す出版社もあるという。

 「新潮45」の場合はどうだったのか。八月号でLGBTのカップルを「生産性がない」などと否定する自民党の杉田水脈(みお)衆院議員の寄稿を掲載した。むろん、多くの人々はこの原稿の中身に疑問を持ったり、差別的であると感じたのだろう。批判的な反響がわき起こった。

 すると同誌は十月号で「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と題した擁護特集を組んだ。中には「LGBTの権利を擁護するなら、痴漢が触る権利を社会は保障すべきでないのか」という趣旨の文章も掲載された。暴論だ。

 これは致命的である。作家や評論家らから抗議が起こった。社内からも、書店などからも批判の声が上がった。一連の特集について社長が「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられた」という声明を出さざるを得なかった。

 それでも批判は続き、二十五日に休刊の発表に至った。

 <ここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程において編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていた>

 新潮社側はそう説明する。確かに一九八五年の創刊からピーク時十万部あった部数は今や二万部を切る状態である。だが、「編集上の無理」とは具体的に何なのか。それが「企画の吟味や原稿チェックがおろそかになった」ことと、どうつながるのか。ヘイト化した実態がつかめない。

 東京新聞(中日新聞東京本社)にコラムを書く文芸評論家の斎藤美奈子さんも「そんなの言い訳になんないよ」と厳しく指摘する。「差別に乗じて利益を上げている以上、それは『差別ビジネス』で、普通の差別より悪質」とも。

 休刊するとしても、同社は今回の事態を招いた詳細な検証と分析はいる。新潮社は多くの文学者を世に出した名門出版社である。老舗の名を泣かさぬよう「差別ビジネス」とは決別してほしい。

 

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