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【社説】

「雨傘運動」4年 逆風にもひるまぬ熱意

 香港行政長官選の民主化を求めた二〇一四年の「雨傘運動」始動から二十六日で四年。中国は香港の「高度な自治」を形骸化させたが、「民主を失わせるな」と訴える若者の熱意は消えていない。

 学生らが香港中枢を占拠した雨傘運動が収束した後、中国が国際社会に約束した「一国二制度」を踏みにじる行為が目に余る。

 親中派が多数を占める香港立法会は、最近開通した香港と中国広東省を結ぶ高速鉄道の出入境検査のため、香港側に中国検査官が常駐できる条例を可決した。

 香港基本法は、中国官憲の香港での法執行を認めておらず、条例は「一国二制度」に違反する。

 香港と台湾は相互に代表機関を置くが、香港政府が台湾の新代表にビザを出さず、任期が切れた香港の駐台湾代表の後任も決めないという異常事態が続く。

 いずれも香港当局の決めた対応である。とはいえ、香港の自治に介入したり、台湾の孤立化を進めようとする中国の意向が働いていると見るのが自然であろう。

 中国は一四年に公表した「香港白書」で「一国二制度による自治は完全な自治ではない」と明言した。国際公約だった「高度な自治」を公に否定したといえる。

 雨傘運動後の一七年、市民の一票ではなく経済界代表らの投票による選挙で、親中派の林鄭月娥氏が長官に当選。中国は林鄭氏の統治を「社会の安定を促している」と評価した。その後、香港政府の政治が高度な自治を放棄したようなものに映ることが気がかりだ。

 最大時には十万人余がデモに参加した雨傘運動の挫折は、政治に無関心な親中派と過激な独立派の対立という社会分断を生んだ。

 だが、中国政府の干渉と香港政府の追従という逆風にもひるまず、民主を希求する若者の熱意が失われていないことが心強い。

 七十九日間に及んだ運動の最前線で、当時二十七歳のチャン・ジーウン監督がカメラを回した映画「乱世備忘 僕らの雨傘運動」が夏以降、日本各地で公開された。映画では、議論や合意の必要な「民主主義の迂遠(うえん)さ」に悩みながらも、権力者が民族を振りかざして団結を訴える危うさを感じ取る若者群像が描かれた。

 映画のメッセージは「香港の未来は市民のものだ」と読み解ける。映画のラストで若者の一人は「僕らの世代が動かないと、香港は消える」と訴えた。運動の灯は若者の心にともり続けている。

 

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